軍事政権下のミャンマーで身柄を拘束されたドキュメンタリー作家の男性に、単独インタビューした。拘束時の取り調べで暴力を受けることはなかったが、デモに参加したとする証拠写真を“ねつ造”された事実を語った。

ミャンマーで拘束のドキュメンタリー作家 その時、何があったのか?

隠し撮りされた映像には、治安当局が発砲している様子や鳴り響く銃声、そして逃げ惑う人々の姿があった。

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2021年2月、国軍がクーデターを起こし、全権を掌握したミャンマー。自由が奪われた、この国で生きる人たちの姿を記録するため、現地に赴いた、一人のドキュメンタリー作家がいる。久保田徹さん(26)。

2022年7月、首都・ヤンゴンで、市民のデモを撮影中に逮捕され、現地の刑務所に収監。拘束から3カ月半後、突如解放され11月18日、日本に帰国した。

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
暴力というものが非常に見えづらくなっている

その地で、何を見たのか…3カ月半もの間、身柄を拘束された久保田さんが、単独インタビューに応じた。

新実彰平キャスター:
3日たちましたけど、解放から。囲み会見ではまだ実感もぼんやりとしているようなとおっしゃっていましたけど、今どうですか?

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
そうですね、まだ自分でも現実になじんでいく段階、まだ途中だなという感じです。4カ月間、ちょっと現実離れした空間にいたような気がしていて、何だか、あまりにもすんなり自分がかつての生活に戻っていっているというのが、不思議な感覚になっています

新実彰平キャスター:
まず、拘束時の状況というのは、どんな取材をされていて、どのような形で拘束されたのか、教えて頂いてもよろしいですか?

なぜミャンマーに? 自由が奪われた国の現実

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
まず私がミャンマーに行った理由から話そうと思うんですけど。私が一番初めにミャンマーについて考え始めたのは高校生の頃で、たまたま、ミャンマーのイスラム教徒の民族であるロヒンギャという人々について関心を持って。ミャンマーに大学生の頃から含めると、十何回行って、いくつかの創作活動をしてきたんですね

1962年に国軍がクーデターを起こし、およそ50年もの間、軍の支配が続いたミャンマー。2011年に民政に移行し民主化を進めてきたが、2021年に再び軍によるクーデターが起こり、時間は逆戻りした。民主化のシンボルだったアウンサンスー・チーさんも、捕らわれの身となっている。

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
私の友人のミャンマー人の多くはクーデターを機に国外に逃げたんです。亡命する形で…それでも、まだミャンマーに残っている友人がいるんですね。で、僕はずっとその彼の事が気にかかっていて。何で彼はそのまだミャンマーにいなければならないのかなっていうことを、いつかちゃんと直接会いにいって伝えたいし、彼の映像を作りたいと思ったので、そのために今回は行きました

“フラッシュデモ”とは?

久保田さんは、ミャンマーに3年ぶりに行ったとき、ミャンマー軍のクーデターがあってから、ミャンマー人が抱えている不自由さや町に潜んでいる軍事政権の暴力っていうものが、非常に見えづらくなっていると感じた。

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
普段、普通に暮らしている市井の人々の暮らしというのが見えない形で、どれだけ圧迫されているのかっていうことを考えたときに、それが噴出するのが”フラッシュデモ”って言われるものだと僕は考えて

抗議デモは、場所や時間を示し合わせて、参加者が集まるのが一般的だ。ミャンマーでも、クーデターが起きた直後は大規模なデモが行われていましたが、治安当局が弾圧を強め、参加者を次々に逮捕。

銃を向け、死者が多数出る事態にまで発展したため、市民たちは少人数で秘密裏に集合し、数十秒ほどの短時間だけ声をあげる、”フラッシュデモ”を行うようになっている。

久保田さんは、SNSの匿名アカウントを使って集合した人たちのフラッシュデモを撮影しているときに逮捕されました。

拘束されたときの状況や取り調べの実態は?

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
(デモが)どこで行われるかは絶対に公にはされていない…にもかかわらず、警察がすぐに来た、待ち伏せをされていたということ。情報が漏れていた

新実彰平キャスター:
拘束されたときの状況は?

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
車から飛び出してきた当局の人物に銃を突き付けられ、「膝をつけ」というようなことを大声で言われ、言うとおりにし、手を上にあげ、膝をつきました。マスクを目にかけられ、どこに連れていかれるのか分からないまま、当局に連れていかれたのは警察署で、そこで取り調べを受けました

取り調べでは、特段、暴力的な扱いは受けなかったが、それは”外国人”だからではないかと、久保田さんは言う。

新実彰平キャスター:
取り調べの実態は?

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
殴る蹴るなどは当たり前だし、丸裸にされるというようなことも。そのような辱めを受けさせるということも聞いたことがあります

新実彰平キャスター:
一般のミャンマー国民の方が、扱いとしてはひどいものになるということですか?

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
そうですね、指を折られたという人も聞いたことがあるし、明らかに殴られて顔と目が充血して真っ赤になっている少年が(留置場に)運ばれてきたりとか。それは私自身が目にしたことです

人権を無視した警察の捜査は「暴力」だけではない。ミャンマー国軍が公開したある写真がある。久保田さんら4人が横断幕を持った写真だ。

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
警察署で捕まっているときに、そのまま呼び出されて、「これ(横断幕)を持て」と言われて、持っている状態で撮影をされました

新実彰平キャスター:
それは逮捕からどれぐらいの時間がたった時?

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
1時間、2時間の間です

新実彰平キャスター:
直後ですか!

久保田さんは取材していただけですが、デモに参加したとする証拠写真を、逮捕直後に、“ねつ造”されたというのだ。その後、開かれた裁判は、一度も言い分を聞かれないまま結審。

久保田さんは、入管法違反の罪、デモを扇動した罪、そして、国軍の迫害対象となっているロヒンギャ族を取材したドキュメンタリーが「有害な情報を広めた」とされた電気通信法違反の罪で、あわせて禁錮10年の判決を言い渡された。

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
目の前が真っ暗になるような感触は確かにありました。想像するにはかなり長い年月で…

刑務所での生活の様子

久保田さんが収監されていたのは、ヤンゴン郊外にある「インセイン刑務所」。外国人や政治家などの重要人物が入る「独房エリア」に、久保田さんも入れらた。

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
だいたい5畳か6畳ぐらいの広さがあり、そこに穴が空いただけのトイレがある。すのこのような木のベッドがあるだけの場所で。ミャンマー人は一部屋100人か200人ぐらいが入るような大部屋で暮らしているので、他の人との距離もかなり近い、すし詰めのような場所で一日中過ごさなければならなかったりする中で、一部屋の独房というのは、かなりマシな状況だったと思います

食事は3食。読書や体を動かすことが認められるなど、自由な部分もあったという刑務所生活。一方で、何かを「書く」行為は認められず、久保田さんは隠し持っていたペンと紙で刑務所での記録を残していた。

拘束から3カ月半「恩赦」で解放 日本政府の救出プランは?

拘束からおよそ3カ月半。久保田さんは他の受刑者と共に「恩赦」という形で、解放された。

新実彰平キャスター:
日本政府はどういうプランを描きながら、久保田さんを助けようとしていたのか、実際どういうふうに動いていたのか、分かる範囲でいいので教えて頂けますか?

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
日本政府は私の判決が下されてからすぐに強制退去されるような形で動いて、交渉にあたってくれた。これは確実に大使館の方々によって交渉がされた結果であり、その時に政府間で金銭のやり取りというのは全くなかったというふうに、大使館の方から聞いております

新実彰平キャスター:
つまり、政府は裁判のプロセスとか、取り調べのプロセスで、何とか抵抗して罪を軽くということはもう、あまり念頭に置いてなかったということですね

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
はい

以前に拘束された日本人も 今のミャンマーの情勢とは?

実は久保田さんの前にも、取材に携わる日本人が拘束されるケースがあった。ヤンゴンに在住していた、ジャーナリストの北角裕樹さん。2021年、デモの撮影中に身柄を拘束され、1カ月半後に日本に強制送還された。

北角さんは、今のミャンマーの情勢を、どのように見ているのか?

ジャーナリスト 北角裕樹さん:
日本では報道が少なくなっているんですけども、やはり、非常に深刻さを増している。一つは弾圧が非常に厳しい。その中で、市民たちが昨年から銃を取るようになっています。田舎の方では、村が焼かれると、そういったことが行われている、非常に深刻な状態。かつ、それを止めるはずの国際社会も力を持てていない。そういう状態だと思います

それでも人々は民主化を求める 日本人の私たちができること

現地の人権団体によると、2021年のクーデター以降、軍の弾圧によって2500人以上が殺害されている。しかし、国民が民主化を求める動きは、収まる気配がない。

ジャーナリスト 北角裕樹さん:
若者たちは10年の間、自分の夢を持ったり、留学したいとか、お金を稼いで会社をつくりたいとか、色んな夢があることが、現実の中で生きてきたわけですね。そういうのを2月1日のクーデターで奪われたことが、本当に彼らにとってはショックで、これはひっくり返さなくては自分たちの未来はないということで、みんな抵抗を続けている

最後に、久保田さんに、日本で暮らす私たちに、知って欲しいことを聞いた。

ドキュメンタリー作家 久保田徹さん:
当たり前に持っている自由や民主主義ということ。つまり、私たちが世の中に対して何かを訴えかける力を常に持っているということ。それがあまりにも、私たちがたぶん日本で暮らしていると当たり前すぎて気付かないかもしれないですね。日本にいたら非常に多くのミャンマーの人々と既に触れ合って生きているんですね。そういった人々に常に耳を傾けて欲しいし、街頭とかでもまだミャンマーの学生の方々や人々が募金を募っていたりもすると思います。まずはそういった人々の話を直接耳を傾けたりとか、声を聞きにいって欲しいなと思います

(関西テレビ「報道ランナー」2022年11月24日放送)

関西テレビ
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