近年、存在が問題視されるようになった「働かないおじさん」だが、あなたの職場にはいるだろうか?
「働かないおじさん」とは、フルタイム正社員として勤続年数を重ね、給与が高くなっているにもかかわらず、それに見合った働きをしない人を指す言葉だ。日本の大企業や公務員の50代、60代に多く、男性に偏っていることも特徴と言われている。
この「働かないおじさん」に関して、「弁護士ドットコム」が今年10月、弁護士ドットコムの一般会員1053人を対象にアンケート調査を行ったところ、約6割が「職場に『働かないおじさん(おばさん)』がいる」と回答したことが分かった。
回答者のうち、無職、個人事業主・自営業、学生をのぞいた雇用労働者767人を対象に、職場に「働かないおじさん(おばさん)」がいるかどうかを尋ねたところ、58.7%が「いる」と回答。「自分がそうだ」も4.2%あり、合計では6割(62.9%)を超えている。
職場に「いる」と回答した人に、自由回答で「働かないおじさん(おばさん)」の実態について尋ねたところ、以下のような実態が浮き彫りとなった。
「いつもパソコンを眺めているだけで、何も仕事をしないくせに仕事を頼むと『何で俺がこんな仕事やらなきゃいけないんだ』と高圧的に騒いで断る。ただ居るだけ」
「仕事がないので定時を待って帰るのだが、罰が悪いのか必ず外線電話がかかってきたふりをして出かけるから帰る。実はこの電話どこにもつながっておらず自作自演」
また「自分がそうだ」と回答した人に、自身のキャリアについて思うことを自由回答で尋ねたところ、会社や自身のスキルアップに対して、半ば、諦めを感じるような回答が寄せられた。
「やっても、やらなくても給料は、さほど変わらない。やってるように思わせられれば、給料はもらえる」(40代男性、会社員・会社役員)
「毎年新たなスキルや資格を習得するよう心掛けているが、習得したスキル等を活かせる部署に配属されたためしがない」(40代男性、公務員・団体職員)
「そろそろ若い者に仕事を任せて、自分はルーティンワークに徹したい」(50代男性、会社員・会社役員)
2割強「自分も働かないおじさんになる可能性」
「自分がそうだ」と回答した32人を除いた雇用労働者735人に対して、なぜ「働かないおじさん(おばさん)」は働かなくなったと思うかを選択式で尋ねたところ、「働いても働かなくても待遇が変わらないから」が64.2%でトップ。
「年功序列で、ある程度の給与やポジションが保証されているから」の51.3%、「職場の雰囲気がゆるいから」の32.7%と続いた。
また、自身が将来、「働かないおじさん(おばさん)」になる可能性があるかどうかについては、22.9%が「ある」と回答した。
「年功序列をやめて、給与に差をつける」を求める声が最多
無職、個人事業主・自営業、学生も含めた回答者全体に対して、社会全体で「働かないおじさん(おばさん)」が増えないために何が最も必要なのかを尋ねたところ、「年功序列をやめて、給与に差をつける」が30.2%でトップ。
「解雇をしやすくする」(16.0%)、「中高年になってからの学び直しを促進する」(14.1%)と続いた。
この調査結果について、弁護士ドットコムは「今回のアンケートに回答した人たちからは、『働かないおじさん(おばさん)』の待遇見直しを求める声が目立った」としたうえで、「ただ、待遇を見直すだけでは、仕事ができず、低待遇の『働かないおじさん(おばさん)』が増えるだけ」と指摘している。
「中高年社員の役割が見えにくくなっている現状のあらわれ」
そもそも、「働かないおじさん(おばさん)」の待遇見直しは、法的に問題がないのか? また、増やさないようにするためには何が必要なのか?
「弁護士ドットコム」の担当者に“働かないおじさん(おばさん)対策”を聞いた。
――職場に「働かないおじさん(おばさん)がいる」という回答はおよそ6割。 これはどのように受け止めている?
年功序列的な慣行が日本の会社の職場に根強く残っていることと、職場における中高年社員の役割が見えにくくなっている現状のあらわれだと捉えています。
――2割強が「自分も働かないおじさん(おばさん)になる可能性がある」と回答。 こちらについては?
自身が活躍できるキャリアパス(=キャリアを積む道)が、今の職場で見出しにくくなっていることのあらわれかと思います。
ただ、自覚がないことよりも、自覚があることの方がまだベターなので、必ずしも悲観的には捉えていません。
「待遇見直し」が無効となることも
――企業が「働かないおじさん(おばさん)」の待遇を見直すことは、法的に問題ない?
澤田直彦弁護士によりますと、会社が「働かないおじさん(おばさん)」の待遇を見直す手段としては、職務怠慢を理由に懲戒処分として減給・降格することが考えられます。
ただし、懲戒処分が認められる要件のハードルは高く、減給・降格の理由が就業規則に明記されていなかったり、問題となる行為の性質・態様や対象者の勤務歴等に照らして、重きに失する(=重すぎる)場合には、懲戒処分は無効になります。
また、職務内容に変更がない減給処分の場合、減給の幅は法律により制限されています。
一方で、会社の人事権の行使として、人事評価として、働かないおじさんを降格し、その結果、減給となる場合は、こうした制限はありません。
ただし、職務内容と等級・給与が連動した「職務等級制度」が詳細に定められているなど、人事評価制度がきちんと機能していることが前提です。
こうした人事評価制度が整備・機能していないのに降格した場合は、人事権の濫用として、降格が無効となる可能性があります。
――「働かないおじさん(おばさん)」をこれ以上、増やさないためには何が必要?
今いる「働かないおじさん(おばさん)」が活躍できるように支援するだけでなく、30代、40代の「予備軍」的な人たちが、自身のキャリアを主体的に考えて、どのようなスキルや能力で勝負していくのかを見つめ直す機会を用意することが必要です。
人手不足の一方、高齢化が進む中では、シニア層の力が社会的に求められます。
今回の調査結果で「働かないおじさん(おばさん)」と自覚している人が「習得したスキルなどを活かせる部署に配属された試しがない」と打ち明けていました。
このように、実は意欲があるのに、何らかのミスマッチが起きている場合については、適正なポジションへの配置や組織内での役割を見直すことが重要になります。意欲が低い場合についても、何がやれるのか、というスキルの再整理は必要です。
約6割が職場にいると回答した「働かないおじさん(おばさん)」。あなたの職場にもいるとしたら、まずは“待遇”ではなく、“組織内での役割”を見直してみてはいかがだろうか。「働くおじさん(おばさん)」へと変わる可能性はゼロではないだろう。