男性の育児休業制度を国が推進しているが、実際に男性が率先して育休をとろうという雰囲気はまだまだなのが実情ではないだろうか。男性が育休をとりやすい制度をつくり、育休取得率100%を達成した広島の会社を取材した。
法改正で男性の育休がとりやすく
広島市内で開かれた、「男性育休取得セミナー」。企業のトップや人事担当者向けに男性育休の機運を高めようと企画された。
この記事の画像(22枚)4月に「改正育児・介護休業法」が施行され、企業は育休を取得しやすい環境づくりや労働者へ取得するかどうか確認が必要となった。更に10月、子供が生まれた直後に休める産後パパ育休を創設。育児休業も分割して取れるなど制度が改正された。
広島県の男性の育休取得率は、24%まで伸び、全国平均の1.7倍。
セミナーに参加した経営者:
育休を取られたあとの抜けた人材をどうするかというところが、セクションごとにそんなにたくさん人数いないので、どう対応するべきかが課題
民間の調査でも、マネジメント層の8割近くが男性の育休に賛成している一方で、「人手不足で会社の業務に支障が出る」と感じる人も同じ位いる。
こうした中、こんな会社がある。
若手にアンケート、聞き取りで独自の制度をつくる
社員3800人の広島銀行は、4月以降グループ全体で育休取得率100%。
前の年までの取得率は15%程度だったが、4月から約50人が取得。急増した背景は?
ひろぎんホールディングス人事総務グループ・木下麻子担当課長:
この4月から推奨パターンを公開したのが新しい部分。推奨パターンには2種類あって一つは1カ月程度の育児休業の取得。もう一つは5日以上の育児休業プラス1カ月以上の短時間勤務を取得する。この2パターンのどちらかを原則取得する
Q:このパターンを作ると何か変わりましたか?
ひろぎんHD・木下さん:
劇的に変わりました。やはり短時間勤務が併用できるとなると、それは明日からでも抵抗なく始められる
この会社はそこに至るプロセスを重視した。
まず、入社3年目までの男性職員全員にアンケートを実施して、育児休暇を取りたいか、取るならどれくらいかをアンケートしたところ、9割以上が育休取得を望んでいた。さらに、1カ月以上の取得を希望する人が7割以上いることもわかった。
次に、実際に育児をする社員から本音を聞く会を開いた。すると…。
ひろぎんHD・木下さん:
育児休業はピンポイントでいいので、特に子供の首が座るまでは早く帰ってきてほしいという声。旦那さんの帰りを今か今かと待っている育児中の女性の切実な声が伝わる。これは制度に反映させたいと思った
こうして独自の制度が誕生。あとは、社長からのトップダウンで推進していったという。
男性の育休は夫婦関係にもいい効果が
現在育休中の的場さんは社内結婚。産後、妻と子が里帰り出産を終えたタイミングで1カ月の育休を取得した。
広島銀行・的場駿介さん:
取らせてもらって本当によかった。この育休あけても絶対良い影響与えるんじゃないか
妻・文菜さん:
本当に助かっています。ごはんだけは、どうしても作れないと言ってるが、食器の洗い物と洗濯は積極的にやってくれる
実は育休で夫婦関係が良好になる人が多いそうだ。
でも、お子さんにメロメロで仕事に復帰したなくならないだろうか?
広島銀行・的場さん:
やっぱり、ワークライフバランスが整って、ある程度育児もできるようになってきたので、仕事復帰しても仕事と育児両立しながらより仕事が頑張れるんじゃないか
働き方改革の徹底が先行
育休取得率100%の実現。そこにはもうひとつ働き方改革の徹底があった。
石井百恵記者:
午後5時です。まだ外は明るいんですが、続々と従業員の方が出てきています。
毎週水曜日は本店で働くおよそ1000人が残業をせずに帰る。
さらに、社員が体を休ませ生産性を上げる体制も整える。
ひろぎんHD・木下さん:
ここにいる従業員みんな勤務間インターバルを導入している。前の日終了した時間から次の日に働き始める時間まで必ず11時間以上開けなきゃいけないという制度を取り入れています
当初はできない人も多かったが、今では、ほぼ全員実現しているという。
広島銀行 決済サービス部・池上貴之さん:
時間が決まっているので、物事の優先順位をつける。この時間には帰ろうということで逆算して仕事をするような意識がすごい出てきた。効率性が上がった
ひろぎんHD・木下さん:
育児ばかりに制度が充実していくと、その他の病気や介護などの事情を抱えた人からすると複雑な思いがある。すべてを充実させることによって”お互い様”の企業風土が生まれる
中小企業でも推進する会社が
このような育休への柔軟な対応は、大企業だからできることという意見があるかもしれないが、中小企業でも育休を推進する会社が出てきた。
「男性育休取得セミナー」の会場で登壇していた是澤孝明さん。
アイ・エム・シーユナイテッド・是澤孝明さん:
大変だけど頑張ってねという感じで背中を教えてもらう感じで送り出してもらった
双子が生まれたのを機に今年、3カ月間の育休を取得。
是澤さんが働くのは工業用模型などを作る社員40人の中小企業。20代が半分という、若い人中心の職場のため、育休を促進している。
家族の安心につながったという男性の育休。社長は中小企業でもできると話す。
アイ・エム・シーユナイテッド・今津正彦社長:
けがと違いますから事前にいつか分かるじゃないですか。そこに向けてオフィシャルにして同じ部署、他部署の者が協力してやっていく。体制を事前に計画しますから大変だけれど大きな問題じゃない。それよりも家庭が充実してまた戻ってきてくれて、よりやる気があって取り組んでくれた方が会社の成長にもつながると思います
銀行の担当者の話にもあったが、育休だけでなく、介護休業なども同じような対応が必要で、子どもを育てやすいと同時に親など家族の介護をしやすい職場環境をつくることが「社員にやさしい」会社ということになるのでは。
育児に関しては、このようなデータもある。
世界経済フォーラムの世界の男女格差を示すジェンダーギャップ指数で、日本は146か国中116位で先進国では最低、アジアでもASEAN主要国、韓国、中国より低い結果が出ている。また、日本の男性の育休取得率は約14%で、「育児は女性」という固定観念がまだ強いのでは。育児は夫婦でという雰囲気を社会、企業で醸成することが少子化対策の観点からも必要だ。
(テレビ新広島)