米国の中間選挙は大方の予想に反して民主党が善戦したが、ニューヨークに限っては共和党の「赤い大波」に翻弄されることになった。

ニューヨーク州は米国でも民主党が支配的な地域で、知事が民主党なら州議会も民主党が安定多数を占めており、連邦上院にも定数の2人共民主党議員を送れば、連邦下院では26ある選挙区中19選挙区で民主党の議員を輩出していた。

民主党が支配的な「青い州」ニューヨーク
民主党が支配的な「青い州」ニューヨーク
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言ってみれば典型的な「青い(民主党色)州」で、今回の中間選挙ではさらに共和党の3議席を逆転させ青色を濃くする計画と言われていたが、蓋を開けてみると逆に『赤い(共和党色)大波」をかぶることになってしまった。

民主党候補者4人が共和党に逆転敗北を喫したのだ。その中には民主党下院選挙対策委員長で当選5回のショーン・マローニー議員もおり、全国的には民主党が「予想外の善戦」と評価される中で、ニューヨーク民主党がひとり党の議会運営の「足を引っ張る」ことになった。

ショーン・マローニー民主党選対委員長(本人のHPより)
ショーン・マローニー民主党選対委員長(本人のHPより)

NBCテレビの予測では、下院の議席数は最終的には共和党221、民主党214になる見通しだが、もしニューヨーク州で民主党が4議席を失わずに済んでいれば、共和党217、民主党218議席で民主党が多数派を維持できたと計算できる。

所詮は「たら、れば」の話だが、この民主党の番狂せの敗因について6日のニューヨーク・タイムズ紙電子版の「民主党はなぜ下院を失ったのか」という見出しの記事はこう分析している。

「(民主党多数の)ニューヨーク州議会は、有権者が犯罪や社会の無秩序化について何ら不安を抱いていないと判断したようだ。30年にわたって犯罪が減少し続けた結果、民主党は自己満足に陥って孤立しており、2019年に採決した保釈改革州法によってほとんどの軽犯罪と非暴力の重罪に対して保釈金制度が廃止されたことが極めて不人気だったことを認識できなかった」

中間選挙を前にした9月30日夜、ニューヨークの地下鉄L線の車内で男が乗客を刃物で殺害する事件が起きた。

ニューヨーク市地下鉄L線の事件捜査(NY Timesより)
ニューヨーク市地下鉄L線の事件捜査(NY Timesより)

一週間後に容疑者の男が逮捕されたが、その男は昨年4月に刃物で男性の腹と腕を刺し第一級暴行罪容疑で逮捕されていたことが分かった。この時検察は50000ドル(約700万円)の保釈金をかけるよう要請したが、裁判所は保釈金なしに保護司が監督する条件で保釈を決定し、男は保釈中に殺人を犯したのだった。

逮捕された犯人(New York Postより)
逮捕された犯人(New York Postより)

ニューヨーク州の保釈改革法は「金がない故に拘置所に入れられるのは不公平だ」という人道的な論拠で州法化されたものだが、制定当初から「犯罪者を野放しにする」という反対論が強かった。

特に犯罪の多いニューヨーク市のエリック・アダムス市長は、自身が民主党員であっても警察官出身で、保釈改革によって犯罪が増加したと廃止を訴えていた。

エリック・アダムス市長(本人のTwitterより)
エリック・アダムス市長(本人のTwitterより)

事実ニューヨーク市警察の統計によれば、市内の重犯罪発生率は昨年に比べて28.45%増加しているが、民主党関係者は「犯罪増加が保釈改革によるものか証拠がない」と市長の要求をはねつけてきた。

今回共和党に議席を奪われたマローニー議員の選挙区は、日本人在住者も多いニューヨーク市郊外の裕福な住宅地だ。住民の安全問題に関心が高いことが容易に想像できるが、マローニー議員は最後まで保釈改革には言及しなかったという。

ニューヨークで有権者の問題意識を汲み取れなかったばかりに下院で少数派になった民主党のバイデン政権は、これからの2年間共和党に振り回されることになりそうだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】