かつて広島県の三次駅と島根県の江津駅を結んでいた「三江線」。廃止された今、三江線の廃線跡から絶景を見られるイベントが…!鉄道を愛するテレビ新広島の野川諭生アナウンサーが、全国10万人の鉄道ファンへ熱い思いを込めてリポートする。
116段の階段を上る”天空の駅”
中国山地の山間部に位置し、のどかな景色が広がる島根県の邑南町。秋が深まり、山々は紅葉の見ごろを迎えている。

野川アナ:
JR三江線の宇都井駅に来ております。どこに駅があるの?という感じですが…なんと、あの見上げた先に駅があるんですね!今から行ってみましょう

野川アナ:
こちらが駅の入り口です。階段ですよ!エレベーターはございません!

地上から20メートルの高さにある宇都井駅は、広島県の三次駅と島根県の江津駅をつなぐ三江線の駅の1つ。116段もある階段を地道に上っていく。

階段を上るにつれ変わる景色を楽しみながら、テンションもどんどん高くなる野川アナ。一方、あとを追うディレクターは息切れ状態…。階段の踊り場には地元の小学生が”残りの段数”を書いた絵が張られていて、元気をもらえる。

あと6段。鉄道ファンの間で”天空の駅”と称される宇都井駅のホームはもう目の前だ。すでに廃線となっているため、普段は一番上の待合室までしか入れない。だが今回は特別に許可をもらって、いざホームへ!
野川アナ:
うおー!いい眺め

宇都井駅のホームからは美しい自然が一望できる。しかし、なぜこんな高さに駅をつくったのだろう。
野川アナ:
両端を山で挟まれ、トンネルとトンネルをつなぐ形で高架を通してあるので、ここに駅を作るとしたら特異な構造にするしかなかったんですね

野川アナ:
三江線は広島県の三次駅と島根県の江津駅を結び、三次と江津の頭文字をとって”三江線”。江の川沿いに走っていたので、線路の形があまりよくなくてスピードが出せない路線でした

廃線跡を走るトロッコ列車の旅
三江線は2018年4月1日、全線廃止となった。「本当は廃止になる前に来たかったんですけど、私は2019年1月に新潟から広島に来たので間に合わなかったんですよね…」という野川アナ。そこで、今回は野川アナの夢を叶えることに!
ディレクターの指示で、宇都井駅のホーム先端へ向かって歩いていくと…
野川アナ:
ちょっと、あそこに何か見えますよ

廃線となった三江線が復活したかのように、線路上にトロッコ列車が…

11月中旬に三江線をトロッコ列車で走るイベントが行われる。この日、野川アナはイベントよりひと足先に体験させてもらえることに。プロジェクトを担当する江の川鐵道・佐々木 創さんと森田一平さんに、さっそく”鉄オタ知識”を披露した。
野川アナ:
こちらのトロッコ列車、車両のデザインはレールバスですよね?

トロッコ列車のモデルになっているのは、かつて三江線を走っていたレールバス。レールバスとは、バスなどの自動車をベースに造られた小型の鉄道車両。当時のデザインを再現したトロッコ列車なのだ。
野川アナ:
「チモハ」は形式番号。この列車がどのような動力で動いているかということと、車両の種類をカタカナで表しています。「チ」=蓄電池、「モ」=モーター、「ハ」=普通車という意味ですね

江の川鐵道・森田一平さん:
詳しいですね

江の川鐵道・佐々木さんが運転するトロッコ列車へ乗り込み、いよいよトロッコ列車の旅へ。
野川アナ:
それでは出発進行!行ってきます

鉄橋の途中に「島根・広島」の県境が
島根県の宇都井駅から広島県の三次方面へ向かって、トロッコ列車の旅を満喫。野川アナはお尻に伝わる振動に興奮気味だ。
野川アナ:
おーすごい!線路の継ぎ目の振動が直にお尻に来る感じ、いいですね!

トロッコ列車は2021年からトンネルの先へも行けるようになった。宇都井駅を過ぎ、トンネルの中へ…

トンネルの先には、一体どんな景色が待っているのか?
野川アナ:
うわー!景色がいいですね

トンネルを抜けると、全面のパノラマが広がった。青い空と美しい山。見下ろせば、陽の光を反射して穏やかに流れる江の川。心地よい振動と爽やかな風…。トロッコ列車でなければ味わえないワクワク感がある。

鉄橋を渡る途中で、あるものを発見した。

江の川鐵道・佐々木 創さん:
ここが県境です。イベントなどでお客様に乗っていただく時も、一度ここで止まって「県境ですよ」ってアナウンスさせていただいています

江の川鐵道・佐々木 創さん:
三江線がなくなって寂しいなって感じている方が多いんですよ。本来なら走るはずのない路線をトロッコで走って、この情景を見て「うわぁ」って思ってくださる地元の方も結構います
鉄道ファンの憧れ! 線路上で記念撮影
鉄橋の県境を越え、トロッコ列車はこの先の柳原トンネルの前で停車。ここで、野川アナに歓喜のサプライズが待っていた。なんと、列車を降りて線路上を少し歩くことができる。廃線跡だからこそできる体験だ。

野川アナ:
楽しいよー!めちゃくちゃ楽しいです。足元のバラスト(線路などに敷く砂利)の感触も廃線跡でないと味わえないので

トロッコ列車で渡ってきた鉄橋を背景に、乗車客は写真を撮ることができる。もちろん野川アナも二つ返事で記念撮影。写真に写る自分の顔を見て…

野川アナ:
表情が完全に”ただの鉄道ファン”になってますね。だって、こんな写真なかなか撮れないですから!
無邪気にはしゃぐ野川アナに、ここで森田さんから鉄道クイズ。
江の川鐵道・森田 一平さん:
この鉄橋、単線なのにレールが4本あるのわかりますか?なぜ、4本のレールがあるでしょう?

野川アナ:
これは脱線防止ガードですね

江の川鐵道・森田 一平さん:
正解です。「ガイドレール」と呼ばれるものですね

ガイドレールとは車輪がはずれないように導くレールのこと。森田さんは「4本のレールが写るので、ちょっと不思議な写真になる」と言う。念願の三江線で記念撮影を終えた野川アナは「ずっと来たかったんです。幸せだな…」しみじみとそうつぶやいた。
廃線跡を活用して「楽しめる場所に」
三江線の廃止から4年。廃線跡をトロッコ列車に乗って観光できる貴重な体験ができるようになったのは、廃線後の町づくりを考える地元の人たちの思いがあったからだ。

江の川鐵道・森田 一平さん:
廃線というのはイレギュラーなことなんですよね。廃線から4年半かけて、ようやくここまでたどり着きました。初めはトンネルを出たところでトロッコ列車を折り返していたんですけど、私たちのプロジェクトにJRさんも共感していただいて、安全対策をしっかりやった上で2021年からこの鉄橋を渡れるようになったのです。なるべく線路をそのまま残しながら、三江線を楽しめる場所に変えていきたいなって思います

トロッコ列車が運行できる距離は伸びてきているが、今はまだ宇都井駅から柳原トンネルの前まで。県境を越えた先に、森田さんと佐々木さんの”夢の続き”がある。

江の川鐵道・森田 一平さん:
ここから先は広島県三次市になります。「ここから先もぜひトロッコを走らせてほしい」と三次市にお願いしております。それが実現すれば、次に伊賀和志駅という三次市の駅がありまして、その先に邑南町(島根県)の口羽駅があります。この先にも非常にきれいな景色が待っているので、ぜひ夢の実現に向けて頑張りたいと思います

三江線を活用したいという熱い思いで実現したトロッコ列車の旅。廃線となった今も”夢の線路”は続いている。
廃線となった三江線でトロッコ列車に乗れる貴重なイベントの予約は、江の川鐵道公式ホームページにて受け付けている。
(テレビ新広島)