「毒親」と見なされない「毒親」の危険性
アメリカでは毒親をToxic Parents と言います。
どんな親が含まれるのか。
日本同様に日常的に言葉や肉体的暴力をふるう親、性的虐待をする親、ネグレクトする親、アルコールや薬物中毒の親のことを言います。
しかしアメリカに20年以上住み子育てをしている私が危惧するのは、「毒親と見なされない毒親」の危険性です。
私がそう思うようになったきっかけは2010 年あたりから徐々に問題化したうつ病や不安障害を抱える大学生、自分の面倒をみれない学生の増加にあります。実際2013 年にAmerican College Health Association が全米153の大学、10万人の学生を対象に行った心身の健康に関する調査では、 83.7%がやることがありすぎてどうしていいかわからないと答え、79.1%が心が疲れている、59.6%がとても悲しい、55.9%がとても孤独、51%が不安障害を訴え、31%が鬱、8%が自殺を考えたことがあると言っています。
メンタルヘルス問題と「あるタイプの親」
そしてこれらのメンタルヘルス問題を抱える学生の多くが「あるタイプの親」に育てられたとする調査結果が、2010年以降続々と出てきました。それらの調査結果をまとめたSlateの記事によると2010年にキーンステートカレッジで大学一年生を対象に調査した結果、鬱や不安障害になる学生の中でも「あるタイプの親」に育てられた学生が高い割合を占める結果が出ています。2011 年にテネシー大学で行われたメンタ ルヘルスの調査でも同様の結果が出ました。
2012 にJournal of Adolescence に掲載された調査結果によると「あるタイプの親」に育てられた学生は自立に必要な人生のスキルを身につけられない傾向にあるとしています。2014年にコロラド大学で行われた調査でも「あるタイプの親」に育てられた学生はゴールを設定して達成するのに必要な行程を考え実践する実行機能が低いという結果が出ています。
「あるタイプの親」は子供の自立と幸せを奪う毒を盛っているように思いませんか?
愛ゆえの罪
子供の人生に弊害をもたらす「あるタイプの親」とはヘリコプターペアレンツ。子供の頭上をブンブンと回り、学力第一で勉強・お稽古・友達など全てをコントロールし、失敗しないようにお膳立てをし、学校に文句を言い、子供の全てに目を光らせ管理する親です。アメリカでヘリコプターペアレンツが生まれた背景には所得格差があります。
1960年代70年代は、自分が住んでいる地元の大学に行くのが普通でした。所得格差もそれほど大きくなかった当時は、きちんと勉強して地元の大学に入り、卒業したら仕事があるので、他の州の大学に行ったり、アイビーリーグに行く必要性はなかったのです。
それが80年代になり所得格差がどんどん広がって行くにつれて親の中に「エリート大学=安泰=成功を約束された人生」という構図が明確になってきました。みんながみんな目指すから、そんな人生の成功はどんどん難しくなっていったのです。
例えば1978 年のスタンフォード大学の合格率は31%でしたが、2020年は5%です。これだけエリート大学の合格は狭き門となっているから子供は受験までの18年間で失敗などしていられなくなりまし た。他の子より早く算数や読み書きをできるようにし、共通テストは満点に近く、学校の成績は満点以上を期待する。アメリカの受験はいろんなことが加味されるので、スポーツや楽器などにも精を出さないといけない。そのために親はせっせと子供の時間を管理し、失敗という無駄を省き、効率という機械作業を子供に課す。
もし自分の子育てで思い当たることがあるとしたら、それは「愛ゆえの毒親」の始まりかもしれません。
ヘリコプターペアレンツの弊害
全てを管理されるから自分で考えることがなくなり、言われたことをやるだけなので自分の意思もなくなります。お膳立てしてもらうことが当たり前だから自分では何もできない。そして大学生となって親元を離れた時に圧倒され、どうしていいか分からず、不安になり、向かう先も見えなくて心身ともに病んで行くのです。 テストの点数が上がったり賞をとったり合格したりと短期的効果が見られるから、以前は“良い子育て”のように思われていましたが、今ではメンタルヘルス問題もあり、アメリカではヘリコプターペアレンツの「弊害」に焦点が当てられるようになっています。
この見逃されがちな毒親にならないためには
1)子供が自分で出来ることは手伝わない
2)子供を通して自分のエゴを満たそうとするのをやめる
3)なんでもかんでも子供ファーストの生活をやめる
4)子供の失敗を受け入れる
以上4点が効果的な解毒剤のようです。
【執筆:ICF会員 ライフコーチ ボーク重子】
【表紙デザイン:さいとうひさし】