9月のとある土曜日。札幌市のあるスーパーでは、ものがまさに「飛ぶように」売れていた。

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井戸 和也 記者:
100グラム739円の筋子が並ぶ間もなく、次々とお客さんの手に渡ります。1本89円のトウモロコシは、箱に並ぶ前からお客さんが殺到しています

客:
安い、値段が安い

値上げが続く2022年、10月にはさらに6500品目以上もの食品が値上げされた。とどまることを知らない値上げラッシュの中、「食費を半分に」をモットーに、日夜奮闘する激安スーパーの裏側を追った。

モットーは「食費を半分に」野菜やお菓子を特売 卵など「プレゼント」も!

店長:
野菜の状況は?

スタッフ:
ものが少なくて…

札幌市西区西野のスーパー「マンボウ西野店」。40年以上前から営業を続けている。

井戸 和也 記者:
50枚入りのマスクが199円です。お米5キロで1229円!

この日は、平日の午前中にも関わらず、店内には多くの人の姿があった。

「野菜が新鮮。いろんなものが安い」「野菜が安い。(税抜き「99円」の紙を指さして)小松菜でも、他の店では100円以上する」。客がこう話すように、人気の理由のひとつは、安くて新鮮な野菜だ。

特に毎週火曜日は「野菜の日」としていて、この日はもやし1袋19円、白菜は4分の1カットで49円で販売されていた。

ほかにも小さいお子さんがいる家庭に人気なのが…。

客:
安い、値段が安い。火曜日はお菓子が69円なんです。

――お菓子も値上がりしていますよね?
(値上がり)します。子どもがいるのでお菓子はストックしておかないと困る。ついつい食べちゃいますけど

毎週火曜日はお菓子の特売日でもあり、普段は1個88円で販売しているスナック菓子やチョコなどが、1個69円になるという。

客:
種類がすごく多くないですか。目移りしてあれもこれも入れています

さらにマンボウでは、開店から午前9時までの間に1080円以上購入すると、プレゼントがひとつもらえる。プレゼントは4種類で、ヨーグルト・低脂肪牛乳・食パン、そして人気なのは、値上がりが続く卵だ。

営業スタイルは徹底した"客本位" 「プライベートを切り離す」

安売りにかける思いとは?店長に話を聴くことができた。

井戸 和也 記者:
UHBの井戸といいます

店長:
わたくし、マンボウの「神様」といいます

井戸 和也 記者:
「神様」ですか?

名刺にもはっきりと「神様」の文字が…。

井戸 和也 記者:
どういうことでしょうか?

店長神様さん:
マンボウに来た人、皆様が本当に毎日元気で明るく過ごしてもらいたいという思いを込めて「神様」です

スーパーのオーナーが、店長やスタッフに、店で使用する独自の「名前」をつけているのだという。

その理由は、「すべてのお客様のためにプライベートを切り離して働くため」。
パンやチーズ、惣菜などの仕入れを担当するのは「灯台」さん。
そして魚の仕入れを担当するのは女性なのに「馬之助」さん。

――なんで馬之助?
日配品仕入れ担当・馬之助さん:

それは私がつけたわけではないのでわからない。オーナーがつけてくれたので

野菜の仕入れ担当は、この道30年以上の「大番頭」さんだ。

野菜仕入れ担当大番頭さん:
最初は「番頭」だったけど、そのうち「大番頭」になって。勝手につけられました

安さの秘密は低い"利益率"  赤字でも「客が欲しいものを安く」

ほかにも創業当時から続く、マンボウ独自のルールがあった。

店長神様さん:
(一般のスーパーでは)利益率が20~30%で営業していると思う。当店は営利を最大の目的としないで、利益率は13%前後。可能な限りお客様に還元していきたい

マンボウの安さの秘密。それは、仕入れ原価に上乗せする、利益率の低さだった。

会議をする店長・神様さん(右)と、野菜仕入れ担当・大番頭さん(左)

激安情報のチラシは、新聞の折り込みで週末に配付しているため、店は土日がもっとも混雑するという。

店長・神様さん:
野菜の状況は?

野菜仕入れ担当・大番頭さん:
ものが少なくて値段も高い。大根も大きいのが少ない

お菓子仕入れ担当・一課さん:
(お菓子は)値上げが続いていて9、10月は値上げラッシュ。少しでも従来通りの安値で出せればいいと思う

この日開かれていたのは、週に1回行われる「チラシ会議」。

値上げラッシュで仕入れ原価が上がる中、何を特売品にするのだろうか?

店長・神様さん:
みなさんが欲しがっているモノ、なんだと思いますか?生筋子ですよね

今回の特売品は、北海道の旬の味「筋子」に決まった。

イクラや塩漬けにして楽しむ人が多い、秋の人気食材だ。
しかし…

鮮魚担当・馬之助さん:
生筋子の状況は厳しい。サケ自体が今年は小さい。筋子も小さいからみなさん「大きな粒がほしい」とおっしゃるけれども、なかなか大きいのは。神様が言うような値段を出すとなると、かなりの追い銭(赤字の覚悟)が必要

ここ数年の秋サケの不漁で、筋子の価格が高騰。今や100グラム1000円以上が普通だという。

店長 神様さん:
しかしながら、生筋子はみなさまが一番欲しがっている。マンボウに来たらイクラが買えると思ってくれたら、これ以上うれしいことはない

こうして、生筋子は100グラム739円で売ることに…!仕入れ原価を割ったとしても、手に取ってもらえる価格にこだわった。

結果は大盛況! “感謝しかない” “値上げ続きの今だからこそ頑張る”

チラシが出た週末、土曜日の午前9時30分。いよいよ販売開始だ。

井戸 和也 記者:
100グラム739円の筋子が、並ぶ間もなく、次々とお客さんの手に渡ります

――いくつ買いましたか?
客:
8パック

客:
1時間かけて来た。
――筋子のため?
そうです。安いので5、6個買う

生筋子を求めて、多くの人が詰めかけた。生サンマは、赤字覚悟の1匹29円。大量に買っていく人たちの姿が…。

井戸 和也 記者:
トウモロコシは箱に並ぶ前から取られています

トウモロコシやブロッコリーにも客が殺到。午前10時には、レジに長い行列ができた。買い物かごがなくなり、かごを待つ人が出るほどだ。

なぜ利益率を下げてまで激安を維持するのだろうか?

店長・神様さん:
値上がりしたからこそ、やっていかなければいけない。こんな小さな店、挙げれば欠点だらけです。それでも来ていただけることへの感謝以外の、なにものでもない。本当に大変なんですよ

値上げラッシュが続く中、地域密着の激安スーパーには、今こそ消費者を支えたいという思いがあった。

(uhb北海道文化放送)

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