「共和党過激派」だと思い込み…
バイデン米大統領が共和党のトランプ支持者たちを「ほとんどファシスト」と糾弾しているときに、18歳の青年が「共和党過激派」だと思われて車でひき殺される事件が起きた。
9月18日早朝、米国ノースダコタ州マクヘンリーで18歳のケイラー・エリングソン君が車にひかれて死亡する事件が起きた。

車を運転していたのはシャノン・ブラントという41歳の男で、事件当時は飲酒していたことも明らかになったので自動車による故殺と飲酒運転の罪で起訴された。

一方エリングソン君の母親によれば、彼はその夜はストリート・ダンスに参加していて「ブラントという男に付きまとわれているけれど、この男知っている?」と電話をしてきたので母親が車で迎えに行ったが、その間に事件は起きたという。
警察調書による事件の経緯
裁判所に提出された警察調書が公表されたが、それにはこう記されている。
「警察無線の記録によると事件を通報したのはシャノン・ブラントという人物で、歩行者が彼を脅迫したので車ではねたと言った。ブラントによれば歩行者は応援を求めたので彼らに捕まるかと恐れてひいたと証言した。ブラントは警察無線で、歩行者は共和党過激派分子なのでひいたとも証言した。(中略)」

「その後(氏名削除)がブラントの両親の家に続いて(住所削除)のブラントの家を訪れ屋外で事情を聴取し彼は当時酒を飲んでいたことを認めた。ブラントはまた歩行者とは政治論争になり歩行者が彼を捕まえるよう応援を求めたので車ではねたことを認めた。ブラントは現場には残らず、警察に通報した後帰宅したことを認めた。(後略)」

エリングソン君とブラント容疑者との間でどんなトラブルがあったのか警察が捜査中だが、今のところ目撃者がいないので政治をめぐる論争が殺人事件になった経緯は不明だ。
「共和党過激派」呼ばわりに保守系マスコミ反応
しかしこの事件、「共和党過激派」という言葉が使われたばかりにノースダコタ州のローカル・ニュースではなくなり全米の保守系のマスコミがそろって取り上げることになった。
「ノースダコタの男が政治対立の末、ティーンエイジャーを「共和党過激派」としてひき殺す」(フォックス・ニュース電子版20日)
「共和党過激派と思ってティーンエイジャーを殺害する」(ニュースサイト「ブライトバート・ニュース」20日)
「『共和党過激派』分子を理由にケイラー・エリングソン18歳はシャノン・ブラントに殺害されたー警察」(ニューヨーク・ポスト紙電子版21日)
というのも、この「共和党過激派」や「MAGA(米国を再び偉大に)派」という言葉は、中間選挙を前にしてバイデン大統領が共和党のトランプ支持者を手厳しく攻撃するのに使い始めたもので、8月25日にメリーランド州で行った集会では「彼らは怒りや暴力、偏見、分断を利用して米国を後退させている。ほとんどファシストだ」とまで批判した。
いまだに政治的に影響力の大きいトランプ氏と共和党の中道派を分断する考えのようだが、そのレトリックがあまりにも過激なので「米国社会の分断をあおっている」と共和党側から攻撃され始めていた。
今度の事件は、バイデン大統領の放った激しい口撃がブーメランのようにUターンして民主党にとって不利な材料になるかもしれない。10日から始まるノースダコタ州の地方裁判所での審理が注目されている。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】