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精神的な苦痛から逃れるために、薬を過剰摂取する「オーバードーズ=OD」。一歩間違えれば命を落とすこの危険な行為が、いま若者たちの間で広がっている。ODに依存する若者と、日々その急患に対応する病院を取材した。

人間関係や心の傷をきっかけに…ODに依存する若者たち

名古屋市の繁華街、栄。夜になると、未成年を含む10代から20代前半の若者たちが、広場や路上に集まっていた。いったい何のために集まっているのか。

男性A(19):
いじめがあったりとか、人間関係とか、心に傷を持った子たちがここに集まって、仲良くなっているっていう感じですかね

家にも、学校にも居場所がない若者たち。みな、解消されない「心の悩み」を抱えていた。

リストカットがやめられない、21歳の女性。

記者:
うわ…

女性A(21):
自傷行為
――根性焼きも?
そう。1人でホスト行きまくって、ホストにカケ作らされて、それで働かんといけんやん。風俗とかそっち系に落ちていって、体が限界でうつ病とかずっと持っとるから…。
いま切らないように頑張ってしてるんだけど、この前OD(オーバードーズ)した時にまた切っちゃって…

自らを傷つけても、癒えない心。そして手を出してしまったのが、「オーバードーズ」だった。

彼女の友人で、20歳の男性は、オーバードーズに使う薬を常に持ち歩いていた。

男性B(20):
僕はいつもこれでやってる
――これで12錠ってことは、これ…
そうそう、もっと「飛びたい」時はこれで

カプセル12錠と錠剤20錠、あわせて32錠。

他にも…。

女性B(16):
これ1セットで飲んだり。アッパーとかダウナーっていって、気分が上がるのと下がるのがある

これだけの量を一気に飲むと、気分が高まったりするという。

男性B(20):
要はお酒で酔う感覚あるじゃないですか。それの何倍かフワフワするんで。これ飲んで気分上げたりとか

女性B(16):
楽しくなりたいし、辛くなくなる

ただ、この薬はよく見てみると…。

男性B(20):
風邪薬、簡単に言ったら。せき止め

たいていの人は見たことがある「市販の風邪薬」だ。

男性B(20):
風邪薬の中にある、副作用

女性B(16):
こういう瓶タイプだったら、中から30錠出したりとか。初めてやる人は15錠とかでダウンしちゃう

若者たちの間で広がっていたのは、「市販薬」によるオーバードーズだった。

市販薬乱用が急増…背景に「情報も薬も簡単に手に入る」

国立研究開発法人が行った、薬物に依存し治療を受けた10代の患者が、どの薬物を使っていたのかの調査。
2014年までは危険ドラッグなどが多く、市販薬を使用する若者はいなかった。しかし市販薬の割合は年々増え、2020年の調査では半数以上までになっていた。
(出典 :全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査 / 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)

【ネット上の投稿】
「もう1瓶入れたい」
「OD好きな人と語りたい」

情報はネットに氾濫していて、飲んだ量を自慢しあうような書き込みまであった。情報も薬も簡単に手に入ることが、若者たちに広がった背景の1つだ。

栄で取材をしてから、1か月後。再び同じ場所を訪ね、話を聞いた。

男性C(19):
お母さんが精神障害で、目の前でわーわー、「リスカするー、死ぬー」みたいにやったりしてて…。小学生の頃からそうされていて、家出した。家に帰ってないから、ずっと

母親から逃げたというこの19歳の男性も、市販薬を使ったオーバードーズに依存していた。

男性C(19):
みんなそういう市販薬。市販薬しかないよね。じゃないと違法になっちゃうし。
みんなが買っちゃうから、買い占めちゃう。だから界隈民(ODをする若者)が「いいよ、売ってあげるよ」みたいな。
副作用とか色々ある中、この薬はちょっとで飲んでキマるから楽とかあったりもするし。だからみんな、コスパのいいものだったり、量が多いのを(選ぶ)

医師「無残な亡くなり方する薬」…致死量飲んだ患者 一刻を争う状況

市販薬とはいえ、大量摂取には危険が伴う。
中川区にある名古屋掖済会病院の救命救急センターでは、オーバードーズの患者が、1日に3件運ばれてくることも少なくない。

医師は、「死に至ることもある」と警鐘を鳴らす。

名古屋掖済会病院・須網和也 医師:
本当に多量に飲むと、命に関わるケースも中にはあります。場合によっては中毒の量がすごく多くて、心臓が止まってしまったりとか、致死的な不整脈が出ることがある

この日も22歳の女性が、オーバードーズで救急搬送されてきた。複数の錠剤をあわせて40錠飲み、部屋で倒れかけているところを家族に発見された。

飲んでいたのは、市販の薬だった。状況を把握するため、医師が患者に話しかける。

小川健一朗 医師:
わかります?おうちでも吐きました?吐いてない?救急車の中が初めて?

薬の成分が吸収されているかで、治療は一刻を争う状況になる。この患者が飲んだ量は致死量で、すでに3時間も経過。このままだと肝臓の機能が低下し死に至る可能性があった。家族は「肝移植もしてでも助けて欲しい」と切実に願った。

左近真之 医師:
まだお腹にたまっとるならね、外に出した方がええんだわ。出す時は、お鼻から管入れて胃の中洗うんですけど。ちょっと1回だけやってもええ?苦しいのやだ?

患者を救うため、医師が説得を続ける。

小川健一朗 医師:
本当に死ぬぐらい飲んでるんです。1週間ぐらいかけてだんだん悪くなって、すごく無残な亡くなり方をする、そういう薬なんですよ。それぐらい危ない薬なので今日、今しかできないから、ちょっと頑張ってください

オーバードーズを「治す薬」はない。これ以上吸収されないよう、胃の中に残っている成分を回収する「胃洗浄」を行う。鼻から管を入れて、胃液を吸い上げ、水分をいれてまた吸い上げる。何度も繰り返して、胃の中をきれいにする。

左近真之 医師:
最近、何かで悩んでることあったんですか?家族と仲悪かったり…、そういうのではない?普段から飲んでる薬があるとか、それもない?何か嫌なことがあったんですか、今日は?なんかあった?あんまり話したくない?

幸い、肝臓に影響は見られず、女性は無事退院した。

医療で治すのは限界…「社会で背景を考える」システムの必要性

患者は一命を取りとめたものの、医師たちは「症状がおさまってからが勝負」だという。

須網和也 医師:
OD(オーバードーズ)というのは、基本的に病気を治して済む問題ではないですよね。外傷とか交通事故だと、病気を治したら良くなりますけど。
家族を巻き込んだ説明、家族がいない子とかは社会を巻き込んで、精神科の先生を頼ったり、心理士さんを頼ったり、その子の背景をみんなで考えていく

ただ、病気を治す「医療」だけでは、限界を感じている。

須網和也 医師:
解決策として、病院が何かするのは、今のところなかなか難しいところがあるんですね。彼らは社会的な弱者になってくるので。隅から隅まで守るシステムは、なかなか難しいなというのが本音

命の危険を冒すOD 若者「おっさんがタバコやめられないのと同じ」

オーバードーズに依存する、若者たち。

男性D(20):
“死にたくなるのを止める薬”みたいな。
――やめられそうですか?
いや、無理っすね

女性C(16):
やめようと思えばやめられる。やめようと思わないだけ。でも、薬飲んで死にたくなる子とかもいるから、ほんと人それぞれ

男性C(19):
OD(オーバードーズ)は、なんかもう何も考えたくなかったりとか…。みんな楽しく普通に生活してるんだろうけど、お金だったり、家のことだったり、友達だったり、何かしら悩みを抱えた子が来るんじゃないんですか。
生きているおっさん方に、タバコいきなりやめろって言って逆にやめられますか?無理ですよね、それと同じですよ

命の危険を冒しながらも、依存から抜け出せない。その代償は計り知れない。

(東海テレビ)