静岡・牧之原市の「川崎幼稚園」の送迎バスの車内に、3歳の女の子が置き去りにされ、死亡した。

この事件を受けて、園児置き去り防止アプリ「QRだれドコ」を運営する浜松市の「フルティフル合同会社」が9月6日、このアプリの利用を呼びかけた。「QRだれドコ」は6月に正式にリリースされたばかりのアプリで、QRコードを持った子どもの、施設やバスへの出入をリアルタイムで知ることができる

例えば、保育園のタブレットや先生のスマホで、園児の名札の裏のQRコードを読み取ることによって、誰がどこにいるか、園のスタッフや保護者がすぐに確認可能。

インターネットに接続されたタブレットやスマホがあれば、QRコードを印刷した紙を、園児の名札の裏に入れるだけで利用でき、さらに保育園・幼稚園であれば原則無料となる。

QRだれドコ(提供:フルティフル合同会社)
QRだれドコ(提供:フルティフル合同会社)
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この「QRだれドコ」に新たな機能「バスモード」が追加され、実は8月末から試験運用が始まっている。

「バスモード」は、バスの乗降時に名札の裏のQRコードを読み取ることで、各バス停で自動点呼しつつ乗車、園に到着後も自動点呼しつつ、園児を降車させる仕組みだ。

降ろし忘れの園児がいれば、添乗者のスマホに注意メッセージが表示されるため、万が一、降ろし忘れが発生しても、バス運転手や添乗者がその場で気付くことができる。

バスモード(提供:フルティフル合同会社)
バスモード(提供:フルティフル合同会社)

少数の人の目だけではどうしても確認し忘れなどが起きてしまう可能性がある。このような仕組みがあれば、たしかに利用してみたいと考える幼稚園などは多そうだ。

開発のきっかけは「福岡の送迎バス置き去り事件」

事件後、利用の申し込みが増えているということなのだが、その反響をどのように受け止めているのか? また、「バスモード」には課題はないのだろうか?

フルティフル合同会社の代表・南野真吾さんに話を聞いた。

――改めて、「QRだれドコ」はどのようなサービス?

このアプリの目的は置き去り事故を防ぎ、保育者の確認の負担を軽減し、保護者が安心して、仕事や家事ができるようにすることです。そのために、クラウドを利用して、園児の状況を(職員個人だけでチェックするのではなく)複数の職員のスマホ、離れた保護者のスマホで確認することができるようにします。

これによって、見守りの目を複数にすることができ、万が一の時に複数の人(保護者含め)が気付けるようにします。また、園児の名札の裏のQRコードをスキャンしなければ、乗車や入園の登録できないため、担当者個人の「だろう」によるミスが入り込む余地が無いように配慮しています。


――開発した理由は?

私の家は、夫婦どちらもフルタイムで働いています。子どもは「放課後スクール」に預けなければなりません。3年前になりますが、当時、小学2年生の息子が「放課後スクール」の送迎バスに乗り遅れ、バスが行ってしまったことがありました。

先生がすぐに気付いたため、無事でしたが、あの時、先生が気付いていなかったら、夜まで置き去りになっていたのだろうか…と考えると、怖い思いがしました。その後、福岡での置き去り事件(2021年に福岡県の保育園で5歳児が送迎バスに取り残されて死亡した事件)が起きました。

「無事にバスに乗ったこと、無事に降りたこと、施設に入ったことなどを、保護者が分かる仕組みがなければならない」
「先生方だけでなく、多くの保護者も子どもを見守り、安全に協力できれば」
「見守りの目が増えればそれだけ子どもの安全が確保され、一人の先生、職員の精神的負担も減るだろう」


と考えて作ったのが、この仕組みになります。

この仕組みが広まることで、子どもの安全がより確実なものになり、保育士の先生方の精神的負担が減り、保護者が安心して、仕事や家事ができる環境になっていけばと思っています。

QRだれドコ(提供:フルティフル合同会社)
QRだれドコ(提供:フルティフル合同会社)

新たに「バスモード」を追加した理由

――「QRだれドコ」に追加され、8月末に試験運用を始めた「バスモード」。このような機能を追加した理由は?

園児・児童の状況を共有するだけでなく、バスで送迎する時に各バス停で乗降予定の園児・児童を厳密に点呼しながら、乗降させたいという要望があったためです。


――「バスモード」はどのようなサービス?

「QRだれドコ」のシステムは園児の園外活動や入園、スクールに通う児童が建物に入ったことや出たことを管理者や保護者が確認できますが、個々のバス停留所や乗降場所で点呼する機能はありませんでした。

体調などによって、突然、乗降予定の園児・児童が変わる中で、その変更を即座にバスに伝え、各バス停で確実かつ、自動で点呼、乗降させる仕組みが「バスモード」です。「バスモード」でも従来通り、管理者と保護者が子どもの入園や登下校を確認できます。


――「バスモード」の仕組みは?

その日に誰がどのバス停で乗るかをスケジュール管理表で管理し、そのスケジュールを走行中のバスとクラウドを通して共有する仕組みです。これによって、乗降予定の園児・児童が乗降できているかどうか、点呼しながら運行することができます。


――降ろし忘れの園児がいたときにバスの運転手のスマホに表示される「注意メッセージ」はどのようなもの?

すべての園児が降りると、「すべての乗降が完了しました。お疲れ様でした」というメッセージが効果音とともに表示されます。

すべての乗降が完了しました。お疲れ様でした(提供:フルティフル合同会社)
すべての乗降が完了しました。お疲れ様でした(提供:フルティフル合同会社)

降ろし忘れの園児がいる場合、その園児のニックネームが添乗の先生のスマホ上で、黄色で表示され続けることになります。この場合、当然ですが、乗降完了メッセージや効果音は出ず、残った園児を表示し続けます。

バスモード(提供:フルティフル合同会社)
バスモード(提供:フルティフル合同会社)

――バスの運転手がスマホを見ていなかった場合、降ろし忘れに気が付くことができないのでは?

添乗の先生が使う場合、先生自身がスマホを持って、園児の名札裏のQRコードをスキャンしなければならないので、「見ていない」状況は想定しにくいです。

小学生の児童がスクール帰りに自分でQRコードを、バス据え付けのタブレットにかざす場合、見ていない状況になる可能性はあります。

この場合、全員が降りない限りは、次のバス停の表示に切り替わらない、あるいは、最終の降車場所で乗降完了メッセージに切り替わらない(前の回答のように降りるべき児童が表示され続ける)ため、バス運転手は次のバス停へ運行が進められないことになります。


――「バスモード」の利用は無料?

保育園・幼稚園は試験運用後も無料です。それ以外の塾やスクールは有料です。

事件後、幼稚園や保育園から11件の申し込み

――牧之原市の事件を受け、「バスモード」への申し込みは増えている?

事件が起きた翌日の9月6日以降、バスの安全を強化したいとお考えの幼稚園や保育園から11件の無料利用の申し込みがありました。

また、保護者と思われる方々を含め、80件程度のお試し利用の登録がありました。ちなみに、今年(2022年)6月に「QRだれドコ」を正式にリリースしてから、牧之原市の事件が発生するまでの間の申し込みや利用登録はゼロでした。


――事件後の反響をどのように受け止めている?

プロジェクトを始めた時は、この仕組みが少しずつ広まっていき、将来、万が一、園児の置き去りが起きてしまった時に、この仕組みが作動して、事故にもニュースにもならずに済むということを願っていました。

今回の事件が起きて、状況は変わってしまいましたが、今は使っていただける保育園・幼稚園を増やしていく努力を重ねるしかないと思っています。

バスモード(提供:フルティフル合同会社)
バスモード(提供:フルティフル合同会社)

――「バスモード」の試験運用開始後、気付いた課題は?

以下のような課題を感じています。

・管理者が乗車予定のスケジュールにある園児を入れ忘れる
・その園児がバスに乗るときに、添乗の先生がスキャンし忘れる
・その園児がバスに置き去りにされる
・その園児の情報を共有している園の複数の先生方と保護者がその園児の現在の状況が「入園」に切り替わっていないことに誰も気がつかない

このような状況が同時に起きた場合、事故を防ぎ切れないことがあります。


――この課題を解決する手段は、何か、考えている?

ここまでミスが重なる状況となりますと、もはやシステムとしては正常に使われていないことになります。

警報ブザーも、うるさいからと言ってスイッチを切ってしまえば、機能しません。使う人がシステムに頼って、一切の確認を怠ったり、正しく使わなくなってしまった時、システムが人をオーバーライドして、解決することは極めて難しいと思います。

やはり、園児を見守る先生が主であり、そもそも、先生が正しく確認し、システムも正しく運用すること、システムは万が一、ミスが起きた時をバックアップするものという立ち位置は、今後も変わらないのではと思います。



2021年に福岡で起きた「送迎バス置き去り事件」を受けて開発された、園児置き去り防止アプリ「QRだれドコ」。またしても牧之原市で起きてしまったが、これ以上悲しい事件を起こさないためにも、多くの保育園・幼稚園などでこうした対策を進めていってほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。