「チャールズ」は縁起悪い?
英国に新国王チャールズ3世が誕生したが、英国史上二人居るチャールズという国王はいずれもその治世に混迷をもたらしたことで知られ、新国王はその名前を嫌いながらも継承しての即位となった。

初代のチャールズ1世国王は1625年に即位したが、王権神授説の信奉者で専制政治を行い議会との対立を深めて清教徒革命が起こった。クロムウエル率いる独立派に敗北して国王は断首され、処刑された唯一の英国王として歴史に名を残している。
その子チャールズ2世は亡命後、英国の王政復古でイングランドへ戻り1661年に即位したが、艶福家でオレンジ売りの娘ネル・グウィンら数多くの愛人を持ち認知しただけで14人の庶子がいたことで知られる。その好色から王位継承の混乱を招くことを懸念され、主治医のコンドーム医師が牛の腸膜を利用した避妊用具を作ったのがコンドームの語源だとする説があるほどにチャールズ王には淫乱のイメージがついて回ってきた。
「ジョージと呼ばれたい…」
その二人の国王名を継いだチャールズ皇太子は、この名前が嫌いだったと伝えられてきた。
「ジョージと呼ばれたい。チャールズ皇太子が示唆」
2005年12月24日の「ザ・タイムズ」紙電子版は、こういう見出しで皇太子の希望を伝えていた。
皇太子に近い友人たちによると、当時皇太子は名を改めるよう強く希望し、それも「ジョージ7世」としたいと言っていたという。

皇太子の祖父で、第二次対戦中ドイツ軍の空襲の中でもロンドンを離れず国民を鼓舞し続け「過去1世紀で最も愛された国王」と言われたジョージ6世にあやかろうということだった。
国王は名前を変えられる?
新国王は誕生の際にチャールズ、フィリップ、アーサー、ジョージと四つの名前を授けられているので、その一つを選ぶことができた。

祖父のジョージ6世もはじめはアルバート王子と呼ばれており、ビクトリア女王もアレクサンドリナ王女と呼ばれたことがあったので英国の王族が名前を改めることは異例ではない。
17年前の「ザ・タイムズ」紙の記事は「いずれ皇太子が新国王として即位するタイミングで名前の問題も枢密院で討議されるだろう」という関係者の話を紹介していた。
そのタイミングを迎えて枢密院の王位継承評議会が10日開かれたが、評議会はチャールズ3世という名前で即位を布告したので新国王の名称はチャールズ3世で確定したようだ。

新国王「チャールズ3世」に英国民は…
その新国王を迎える英国民の王室に対する思いは必ずしも支持一辺倒ではない。英国のシンクタンク「YouGov」が昨年5月に行なった世論調査では、国民の61%が「君主制は存続すべき」とし、「選挙によって選出される指導者が国家元首であるべき」とするものは24%だった。しかし18歳から24歳の若年層の間では君主制支持者は31%、選挙による元首選出支持者が41%と逆転した結果が出ている。

「若い英国民は王室に背を向けている」とYouGovは分析しているが、遠からず英国の君主制が揺らぐことになるかもしれない。
そうした中でチャールズ3世はダイアナ元妃との離婚問題で人気が低迷していた。また政治的中立を守ったエリザベス女王とは対照的に、イラク戦争での英軍の不十分な装備を批判したり不法移民のアフリカへの強制移送などに反対して「おせっかいな皇太子」とも呼ばれてきた。


チャールズという歴史的に問題多い国王名を継承して「二度あることは三度ある」ことにならないよう、新国王は深い配慮が求められるようだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】