鉄道での旅行において、車窓から見える風景も醍醐味の一つだろう。中でも運転席からの風景は鉄道ファンに人気で動画も多く出ている。

こうした中、埼玉県を走る秩父鉄道が公式YouTubeに貴重な路線の「前面展望動画」を投稿した。
 

それは、「秩父鉄道三ヶ尻線」。

この動画は、前編・後編に分かれており、それぞれの動画再生回数は前編約1万4000回(4月21日公開)、後編約7500回(4月28日公開)と、前編の「熊谷貨物ターミナル駅~三ヶ尻駅」までの方が注目を集めている(5月20日現在)。

この動画投稿に対して、公式YouTubeのコメント欄には「貴重な映像をありがとうございます!」「DVD化してもらえませんかね?」といった投稿が多くされているが、鉄道ファンが貴重と感激する理由がある。

路線図にない貨物路線

「秩父鉄道三ヶ尻線」は、熊谷貨物ターミナル駅~三ヶ尻駅~武川駅間の7.6キロメートルをつなぐ貨物路線だ。
熊谷貨物ターミナル駅で貨車(荷物)を受け取り、主にセメント製品に必要な原料・燃料(石灰石・石炭・重油)をセメント工場のある三ヶ尻駅まで輸送するための路線だったという。

そして、この路線は、日本唯一の石炭輸送貨車(ホキ10000形式)が今年の2月26日まで運行していたことで、マニア間では有名だそう。

貨物路線のため、旅客列車の運行はないので、路線図になく、乗客が絶対に見ることができない運転士だけが見ることができる風景なのだ。

(電気機関車がホキ10000系をけん引している様子 提供:秩父鉄道)
(電気機関車がホキ10000系をけん引している様子 提供:秩父鉄道)
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さらに「秩父鉄道三ヶ尻線」は、時代とともに荷物が減少したことなどで、熊谷貨物ターミナル駅~三ヶ尻駅までの燃料(石炭)輸送が2019年度で終了した。
それに代わる荷物の可能性もなく、老朽化した線路設備などの維持が難しいことから、2020年9月30日に、動画前編部分である「熊谷貨物ターミナル~三ヶ尻間」の廃止が決まっているのだ。つまり、今後運転士でさえ見ることができなくなる路線でもあるのだ。

ちなみに、動画後編部分に当たる「三ヶ尻~武川駅間」の石炭輸送は継続されるという。

では、そんな今しか撮影できない貴重な5分26秒の前編動画の中身を紹介していきたい。

車窓風景だけなく運転席の様子も公開

動画はタイトル通り、熊谷貨物ターミナル駅を出発したところから始まる。線路の両脇には、工場らしき建物や住宅が並んで建っている様子が確認できる。

(出発!  提供:秩父鉄道)
(出発!  提供:秩父鉄道)

40秒程ほど経つと、「運転席の様子を少しだけご覧ください」とのメッセ―ジとともに、画面の右下に小さく運転席の様子が映し出された。いくつものレバーや計器が見え、カチカチと操作する様子も見えた。

(提供:秩父鉄道)
(提供:秩父鉄道)

さらに進むと、少しずつ速度が落ちていき、大きく左へのカーブに差し掛かる。

(提供:秩父鉄道)
(提供:秩父鉄道)

その後は速度を上げ、途中で遮断機などを渡ったりしつつも、田畑が広がるのどかな風景を進んでいく。

(遮断機には多くの鉄道ファンの姿も 提供:秩父鉄道)
(遮断機には多くの鉄道ファンの姿も 提供:秩父鉄道)

次第に住宅などがちらほらと増えていき、そして工場地帯が見えてくると、目的地の三ヶ尻駅に到着した。

(前編終了  提供:秩父鉄道)
(前編終了  提供:秩父鉄道)

この風景が9月をもって、誰も見ることができなくなるわけだが、このタイミングで撮影・投稿するに至った経緯などを秩父鉄道株式会社・企画部に伺った。

自宅でも「秩父鉄道社員しかみることができない景色」を楽しんでほしい

ーー動画撮影・投稿するに至った経緯を教えて

新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛期間中、ご自宅でも秩父鉄道をお楽しみいただきたいという思いから今回の動画を撮影し、秩父鉄道社員しかみることができない景色を、ご自宅でみなさんに見て、楽しんでほしいと思い投稿しました。


ーーなぜ「三ヶ尻線」を選んだ?

秩父鉄道の特徴として、貨物列車が挙げられます。電気機関車が貨車をけん引する貨物列車は、写真を撮る方も多くいます。秩父鉄道だからこそお見せできる景色として、貨物専用線の三ヶ尻線内を走行する動画を撮影しました。

(動画撮影時に走行した電気機関車(EL504号) 提供:秩父鉄道)
(動画撮影時に走行した電気機関車(EL504号) 提供:秩父鉄道)

ーー「貴重な映像をありがとう!」といった反響に対してはどう思う?

想像以上に多くの反響をいただき、大変嬉しく思います。


ーー今回の動画に込められた思いは?

新型コロナウイルス感染拡大の影響で暗い話題が多いですが、この動画を見て少しでも明るい気持ちになっていただければ嬉しいです。終息してお出かけができるようになりましたら、みなさまのお越しを秩父鉄道社員一同お待ちしております。
 

今回の動画を投稿するために、広報担当の社員が一緒に乗車して撮影したのだという。次の動画投稿はまだ決まっていないとのことだが、「秩父鉄道や秩父鉄道沿線の景色などを感じていただけるような動画を投稿していければと考えています」と語ってくれた。
 

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プライムオンライン編集部
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