8月24日、岸田首相は、新型コロナ対策の新たな方針として、コロナに感染した人、全員の届け出「全数把握」の見直しを発表しました。

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現在「全数把握」により、すべての患者の情報を保健所に提出するよう義務づけられている医療現場。
めざまし8は、ひっ迫する医療体制と、疲弊する医療従事者の「今」を取材しました。

「ギリギリだった」ひっ迫する医療現場

「このままいくと医療崩壊がさらに裂け目が、大きくなるっていうところのギリギリだったと思います」

そう話すのは、新型コロナの検査を行っている、いとう王子神谷内科外科クリニックの伊藤博道院長。「全数把握」の見直しは、ギリギリのタイミングだったといいます。

現在、発熱外来で受診し、陽性と診断された患者の情報は、重症、軽症問わず、医療機関が保健所へ全員分、報告することになっています。

しかし今後は、届け出が必要なのは、65歳以上の高齢者や妊婦。重症化リスクや基礎疾患のある人などに限られ、そのほかの患者は、人数のみ報告する方向で見直されます。

これで、医療機関の負担は、どの程度軽減されるのでしょうか?

いとう王子神谷内科外科クリニック 伊藤院長:
大体のところで言うと10人、20人というと、(入力作業に)1時間から2時間ぐらいはやっぱりかかってしまうところなんですよね。
例えばその20人の中で、2名くらいは高齢者で重症化リスクがあると仮定してですね、残りの18人、9割の患者さんは、その後の入力業務がないってことは、単純に9割、90%楽になると、負担が減ると。

診察後も続く入力作業、意識を失いながら朝5時まで続く日も…

これまで医療機関は、厚労省の感染者情報把握・管理支援システム「ハーシス」に、陽性者の情報を入力。これにより全国の陽性者数を把握してきました。

しかし、それが医療現場の負担に…
いとう王子神谷内科外科クリニックでは、午後7時に診察が終わった後も、電話での診療やPCR検査の報告などがあり、「ハーシス」への入力作業を始めるのは午前0時近くになってから。

疲労と眠気が襲い来る中、自らほほをたたいて、入力作業を行う伊藤院長。

度々意識を失いながら作業をし、すべての入力を終え帰宅したのが朝5時になる日もあったと言います。

いとう王子神谷内科外科クリニック 伊藤院長:
睡眠時間がほとんど2時間、良くて3時間という状況になっているので、患者さんの数もかなり、絞らせてもらっているんですね。
入力業務とかなければ、1.5倍は多分診られると思うんですね。
(全数把握の見直しは)患者さんにとっても我々にとってもやっぱり大きなメリットにはなるんじゃないでしょうか。

「全数把握」見直し 都知事は“慎重” 新たな対策

医療従事者の負担が軽減される、今回の見直し。
東京都の小池知事は「何次になるかもしれない感染症に備えるという大きな観点の戦略が国には必要」と慎重な姿勢を示しました。

政府が掲げる新たな対策は、他にも発熱外来への患者殺到を減らすため、病院などに行くことなくインターネットなどでも検査キットを手に入れることができるようにする、としました。

さらに、入国時に求めているPCR検査の陰性証明書の提出について、3回目のワクチン接種を条件に9月7日から免除すると発表しました。

「全数把握」の見直しや水際対策の緩和など、新たな方針は、私たちの生活にどんな影響をもたらすのでしょうか?

「全数把握」見直しで医療現場の何が変わるのか?

岸田首相が打ち出した「全数把握」の見直し。

現在は新型コロナ陽性者の全員の情報を発生届に入力して医療機関が保健所に報告しています。しかし、見直しによって今後は自治体の判断で、高齢者の方、基礎疾患のある方、妊婦など、重症化リスクが高い患者に限定して発生届を保健所に報告するという形に。
感染者の総数と、年代別内訳の報告は引き続き継続して行われます。

医療現場でも非常に大きな負担となっている「発生届」の入力。
これまでは、65歳未満で重症化リスクの低い患者に対しては、「氏名、性別、生年月日、報告日、住所、電話番号、診断類型」の7項目を報告していましたが、これからはその発生届の報告はなくなります。
ただし、65歳以上および重症化リスクの高い患者に関しては、この7項目に加えて「診断日、採取日、発症日、ワクチン接種回数、番地など詳細な住所、氏名のふりがな」などのさらに詳細な情報を加えて提出するということです。

全数把握見直しの狙いについて昭和大学医学部客員教授・二木芳人氏はこう話します。

昭和大学医学部客員教授 二木芳人氏:
狙いは、医療現場の負担、あるいは保健所業務ですね、これを少しでも減らしていこうということだと思います。いわゆる「ハーシス」というシステムに入力すると。
今は項目が減ったんです、以前はもっと多かったんです。
大分減ったんですけども、1人の患者さんの情報を入れるだけで、5~6分かかると。
ですから20人の情報を入れようと思うと、20×5で100分ですよね。2時間近くかかると、それが今おそらく全体の10%くらいが届け出対象になるだろうから、たくさんの時間が他のことに回せると。
医療現場の負担、あるいはその部分をさらに多くの患者さんを診察するというところに向けられるので、そういう意味では大変いいことだとは思います。

Q.ゆくゆくは死者数の減少につながっていくのでしょうか?
昭和大学医学部客員教授 二木芳人氏:
そこだけではなくて、まだまだ医療現場のひっ迫とか、一部では崩壊と言われているような状況もありますよね。救急医療なんかはかなり大変な状況にあるわけです。
それを根本的に直すためには、「全数把握」の取りやめだけでは不十分だと。
しかし、それが一部の医療現場の負担を減らすことにつながるだろうという風には思います。

死者数の減少には「不十分」と話す二木氏。

24日の国内の新型コロナ感染者数は24万3483人、死者数は301人。
23日には過去最多の343人の死者数が確認され、二日連続で300人を超えているという状況です。

重症者数・死者数を比較したグラフを見てみると、第6波のピーク時は重傷者数が1507人、死者が322人だったことに対して、第7波の最多(8月22日)は重傷者数が646人、死者は343人となっています。

なぜ重症者は減っているにもかかわらず、死者は増えているのでしょうか?

昭和大学医学部客員教授 二木芳人氏:
ひとつはやはり、感染者数がとても多いですよね。
今世界で一番多いわけです、一カ月で600万近い人が新規感染者として登録されている。
そうしますと、一定数の方はそれに伴って亡くなる方が出てくるというのは当然ですね。
ただ、重症化してそれから亡くなる方が多かったのではないかと、5波くらいまではそうだったんですけども、前回の第6波くらいから少し様相が変わってきて、6波の時も重症者は少なかったけど死者数が多かったと。
今回それがより顕著になりました。ですからこれは感染者数が多すぎると。
全体像がきちんと把握できていなくて、本来適切な医療につなげれば助かるような方が亡くなっている可能性があると。
ウイルスが変わるごとに状況が変わってくるので、それに合わせた医療提供体制を考えていかなくてはいけないということです。

Q.本来ならば助かるはずの命が助かっていない?
昭和大学医学部客員教授 二木芳人氏:
そうですね、それほど多い訳ではないと思いますが、やはり医療体制が決して十分には今提供されていないわけです。
救急車を呼んでも病院がみつからない、あるいは来ないという状況が今かなり深刻になっています。ですから、そういう方々がきちんとしたタイミングで病院にお預けいただけたら「助かる」と。

昭和大学医学部客員教授 二木芳人氏:
全数把握は疫学情報として、今の感染症がどうなっているのか知るためにできるだけ多くの情報を集めた方が次の対策に生かせるわけです。
今まではそれが十分に働いてこなかったというのはあります。
ですから、いつもその辺の解析が後手後手に回ると、今回の第7波に関しても、おそらくこういうことが起こるだろうということは想定していたと思うんですが、ここまで感染者数が多くなるというところはおそらく想定外だったんですね。ですから結局対策が後手に回っていると。

色んなことを想定しながら、得体の知れない相手ですから、次は最大限こういうことになるかもしれないという想定も必要なんです。

(めざまし8 8月25日放送)