福岡・北九州市若松区にある平和資料館。館の資料を集め、設立に尽くした87歳の男性は、ロシアのウクライナ侵攻にかつての日本の姿を重ね、警鐘を鳴らす。

北九州平和資料館・小野逸郎さん:
とにかく実物を手で触って、実感として分かってもらうということで、こういう風にガラスケースの中ではなく、外に出す展示の方法をとったんです

北九州平和資料館で案内役を務める小野逸郎さん(87)が紹介してくれたのは、物資が欠乏した終戦直前、最後の総力戦に備えて「鉄」の代わりに「陶器」で作られた手榴弾。

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小野さんは戦時中、軍属だった父と共に家族で「満州」に渡り、終戦後12歳で日本に引き揚げてきた。

日本が領土拡大や資源確保を目的に、中国東北部にうちたてた傀儡国家「満州国」。
当時は、街の至る所に日本が他の民族を支配していることを示す「旗」が掲げられていたと話す。

小野さんが手にしているのは、当時の満州国旗。

北九州平和資料館・小野逸郎さん:
これはその時の満州国の旗です。結局、五族協和という名目のもとに、日本がつくり上げて日本が管理する国だった。そこを足場に、中国大陸に侵攻・侵略して行った。満州という国は日本がつくり上げた。満州が、太平洋戦争の原爆に至るまでの出発点みたいなもの

実態知り罪悪感を…資料館新設で1つの決着

戦後は中学校の教師となった小野さん。
かつて暮らした満州国の実態を知るにつれて、「当時の裕福な暮らしは現地の人たちの犠牲の上に成り立っていた」と罪悪感を覚えるようになった。

その後、戦争の実相を伝える資料集めをスタート。9年前、市民団体が運営する平和資料館の開館にこぎつけた。
さらに小野さんは、北九州市に対しても市立の資料館の新設を長年求めてきた。市民の強い要請を受けた北九州市は、2022年4月、国内最大級の兵器工場だった「小倉陸軍造兵敞」の跡地に平和資料館をオープンさせている。

「軍都」として知られた北九州市の歴史を振り返り、アメリカが当初、小倉を広島に続く第2の原爆投下目標に定めていた事実を詳しく伝えている。

来館者:
亡くなった祖母が若い頃に、小倉の(兵器)工場で働いていたので興味があった

来館者(小学生):
夏休みの自由研究で戦争のことについて調べようと思ったので来ました

来館者:
兵器を造っていた街という背景を初めて知った

北九州平和資料館・小野逸郎さん:
建物は立派ですし、いいなと思いました。そういう資料館を北九州市が持ったということについては非常にうれしいし、私たちの運動のひとつの決着、結果がひとつできたなと

一方で、小野さんは展示の中に抜け落ちているものもあると感じている。
それは、戦争の「加害者」としての視点と説明だ。

「日本軍は何をしたか」 ウクライナ侵攻に日本重なる

北九州平和資料館・小野逸郎さん:
それは日本が冒した戦争。村々を焼いたり、略奪したりという、そういうことをやったということ、それが日本の戦争だったんですね。それを忘れたかのように、なかったかのようにするというのは間違いだと。日本軍は何をしたかということを、やっぱりきちんと展示しないといけないという立場なんですね

小野さんは、ウクライナに侵攻したロシアの姿が、かつて中国東北部を占領して満州国を建国した日本と重なると話す。

北九州平和資料館・小野逸郎さん:
日本がしたことと同じことをやってるんです、ロシアが。今、ウクライナの人たちも自分の国から逃れなくてはならないという、その思いは並のものではないと思います。けど、ゆくゆくロシアの国民も戦争で死んだ自分の夫や妻や恋人、子どもたちを失ったことが後を引いて過ごさなくてはいけない訳で、それは同じことになる訳です

8月9日の長崎平和祈念式典で、「長崎を最後の被爆地に」と語った広島出身の岸田首相。

8月2日に日本の首相として初めて、ニューヨークの国連本部で開かれたNPT(核拡散防止条約)の再検討会議に出席し、核のない世界の実現を目指す強い決意を述べた。
しかしその一方で、非核保有国が結んだ「核兵器を全面的に違法化」する条約への参加には改めて否定的な考えを示した。

北九州平和資料館・小野逸郎さん:
そういう原爆の被害を受けた国民の代表である政府が、一貫して核兵器禁止条約に署名しないし、賛成もしないし、橋渡しだときれいごとでかわしてしまって、何にも役割を果たしていない。ただアメリカの核の傘の下で、アメリカに追従しているだけの形ですから。情けないというか恥ずかしいというか、やっぱり憤りの方が一番強い

実は、小野さんが案内役を務め、市民団体が運営する平和資料館は8月25日に閉館が決まっている。ただ、日本による「加害」の歴史をしっかりと後世に伝えようと、新たな資料館を別の場所につくる予定だ。
かつて侵略戦争を引き起こし、広島・長崎への原爆投下で無条件降伏した日本。
当時の悲惨な記憶が薄れ、世界に再び戦争の足音が忍び寄る今、改めて過去の過ちを真摯に見つめ直すことが必要なのではないだろうか。

(テレビ西日本)

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