安倍元首相襲撃事件以来、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の活動をめぐる論議が盛んだが、この団体が巨大なメディア組織を世界に展開していることはどう理解すべきなのだろうか。

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そのメディア組織の旗艦的な存在なのが、米国ワシントンの日刊紙「ザ・ワシントン・タイムズ」だ。同紙の会社案内のページによれば、同紙は1982年に旧統一教会教祖の文鮮明氏によって創刊された。

ワシントンにはウォーターゲート事件をめぐってニクソン大統領を辞任に追い込んだことで知られるリベラル色の強い「ザ・ワシントン・ポスト」紙があるが、「ザ・ワシントン・タイムズ」紙は逆に保守色を色濃く打ち出している。

その目的について文鮮明教祖は後に「ザ・ワシントン・タイムズは米国人に神を知らしめる責任がある」と述べ、さらに「ザ・ワシントン・ポストは世界に神の真理を広める手段になる」と言っている。(ニューヨーク・タイムズ紙電子版2002年5月23日記事「ワシントン・タイムズ紙創立20年の文鮮明の演説は古い幽霊を呼び起こした」より)

故・文鮮明教祖(2009年)

ザ・ワシントン・タイムズ紙が宗教報道をしているとは思わないが、その編集方針の基本に文鮮明教祖の思想が反映されていることは間違いないだろう。

世界平和統一家庭連合(韓国)

このザ・ワシントン・タイムズ紙から世界に情報を流しているのがUPI通信だ。

同通信はAP通信と世界を二分する有力な通信社だったが1991年倒産。当時の統一教会が出資するニューズ・ワールド・コミュニケーションズ社に買収された。その活動は縮小されたとは言え、ワシントン・タイムズ紙の情報をはじめ自主取材のニュースを引き続きインターネット配信で世界に流している。

その情報を消費者に伝えているのが同じニューズ・ワールド・コミュニケーションズ社傘下の世界のメディアだ。

米国のジャーナリズムの動向を伝えるコロンビア大学ジャーナリズム大学院が年2回発行している「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」は次のように記している。

「ニューズ・ワールド・コミュニケーションズ社 3600 ニューヨーク・アベニュー、NEワシントンDC 20002 電話 202-636-4841 ファックス 202-526-6820  ニューズ・ワールド・コミュニケーションズは文鮮明教祖の統一教会のメディア部門である。その傘下の組織として、新聞と雑誌部門ではゴルフスタイル・マガジン、ミドルイースタン・タイムズ(エジプト)、セゲイルボ(韓国)、世界日報 (日本)、ティエンポス・デルムンド(オンラインのスペイン語新聞)、ザ・ワールド・アンドアイ(月刊誌)。通信社、UPI」

つまり、世界平和統一家庭連合ー旧統一教会は米国ワシントンのザ・ワシントン・タイムズ紙を軸に、UPI通信を通じてアジアから中東、南米など世界に情報を発信する仕組みを保有しているのだ。それによって神の真理を世界に広めるという文鮮明教祖の考えを実現しようというのだろう。

宗教団体がその教義を広めるために設立、運営しているマスコミは、カトリック教会が運営するバチカンテレビジョンセンターをはじめ世界に数多い。「信教の自由」や「報道の自由」は民主主義の大原則であり、その二つの大原則に沿ったマスコミを否定することはできない。

しかし、巨大なメディア組織が特定のものの考え方を多くの人に刷り込むようなことになるのだったら対応を考えなければならないだろう。

それは、メディアを規制することではなく、読者や視聴者のメディア・リテラシー(ニュースを主体的に読み解く能力)の向上に他ならない。

そのためにもと考えて、この一文を手がけた次第だ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

記事 265 木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。