安倍晋三元首相が演説中に銃撃され死亡した事件を受けて、公益財団法人「日本AED財団」は7月14日、「安倍元総理銃撃事件に関わるAED使用について」と題した、緊急メッセージを発表した。
この中で「事件の際に施された安倍元総理への胸骨圧迫やAEDについて、多くの質問を頂いております」としたうえで、「心停止(心肺停止)であっても、AEDが有効でない場合があるのか」などの疑問に答えている。
「心停止」には大きく分けると2通り
日本AED財団によると、「心停止(心肺停止)」とは、心臓がポンプとしての機能を失い、意識や反応が無く、呼吸もない状態のことだ。そして、この「心停止(心肺停止)」には大きく分けると、2通りあるとしている。
1つは、「心臓の筋肉が(心室細動と呼ばれる重篤な不整脈などで)細かく震えてしまい、ポンプ機能を失った状態」。この状態は、心臓のリズムを電気ショックでリセットし、不整脈による心臓の細かい震えを取り除くことが出来れば、救命できる可能性が相当高いといえるという。
AEDはこの電気ショックが必要な状態(つまり心室細動による心停止)か否かを判断し、必要な時に「電気ショックが必要です」と教えてくれるのだ。
もう1つは、「心臓の働きが極端に弱くなるか、全く止まってしまった状態」。
心臓の働きとは、十分な血液を脳や全身に送ること。これが、例えば大量出血などの理由で血圧が極端に下がった場合には、その機能を果たせなくなる。全く止まってしまった状態も同じだ。
この状態でAEDを装着すると、「電気ショックは不要です」とアナウンスされる。つまり、「全ての心停止に、AEDによる電気ショックが有効なわけではない」と説明している。
そのうえで、心停止の状態の人にAEDを装着すれば、この2つのうちのどちらの状態なのかを判断し、必要な時に電気ショックをするように指示してくれるので「どのような状況でも心停止を疑ったら、ただちにAEDを使用して、その指示に従うことが必要」と呼びかけている。
また、これに加えて重要なこととして、「AEDによる電気ショックが行われた後も、救急隊が現場に到着するまで、胸骨圧迫を続ける必要がある」ともしている。
今回の緊急メッセージは、安倍元首相の銃撃事件を受けて発表されたわけだが、どのような思いがあったのだろうか?
AEDの使用率は、2010年は2.97%、2015年は4.50%、2019年は5.13%と上昇傾向にあったが、2020年は4.23%に低下している。
(参考記事:“非接触”のコロナ禍でAED使用率が低下…団体がSOS「救える命が救えていない」)
誤解が生じてはいけないと考え、緊急メッセージ
2021年も引き続き、使用率は低下しているのだろうか? 日本AED財団の担当者に緊急メッセージに込めた思いとAEDの使用率を聞いた。
――今回の銃撃事件を受け、このような緊急メッセージを出したのはなぜ?
「AEDが作動しなかった」「AEDは今回のようなケースでは機能しない」「出血による心停止ではAEDは使ってはいけない」などの誤解が生じてはいけないと考え、緊急メッセージを出しました。
――2021年のAEDの使用率は?
2021年の使用率は明らかになっていません。
――新型コロナの感染が落ち着いていた間は、使用率は多少、戻ったという印象はある?
データがないので分かりませんが、世の中の感染に対する不安は残っていますので、使用率も改善していないのではないかと懸念しています。
――改めて、AEDに関して呼びかけたいことは?
AEDを使った救命処置(胸骨圧迫と電気ショック)が迅速に実施されると、心停止となってしまった方の救命の可能性が大幅に高まります。
改めて、原因にかかわらず、心停止の状態の方(反応がなく呼吸がない、もしくは普段通りではない方)がいたら、AEDを使用してください。
AEDは電気ショックが必要か否かを判断し、教えてくれる、救命の現場で支えとなる機器でもあります。
安倍元首相の銃撃事件を受けて、改めて注目が集まった「AED」。全ての心停止にAEDによる電気ショックが有効なわけではないが、電気ショックが必要か否かを判断して教えてくれるので、心停止の状態の人が目の前にいたら迷わず使ってほしい。