心停止から人命を守る、AED(自動体外式除細動器)。一般市民でも使える医療機器だが、コロナ禍で使われにくくなり救命にも影響しているという。

こう訴えるのは、AEDの普及推進に取り組む「日本AED財団」。AEDの使用率(目撃された心停止の人に電気ショックを行った割合)は、2010年は2.97%、2015年は4.50%、2019年は5.13%と上昇傾向にあったが、2020年は4.23%に低下したという。

また、2020年は救命率(心拍と呼吸、意識が戻る率)も低下。心原性による心肺機能停止傷病者の1カ月後の社会復帰率も、近年は8~9%を推移していたが、7.5%にとどまったとのことだ。

※使用率、救命率、社会復帰率はいずれも、総務省消防庁のデータを財団がまとめたもの

救命率の年次推移(データには日本AED財団が一部追記)
救命率の年次推移(データには日本AED財団が一部追記)
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財団はこうした状況を踏まえて、公式ウェブサイトで「緊急メッセージ」を発信。市民による救命処置への参加率の低下を問題としつつ、「命や絆の大切さを見直す機会となるコロナ禍だからこそ、目の前で誰かが倒れたら、AEDを使い、救命処置にご協力下さい」と呼び掛けている。

救える命が救えていない可能性がある

目の前で人が倒れたとしたら、私たちはどう行動すればいいのだろう。救命処置の基本的な流れとコロナ禍での注意点を、日本AED財団の石見拓専務理事(京都大教授)に伺った。

――AED使用率と救命率の低下をどう思う?

深刻な問題だと思います。以前から懸念はしていましたが、数字として表れました。本来は救える命が救えていない可能性があります。AEDや胸骨圧迫(心臓マッサージ)で助かる命もあるので、今回の緊急メッセージを考えるきっかけにしていただければと思います。
 

――低下した要因にはコロナ禍が影響している?

ソーシャルディスタンス、人に接しないことが基本の考え方になったことが影響していると思われます。感染の心配があるので、他人への接触はよりためらってしまいます。コロナ禍で距離を置くことが頭をよぎり、AEDの使用や救命処置の行動が起こしにくい。感染への恐怖心や恐れが表れていると言えるのではないでしょうか。

コロナ禍での恐怖が影響か(画像はイメージ)
コロナ禍での恐怖が影響か(画像はイメージ)

――AEDの使い方と救命処置の流れを教えて。

倒れている人を発見したら「大丈夫ですか」と声をかけ、反応がなかったら119番通報とAEDを要請してください。次に胸とお腹の動きを5~10秒ほど観察して呼吸を見ます。ゆっくりと喘ぐような呼吸に見えたら「死戦期呼吸」(心停止の直後に見られる呼吸)の可能性があります。呼吸の様子がおかしい、違うと感じたら、判断に迷った時を含め、救命処置を始めてください。

AEDの基本的な使い方(提供:日本AED財団)
AEDの基本的な使い方(提供:日本AED財団)

救命処置の流れですが、胸骨圧迫とAEDの使用になります。AEDは電源を入れてパッドを貼れば電気ショックが必要かどうかを判断し、教えてくれます。電気ショックが必要な場合はAEDの指示に従い、電気ショックのボタンを押してください。電気ショックが必要ない場合でも、倒れている人の反応と呼吸がない場合には胸骨圧迫を続けてください。

救命処置の流れ(提供:日本AED財団)
救命処置の流れ(提供:日本AED財団)

日本では多くの地域で、119番通報から8~10分ほどで救急車が来てくれます。

※胸骨圧迫の方法は胸骨の下半分を、手の根元を使い約5cmが沈むくらいの深さで、1分間に100~120回のペースで圧迫する。ポイントは「強く、速く、絶え間なく」押すこと。

胸骨圧迫のポイント(大阪ライフサポート協会 PUSHプロジェクトより)
胸骨圧迫のポイント(大阪ライフサポート協会 PUSHプロジェクトより)

――胸骨圧迫とAEDはどんな役割をしている?

心停止になると循環が止まるので、全身に血液がめぐりません。代わりに血液をめぐらせるのが胸骨圧迫の役割となります。心停止の多くは心室細動という不整脈で起こります。これは心臓が興奮で細かく震え、血液を送り出すポンプ機能が果たせなくなるものです。AEDは電気ショックをかけて興奮をリセットし、もとのリズムに戻す役割があります。

感染リスクの低減を前提に…人工呼吸はどうする?

――コロナ禍での救命処置の注意点を教えて。

感染リスクを低くすることが大前提です。人工呼吸をする必要はないので、胸骨圧迫とAEDで救命処置を行ってください。プラスアルファの工夫で胸骨圧迫の前に、倒れている人の口と鼻をハンカチや布切れで覆ってください。マスクをしているならそのままで大丈夫です。基本的なことですが、救命処置に参加した後は手洗い、うがいもしっかりとしてください。

コロナ禍での救命処置のポイント(大阪ライフサポート協会 PUSHプロジェクトより)
コロナ禍での救命処置のポイント(大阪ライフサポート協会 PUSHプロジェクトより)

――人工呼吸はしなくてもいいの?

しなくても問題ありません。心停止すると血液の酸素が足りなくなり、この酸素を補うために人工呼吸が行われていたのですが、最近の研究では、多くの心停止では胸骨圧迫だけの心肺蘇生でも同等の効果があると言われています。コロナ禍では感染予防の観点からも、胸骨圧迫とAEDに集中していただければと思います。
 

――救命処置で自宅でも備えられることはある?

コロナ禍の影響でAEDの講習会が開けなくなっています。使用率の低下にも影響しているかもしれません。そのため、日本AED財団ではオンライン講習会も開いています。自宅で座布団などを使い、手軽に救命処置を学べるので参加していただければと思います。

※オンライン講習は月に2~3回、Zoomで開催している。参加は事前申し込みが必要で、日本AED財団の公式ウェブサイトから申し込める。
 

――AEDや救命処置関連で呼びかけたいことは?

日本では毎年、年間7万人以上が心臓突然死で亡くなっています。いつどこで誰に起きてもおかしくありませんし、目の前で倒れるかもしれません。胸骨圧迫とAEDで助かる命もあるので身近な人や大切な人を守るために、改めて関心をもっていただきたいです。コロナ禍では使用率が減っていることを知ってもらい、ご協力いただければと思います。

基本的な手洗い、洗顔も大切(大阪ライフサポート協会 PUSHプロジェクトより)
基本的な手洗い、洗顔も大切(大阪ライフサポート協会 PUSHプロジェクトより)

コロナ禍で他人との接触を避けたい気持ちは分かる。ただ、一瞬のためらいで救える命が失われてしまうかもしれない。感染リスクを考えると難しいが、いざという時に行動できるよう、救命処置の流れは学んでおいて損はないだろう。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。