7月10日に投開票された参議院議員選挙・新潟選挙区では、自民党の新人・小林一大氏が約52万票を獲得し当選。立憲民主党の現職・森裕子氏は圧倒的な知名度を誇りながらも、議席を失う結果となった。
4期目を目指した森氏の陣営に、いったい何があったのか。その敗因を分析した。

“姫”の勝利で築かれた新潟方式の共闘態勢… 野党王国樹立へ

森裕子氏が前回当選した2016年。新潟選挙区は定数が2から1へと減り、与野党による対決が熾烈を極めた。この選挙で、民進党・共産党・社民党・生活の党の4党が野党統一候補として擁立したのが森氏だった。

森裕子 氏
森裕子 氏
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それまでは自らの主張を貫き、武闘派のイメージが強かった森氏だが、このときは「ニュー森裕子」をキャッチフレーズに無所属で出馬し、野党各党との協調を優先。自民党の現職・中原八一氏を約2000票の僅差で退け、勝利を掴んだ。

この勝利を皮切りに、新潟では野党が共闘体制を確立。2016年の知事選・2019年の参院選で、与党の推した候補を立て続けに破ってみせた。

2017年と2021年の衆院選でも野党側が勝ち越し、かつて保守王国と呼ばれた新潟県に、野党王国が樹立された。その野党共闘のシンボルとなっていたのが森氏だ。
推薦候補の当選という成功体験をもたらした森氏を、共産党・社民党の関係者は「姫」と呼ぶこともあった。

森氏の敗因① 直近の知事選で乱れた野党の足並み

立憲民主党 森裕子 氏:
I’ll be back

通常国会が閉会した6月15日、再び国会に戻ってくることを誓った立憲の森裕子氏。
しかし、このときすでに野党の共闘体制には、ほころびが出始めていた。

そのきっかけは、5月29日に投開票された新潟県知事選挙。
共産党・社民党などが「柏崎刈羽原発の再稼働反対」を掲げる新人を推薦したのに対し、立憲最大の支持母体である労働団体「連合新潟」は自民・公明などとともに現職の支援に回った。

県知事選に立候補した現職・花角英世 氏
県知事選に立候補した現職・花角英世 氏

その連合新潟に配慮する形で、立憲は「自主投票」を決めたが、各議員が個人の判断で候補の支援を行うことは認めた。
すると森氏は、共産党・社民党などが推薦する新人候補の支援に動く。
知事選の告示日には新人候補とともに各地を巡るなど、序盤は国会対応の合間を縫って応援に駆けつけていた。

県知事選に立候補した新人・片桐奈保美 氏
県知事選に立候補した新人・片桐奈保美 氏

しかし中盤以降、新人候補の劣勢が伝わり、さらには連合新潟などから「森氏と共産党の距離の近さ」を懸念する声が上がり始める。
すると、森氏は国会対応を理由に姿を見せなくなっていた。

そして、知事選の投開票日。落選した新人候補の陣営からは、わずか1カ月後にやってくる参院選への影響を懸念する声が上がっていた。

社民党新潟県連代表 小山芳元 県議:
今までと違うのは、森さんが立憲民主党に所属している

共産党新潟県委員会 樋渡士自夫 委員長:
連合新潟の牧野会長がいる。国民民主党がいる。それを相手に共闘するわけだから

森氏の敗因② 出遅れた野党共闘態勢

2016年には無所属で出馬した森氏。
しかし、今回は立憲民主党の参院幹事長として、党の公認を得て出馬をすることになった。そこには、どうしても最大の支持母体「連合新潟」の意向が働く。
連合新潟の牧野会長は就任以来、「共産党との共闘」を否定し続けてきた人物。その連合との関係を重視した今回は、共産党への推薦の要請は見送った。

さらに、前回は各政党が横並びで森氏を支援したが、今回は選挙対策本部を立憲民主党と連合新潟で設置。共産党や社民党などが設置した野党連絡調整会議はその下に位置づける形で、選挙戦に突入した。

当初は「野党横並び」とならず
当初は「野党横並び」とならず

共産党新潟県委員会 樋渡士自夫 委員長:
対等平等と相互尊重。そこが崩れかけた

この共闘態勢の出遅れが響き、序盤戦では自民党の候補にリードを許す展開となった。

立憲民主党 西村智奈美 幹事長:
ピンチだから勝たせなきゃいけない。県内各地からお集まりいただき、ありがとうございます

立憲民主党・西村智奈美 幹事長
立憲民主党・西村智奈美 幹事長

それでも大接戦の情勢が伝わると、「野党の議席を失ってはいけない」という危機感から支援政党や団体が一堂に集まり、演説会を開くなど連携を強化。さらには…

立憲民主党 小沢一郎 衆院議員:
森君の選挙が大変厳しいと聞いているので、何とかもう一段の力添えをと思ってお願いに参った

立憲民主党・小沢一郎 衆院議員(左)と連合新潟・牧野茂夫 会長(右)
立憲民主党・小沢一郎 衆院議員(左)と連合新潟・牧野茂夫 会長(右)

森氏が「政治の師」と仰ぐ小沢一郎衆院議員が連合新潟の事務所を訪れ、支援を直接依頼するなど各政党・団体が組織の引き締めに奔走した。

そして…

立憲民主党 森裕子 氏:
異常な物価高でも何もしない。自民党岸田政権だから、岸田インフレなんです

物価高への岸田政権の対応が不十分だと批判を強め、生活に密着した問題を大きな争点に据えて支持は徐々に拡大。後半戦ではリードする展開に持ち込んでいた。

森氏の敗因③ 選挙戦最終盤に発生した安倍元首相の襲撃事件

新潟を「最重点区」と位置付ける自民党は、岸田首相や茂木幹事長をはじめとして、連日大物弁士を投入。これに森氏の陣営側は…

自民党・小林一大氏を応援する岸田首相
自民党・小林一大氏を応援する岸田首相

立憲民主党 菊田真紀子 衆院議員:
「とにかく“あの女”だけは国会に戻すな。あの顔だけは見たくない」こんなことを堂々と言うんですよ

立憲民主党・菊田真紀子 衆院議員
立憲民主党・菊田真紀子 衆院議員

森氏が相手陣営から「あの女」呼ばわりされたとして非難。戦いは今回も熾烈を極め、最終盤で無党派層をいかに取り込むかが、勝敗の大きなポイントになると思われていた。

しかし、投票日の2日前、安倍元首相が奈良県での演説中に襲撃され亡くなる事件が発生。森氏も大規模な演説会で黙とうを捧げ、訴えもトーンダウンせざるを得なかった。

立憲民主党 森裕子 氏:
残念ながら、この壮絶な権力との戦いということで守りきることができませんでした。これはすべて私の責任であり、力不足であります

自民党・小林一大氏に敗れる
自民党・小林一大氏に敗れる

森氏は抜群の知名度を誇りながら得票を伸ばすことができず、自民党の新人・小林一大氏に約7万票の差をつけられ、敗れる結果となった。

事件の影響も指摘される中、森氏は選挙戦後のSNSで…

立憲民主党 森裕子 氏(公式Twitterより):
事件のインパクトを乗り越えるだけの地力がなかった。 私の力不足です。 応援してくださった皆様に申し訳ない気持ちでいっぱいです

一方、これまで共闘体制を築き、勝利を重ねてきた野党は、共闘のあり方を見直すターニングポイントに立たされている。

立憲民主党 菊田真紀子 衆院議員:
どうあったって野党が力を合わせなければ、そもそもスタートラインに並べない。「どうやったら勝てるんですかね、野党は?」というくらいですよね

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
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