ウクライナ「EU加盟」にロシアも反対せず
ウクライナは、EU加盟でNATO同様の安全保障が約束されることになったのではないか。
欧州連合(EU)の重要課題を決する欧州理事会(EU首脳会議)が23日開かれ、ウクライナを「加盟候補国」として認めることで合意した。

EU・フォンデアライエン委員長は「ヨーロッパにとって素晴らしい日です。ゼレンスキー大統領、おめでとうございます」と話した。

これからウクライナとEUとの間で加盟交渉が始まるわけで通常ならば数年もかかるが、今回のウクライナ紛争に対するEUの一致した支援を考えると特例的に早期の加盟が実現するかもしれない。
これに関連してロシアのプーチン大統領はサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで記者団に問われると「我々は全く反対していない。EUは軍事同盟ではない。経済連合に加入するのは全ての国が持つ権利だ」(ロイター電)と言い加盟にゴーサインを出したとも受け取られている。

「EU加盟」が持つ安全保障上の意義
しかしEUは単なる「経済連合」なのだろうか。
確かにその原型は第二次世界大戦後の欧州のエネルギー不足に対応するために1952年に設立された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)で、その後欧州経済共同体(EEC)から欧州諸共同体(EC)へと発展し加盟国も増える内に冷戦が終結し、東欧の国々も加盟することになって超国家的枠組みの欧州連合として衣替えした。

その憲法的な役割を果たすリスボン条約(EU基本条約)はその前文で、「単一の制度的枠組み」という言葉で連合が国家的枠組みであることを規定し、さらには安全保障について次のように触れているのだ。
「共通防衛政策の斬新的な枠組みを含む共通外交・安全保障政策を実施することを決議した。これは第42条の規定に従って共通防衛につながる可能性があり、それにより平和と安全を促進するために欧州のアイデンティティとその独立性を強化し、欧州と世界の進歩に寄与する」
その42条の7項はこう規定している。
「加盟国がその領域に対する武力侵略の犠牲国になる場合には、他の加盟国は国連憲章第51条に従って、全ての可能な手段を用いてこれを援助し及び支援する義務を負う(以下略)」
国連憲章第51条は、安全保障理事会が措置を取るまでの間は個別的、集団的自衛権があるとしているので、たとえロシアが拒否権を行使して国連として対処できなくともEUは直ちに反撃できることになる。
ちなみにこの条文は北大西洋条約機構(NATO)の条約第5条と構成がほぼ同じで、「加盟国への攻撃は全体への攻撃とみなす」という原則がEUでも適用されることを示している。
この原則が発動されたのは、2015年11月にパリで連続テロ事件が発生した時だけで、同様にNATOの第5条が発動されたのも2001年9月の米国に対する同時多発テロ事件の際に限られており、大規模な国対国の戦争で適用されたことはなかった。
言ってみればこの原則は、覇権国家の他国への干渉を防ぐ抑止力として効果があると考えられ、ウクライナがEUに加盟を申請したのも「NATOがダメならEUで」と欧州勢の保護に期待してのことと思える。

それをプーチン大統領は「経済同盟ならかまわない」と言ったのはなぜだったのか。同大統領がEUの本質を知らないわけがない。あえて知らぬふりをしてこれを紛争解決の「落としどころ」と考えたのだろうか。
いずれにせよ、ウクライナのEU加盟問題は単に経済連合への参加以上の意味を持つことは間違いないだろう。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】