学校の現場でLGBTに配慮したジェンダーレスの制服に注目が集まる中、学校用の”ジェンダーレス水着”が初めて登場した。

開発したのは、学校用の水着などを製造・販売する、東京都墨田区のメーカー「フットマーク」。デザインが同じの「男女共用セパレーツ水着」の取り組みを開始したと6月7日に発表した。

男女共用セパレーツ水着(提供:フットマーク)
男女共用セパレーツ水着(提供:フットマーク)
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「男女共用セパレーツ水着」は上下が分かれたセパレーツ型で、長袖の上着はできるだけ露出を軽減している。また、ボトムスはハーフパンツを採用し、体のラインが出にくい形状だ。男女共用のため、性別を意識せず、水泳の授業に参加できる狙いがある、としている。

120cmから4Lまでの10サイズ展開で、価格は6380円~6820円(税込小売希望価格)。2022年度は3校が導入予定で、来年に向けて30校が検討中とのことだ。

“従来の水着”と、この「男女共有セパレーツ水着」を選択できる形にする学校が多くみられるとしている。

2~3年前から学校から問い合わせ

今の時代を反映した水着だが、このような水着を開発した理由は何なのか? 導入する学校からは、どのような声が届いているのか?
また、LGBTや性別とは関係なく、「水着になって肌や体型を露出したくない」という声もあるのか?

フットマークの担当者に話を聞いた。


――このような水着を開発した理由は?
 
2~3年前から「トランスジェンダーの生徒がいて、その生徒が着用出来る水着がないか」という、学校からの問い合わせが、学校の水着を扱う小売店を通じて、1年に3~4件ありました。

当時の対応としては、シャインガード(水着と同じ素材でできた長袖の上着)と水着を組み合わせて、肌の露出が少ない組み合わせをご紹介していました。

フットマークの「シャインガード」(提供:フットマーク)
フットマークの「シャインガード」(提供:フットマーク)

ただ、学校や先生から、ジェンダーレスに配慮した学校の対応などを聞くたびに、もしかしたら、専用の水着を発売したら、口には出せないけど、どんな水着を着たらよいか分からないと困っている生徒が、プールの授業を楽しみにしてくれる、参加してくれるのではないかという思いはありました。

実際に開発に着手したのは、2021年8月からです。


――デザインや素材など、こだわったポイントは?

水泳特有の条件に合わせつつ(動きやすくするための伸縮素材や吸水しても重くなりにくい撥水加工など)、体型や肌の露出を抑えたデザインを意識しました。

男女共に身体的な違いが表れる部位(胸、腰、お尻など)は、ゆったりしたシルエットになるよう素材を変え、パターンを微調整し、体型の違いが目立たないデザインにしました。

上着は1枚で着て、泳げます。また、ファスナーの引き手部分にはガードを付けています。

パッドを入れられる仕様が必要な生徒には、パッドが差し込めるポケットをつけていますが、裏地を黒にし、パッと見て、パッド用ポケットと分からないような仕上げにしています。

パンツは布帛(ふはく)素材を使い、体に密着しない生地を使っています。

「男女共用セパレーツ水着」の特徴(提供:フットマーク)
「男女共用セパレーツ水着」の特徴(提供:フットマーク)

泳ぎやすさという点では、上着は従来のラッシュガードより、ややフィットする形にしました。密着し過ぎると、体の線が目立つので、程よく、ゆとりを出しました。

パンツは生地に撥水加工を施し、濡れても重くなりにくいようにしました。水を含むと空気で膨らむので、空気が抜けるよう、左右の腰付近に穴を空けています。フットマークで販売しているサーフパンツより、直線的でタイトなシルエットにしています。

フットマークで販売している「サーフパンツ」(提供:フットマーク)
フットマークで販売している「サーフパンツ」(提供:フットマーク)

また、中に伸縮素材のインナーを内蔵していますので、動いても見えない安心感があります。


――この水着を導入する学校からは、どのような声が届いている?

ある中学校では校則を大幅に見直し、現代に合わせた内容に改訂している最中でした。世の中の変化を受け、制服や校則(髪型)、水着において、男女の区別をなくしていく必要性を感じていました。

その中で、PTAを通じて、保護者の意見を集めたところ、生徒が従来の水着の着用に抵抗があり、これが、水泳の授業の参加に消極的になっている要因の1つになっていることが分かりました。そこで、水着の選択肢を増やすことにより、水泳の授業に参加しやすくしようという目的から、「男女共用水着」の導入に至ったのです。

体育科の教員も、まずは、生徒が水泳の授業に抵抗なく参加できることが重要で、命を守る技術を学ぶことが水泳の授業の目的であること、また、この水着が水泳の技術習得の妨げにはならないと判断したことから、水着の導入に理解を示されたそうです。

校内で水着を取り扱う購買部には、「男女共用水着」に対して、多くの問い合わせがきているようで、今年は様々な水着を着た生徒たちが水泳の授業に積極的に取り組んでくれそう、とのことでした。

「肌や体型を露出したくない」はLGBT・性別に関係なくあった

――LGBTに限らず「水着になって肌や体型を露出したくない」という声はあった?

ありました。LGBTに限らず、水着姿に抵抗のある生徒さんからの声はありました。水着を着るのが嫌で、見学していた生徒さんも、実は多かったのではないかと思われます。


――男女関係なく、あった?

以前から、こういった声は性別に関係なく、ありました。特に女子生徒からは要望も多く、それに応じて、顕著に変化しています。形は「ワンピース型水着」から「セパレーツ型水着」が主流になり、股下も長くなっています。

また、実は、男子生徒からも肌の露出を控えたデザインが良いという声もあり、性別問わず、同じような悩みがあると感じるようになりました。

進化するスクール水着(提供:フットマーク)
進化するスクール水着(提供:フットマーク)

――男子生徒からの「水着になって肌や体型を露出したくない」という声は、いつ頃から把握していた?

明確に声として聞いたのは、2015年に男子生徒と水着の商品開発をした時です。男子生徒がデザインしたのは上下分かれており、パンツは足首まである肌の露出を控えた、まるでダイバーが着るような形の水着でした。

実は男子も肌を隠したい、体型が見えてしまうのは恥ずかしいという思いを知りました。それ以来、そのような声には常にアンテナを張り、商品開発に生かしてきました。

男子生徒がデザインした水着(提供:フットマーク)
男子生徒がデザインした水着(提供:フットマーク)

――学校用の水着は今後どうなっていくと思う?

水着の自由化はますます進み、様々な形の水着が増えていくかもしれません。水着姿になるのを我慢しなくても良いように、学校の校則や体制、指導内容を含め、新しくなっていくのではないかと思われます。

近年、外国人のお子様も増えてきていますし、世の中の変化に合わせ、新たな水着が生まれるかもしれないですね。


2022年度は3校が導入予定で、来年に向けて30校が検討中だという「男女共用セパレーツ水着」。水着で肌や体型を露出したくないという声もあり、この水着を導入する学校が増えていけば、水泳の授業に前向きに取り組む生徒は、今より増えていくのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。