私たちが日常的に使う薬が今、不足している。苦悩する街の薬局。メーカーが増産に追われる背景を取材した。
いつもの薬がない…1年以上にわたり不足
訪ねたのは福岡市南区にあるクリニック「よこやま内科」。発熱外来では、新型コロナに感染した疑いがある患者にPCR検査を行っている。

いまだ福岡県の新規感染者は1000人を超える中、このクリニックでは今も1日10人ほどがPCR検査を受け、3割ほどが陽性となっている。
看護師:
症状はいつから?
患者:
きょうの夕方ぐらいから頭痛と寒気がしたので、熱を測ったら37.6度あって
発熱と頭痛の症状があり、PCR検査を受けた20代女性の結果は…。
横山哲也院長:
コロナは陰性。(頭痛は前に渡した)薬で治るのを待っていただいて
結果は陰性だったが、薬を服用して様子を見るよう指示を受けた。

この何気なく処方される薬に実は今、ある問題が起きているのだ。
横山哲也院長:
クリニックで処方した薬の供給が間に合っていないという話は聞いている

街の薬局では、薬不足が深刻な問題となっている。
ーー今不足している薬は?
みどり調剤薬局・吉田健管理薬剤師:
特定の薬というよりは、本当に様々な薬が不足しています。睡眠を助けたり、寝付きをよくしたりするのに使う薬。いわゆるジェネリック品の供給がよくない状況

特にジェネリック医薬品が、1年以上にわたって不足している状況だ。
発端はメーカーの不祥事 9社に業務停止命令
「ジェネリック医薬品」とは、先発薬を開発したメーカーの特許期間が過ぎたあとに、他のメーカーが同じ有効成分の薬を製造、販売するもの。開発費が抑えられるため、先発薬より低価格となる。

この薬局では約1300種類の薬を扱っているが、そのうち9割がジェネリック医薬品だという。なぜ、ジェネリック医薬品は不足しているのか。
みどり調剤薬局・吉田健管理薬剤師:
今、いろいろな製薬メーカーが生産、検査、出荷のプロセスを見直そうとしている。そこにどうしても時間がかかっているのでは

薬不足の発端は、2020年12月に発覚した福井県のジェネリック薬品メーカーによる不祥事だった。
小林化工の会見:
信頼回復に努めてまいります。本当に申し訳ありません

国が承認していない工程での製造など、ずさんな実態が明らかになったのだ。
またこの件を受け、全国で立ち入り調査などを実施したところ、複数のメーカーで問題が発覚。2021年から2022年にかけ、合わせて9つの会社に相次いで業務停止命令が出され、医薬品の出荷が次々とストップした。
不適切な製造が発覚したメーカーの1つが、ジェネリック大手の日医工だった。

この問題発覚後、日医工は業績が悪化し、2022年3月期の決算で1048億円余りとなる過去最大の赤字を計上。事業再生の手続きを申請し、経営再建を目指す事態になっている。
低価格の他にもメリット 身近で欠かせない薬
医薬品メーカーが不祥事で揺らぐ中、大きく影響を受けているのが街の薬局だ。
みどり調剤薬局・吉田健管理薬剤師:
4月は1098品目の発注に対して、123品目が入ってこなかった
発注画面には、入荷しなかったことを意味する「ゼロ」が並んでいた。

みどり調剤薬局・吉田健管理薬剤師:
1割以上が思ったように入荷しない。1年以上この状況が続いている
業界団体が37社のジェネリックの医薬品の供給状況をまとめたところ、2516品目の出荷が滞っていて、これは全体の約4分の1にあたるという。
不足するジェネリック医薬品には、低価格である以外にもメリットがある。

ーージェネリック医薬品は使っていますか?
8カ月の子どもの母親:
使っていますね。子どもが頻繁によく鼻水とか出るので、いつも使っています。甘くて飲みやすい

ジェネリック医薬品は後から作られた薬のため、子どもに飲みやすいように作られている。さらに…。
みどり調剤薬局・吉田健管理薬剤師:
ジェネリックには錠剤に印字があって飲み間違いがなくなる

薬に印字がされ、飲み間違いを防ぐ。これも後から作られた薬ならではの工夫だ。ジェネリック医薬品は今や身近で欠かせない薬となっている。
継続的に服用している夫婦:
薬がないと心配ですよね。ジェネリックには色々お世話になっているから

このジェネリック医薬品の不足を受けて、厚生労働省はメーカー側に増産を要請している。
薬不足は長期化か 新工場を建設も多くの課題
赤木リポーター:
こちらでは、工場の新しい棟の建設に向けて作業が進められています

ジェネリック大手の沢井製薬は、福岡県飯塚市にある工場を増設している。現在、生産している年間51億錠に加え、最終的には年間80億錠以上の生産体制を目指している。

沢井製薬・木村元彦生産本部長:
(飯塚市にある)工場で会社全体の3分の1を生産しているので、我々としては非常に重要な拠点と位置付けている
薬が足りない状況で増産のために工場を建設しても、すぐの稼働は難しいという。
沢井製薬・木村元彦生産本部長:
(建設から稼働開始まで)2~3年ぐらい必要。設備は買えば完成するが、それを動かす「人」が重要になってくる。設備を早く入れて人も早めに採用して、両輪でしっかりとした生産体制を早く構築していくのがキーになってくる

さらに、新工場の稼働には検査機関の厳しいチェックもクリアしなければならず、すぐに生産ということにはならないのだ。医薬品に詳しい専門家も、薬不足の長期化は避けられないとみている。
神奈川県立保健福祉大学・坂巻弘之教授:
1年~2年くらいは続くんじゃないかと、私は予想しています。ジェネリックのメーカー全体の製造キャパシティーにそもそも上限がある

一部のメーカーが出荷停止になったため、他のメーカーに注文が殺到。その会社が注文をさばききれず、全体的な薬の供給不足につながっているという。薬不足の打開策は、行政処分を受けた会社が製造過程を見直し、供給を回復するしかないと坂巻教授は話す。

神奈川県立保健福祉大学・坂巻弘之教授:
まずは品質問題。各企業がもう一度、品質重視の考え方に立って、各企業が製造プロセスを見直す
私たちの生活に大きな影響を及ぼす薬不足。綱渡りの状況が続いている。
(テレビ西日本)