自治体が新型コロナワクチンの打ち手に支払う賃金。その大きな格差が問題視されている。

北九州市に情報開示請求も”黒塗り”に

福岡市の場合、歯科医師に支払う時給は、実に看護師の5倍!看護師からは「同じ仕事内容なのに…」と疑問の声も聞かれる。

宇部フロンティア大学看護学部・三隅達也助教:
ワクチン接種という同一業務を歯科医師と看護師がやったとしても、賃金が違っているというのは不合理なのかなと思います

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ワクチンの集団接種に協力する歯科医師と看護師の「賃金格差」を問題視するのは、2021年の3月まで山口大学の附属病院で看護師として勤務していた、宇部フロンティア大学の三隅達也助教。

三隅助教が北海道から九州まで全国の22自治体を調査したところ、ワクチンの打ち手として協力した歯科医師と看護師の時給の差が最も大きかったのは、長野県飯山市で約16倍。福岡市は歯科医師の時給は1万2500円、看護師は2500円で、賃金の格差は5倍だった。

また、三隅助教が北九州市の賃金格差を調べるために情報公開請求したところ、歯科医師の時給と看護師の時給の部分のみが「黒塗り」に。情報は開示されていなかった。

宇部フロンティア大学看護学部・三隅達也助教:
ワクチン接種にかかった費用というのは、我々国民が負担した税金ですので、それに関する情報というのは開示されてしかるべきだと思います

その後、テレビ西日本が取材したところ、北九州市でワクチン接種に協力する歯科医師と看護師の時給格差は約3.5倍だったことが判明した。

宇部フロンティア大学看護学部・三隅達也助教:
本当にこの賃金が妥当だったのか、適切な税金の支出だったのかという検証が、国民の側からできない。不開示にされたのは納得ができない

弁護士「待遇差は本来あってはならない」 看護連盟も訴え

この賃金格差は、法律で定められた「同一労働・同一賃金」の考え方に反しないのか。法律の専門家に聞いた。

一坊寺麻希弁護士:
これは、基本的には民間の正社員と非正規社員の間の格差を無くすための法律であって、今回はあてはまらないけれども、待遇差は本来あってはならない。そういう理念はあるので、合理的な範囲内かどうか。法的にいうと違法とまでは言えないが、問題がある

「明確な違法性はない」という見解だが、看護師の側からは当然、疑問の声が上がっている。

福岡県看護連盟の幹部たちによる、看護師の労働環境の改善についての議論。

福岡県看護連盟 幹部:
全く同じ仕事をする中で、歯科医師だから(時給が高い)というところは、どうなのかなと思います

福岡県看護連盟 幹部:
トータルマネジメントをしているのはナースだと思いますし、どれほどあの場で神経を使いながら実践しているのかということを考えると、やはり大きな差はあってはならないと思います

県看護連盟の塚﨑会長は、クリニックを閉めてワクチン接種に協力する歯科医師への休業補償の観点なども考慮し、「単純に時給だけで比較するべきではない」としながらも、看護師の処遇改善が最優先されるべきだと訴える。

福岡県看護連盟・塚﨑惠子会長:
この格差があっても(打ち手として)行くというのは、それくらいナースの賃金が低いということなんです。この格差を改善し給料を上げるには、やはり医療職3表(基本賃金)に手を付けなければできないと思います。看護に見合った給与体制ができればと思っています

違法ではないものの、なぜここまで賃金格差があるのか…。

集団接種会場でのワクチン接種は、医師が問診にあたってゴーサインを出した後、看護師がワクチンを打つのが基本。しかし、2021年の春、ワクチンが一気に国内に入ってきたために打ち手不足となり、それを解消するために、国が歯科医師によるワクチン接種を認めることにしたのだ。

これを受けて、特に大都市で歯科医師による接種が始まったが、歯科医師の時給は基本的にこの問診にあたる医師の時給とほぼ同し額にした自治体が非常に多い。

また、当初からワクチンを打ってきた看護師の時給はどうやって決まるのかというと、需要と供給のバランスとなる。ワクチンを打てる看護師の数が少ないほど、高い時給を払わないと看護師は応援に来てくれないので、時給も高くなる傾向にあるのだという。

歯科医師の「社会貢献したい」という思いは非常に尊いものだが、全ての経費は国民一人一人の税金で賄われているということを行政は絶対に忘れてはならない。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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