世界的食糧危機に有志国が立ち上がる

ロシアのウクライナ侵攻で世界的食糧危機が心配されているが、ウクライナ産の穀物を輸出する貨物船を有志国が護送する計画が持ち上がっている。

ウクライナは年間2800万トン余の小麦を生産し世界7位の生産国(国連食糧農業機関調べ)であるほか、トウモロコシやひまわり油などの主要生産国として知られる。

世界の食糧庫となっているウクライナの農場
世界の食糧庫となっているウクライナの農場
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しかし、今回の紛争でロシアはウクライナの港を封鎖したほか大量の機雷を敷設し、黒海の海運は停滞したままになっている。これまで収穫された穀物はその多くが国内のサイロに蓄積されたままになっており、今年の収穫が始まるとサイロがパンクする恐れが出てきている。

ウクライナの穀物は主に中東やアフリカ諸国へ輸出されており、このままではそれらの国々への供給が断たれて食糧が不足するだけでなく、世界的に穀物の価格が高騰して食糧危機が発生すると国連も18日に警告した。

ウクライナから陸路で鉄道やトラックによる輸送も考えられたが、船で輸送できる量が桁違いである上に輸送コストも安いことから、やはり黒海を利用する以外にないということになった。

そこで、ウクライナの港湾都市オデーサから黒海を縦断してトルコのボスポラス海峡まで「保護された海路」を設けることが英国を中心に検討され始めたという。

黒海の出入り口 トルコのボスポラス海峡
黒海の出入り口 トルコのボスポラス海峡

英国の「ザ・タイムズ」紙電子版が5月24日伝えたもので、記事によると既にリズ・トラス英外相とリトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス外相の間で話し合われ、ウクライナの穀物を輸入している北大西洋条約機構(NATO)の加盟国などの参加も考えられているという。

また、この問題で大きな被害を受けているエジプトの参加も期待されているとか。

計画では、ウクライナの港付近にロシア軍が敷設した機雷の除去をする一方でロシア軍の攻撃に対抗するためにウクライナ軍に対艦長距離ミサイルを供余する。

事実、23日にオンラインで行われた米国主催のウクライナ支援のための国際会議でオースティン米国防長官は、デンマークがウクライナの沿岸警備のために地対艦ミサイル「ハープーン」を提供することを表明したと明かした。

その上で有志国の軍艦と航空機がウクライナから穀物が安全に黒海の外へ出るまで護送するという構想だ。

ウクライナの小麦輸出を護衛?
ウクライナの小麦輸出を護衛?

「我々は世界の食糧安保に対応しなければならないわけで、英国はウクライナの穀物を輸出することを緊急の課題と考えている」

トラス英外相はこう「ザ・タイムズ」紙に語っている。

制裁一部解除を条件にロシアも穀物輸出認める提案

一方ロシアのインターファクス通信は25日、ロシア政府は欧米側が制裁の一部を解除する見返りに食料を積んだ船がウクライナを出港するための人道回路を提供する用意があるというアンドレ・ルデンコ外務次官の発言を伝えた。

これについて英国防省のツイッター「INTELLIGENCE UPDATE(最新諜報情報)」29日は次のように反論した。

「ロシアの提案は世界の食糧危機を利用して自らを穏健な立場に見せかけ西欧の失政を非難しようとしているに過ぎない。またロシアが制裁の解除を試みることは、制裁が効果的であることを裏付けている」

ロシアの提案に英国防省「INTELLIGENCE UPDATE」が反論
ロシアの提案に英国防省「INTELLIGENCE UPDATE」が反論

ウクライナ紛争は、その余波で巻き起こった食料不足問題をめぐって欧米諸国とロシアの「場外乱闘」を引き起こしそうだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。