バイデン大統領の東京訪問のテーマは、「脱中国」と「中国包囲網」の2つのキーワードに集約される。2泊3日の滞在で、12カ国の首脳や閣僚らと次々に協議を行った。
この記事の画像(6枚)経済で「脱中国」、安全保障で「中国包囲網」
バイデン大統領は5月23日、アメリカ主導の経済圏構想、IPEF(インド太平洋経済枠組み)の発足を表明した。TPP(環太平洋連携協定)離脱でアジアでの経済的な存在感が薄れていたアメリカがカムバックを宣言した形だ。狙うのは東南アジア諸国の段階的な「脱中国」。アジア諸国にとっては中国の巨大市場を切り離すことは現実的な選択肢ではないが、アメリカと連携し中国依存を減らしたいというのも本音だ。タイやインドネシアなど13カ国が参加する。
そして、もう一つのテーマ「中国包囲網」では日米とインド、オーストラリアを加えた「クアッド」サミットを開催し、南シナ海で軍事拠点化の動きを続ける中国を念頭に、インド太平洋の海域で警戒・監視を行い情報共有する海洋状況把握システム(IPMDA)を構築すると発表した。
アメリカは当初から、このIPMDAをクアッドの目玉に位置付け力を入れてきた。しかし、収集したデータは機密扱いにせず一部公開する為、参加国の中には「敵対国に手の内を見せることになる」と反対する声もあり、議論は紛糾した。アメリカは「これは本当に必要なんだ!」と各国を説得し、最終的に押し切った形だ。
リアル「台湾有事」を未然に防ぐ警戒監視システム
アメリカ政府高官は、IPMDAは「自国の主権を維持するために必要な手段」だと話す。人工衛星やドローンなどで得たデータを集約し、不審な動きをリアルタイムで探知する。公式には違法漁業などを取り締まると発表しているが、当然、台湾海峡周辺の軍事的な動きにも目を光らせる。今後5年かけて構築するという。
クアッドの共同声明では「中国」を名指しこそしなかったものの、「東シナ海及び南シナ海における、ルールに基づく海洋秩序への挑戦に対抗する」と明記した。海洋の軍事拠点化を進める中国に、強い警戒感を示す内容だった。
専門家は、IPMDAについて「ウクライナ侵攻では、ロシア軍の動きに関わる機密情報をこれまでに例のない速さで公開した。こういった情報戦を海で展開するうえでのプラットフォームになる」と指摘する。台湾を武力で統一しようとする動きをリアルタイムに察知し公開することで、中国をけん制することも可能になるというのだ。
「台湾有事に軍事関与」は失言?それとも本音?
バイデン大統領は23日、日米首脳会談後の共同記者会見で台湾防衛のために軍事的に関与する用意があるかと質問された際「イエス」「それがわれわれの責務だ」と答えた。
アメリカ政府は、中国が軍事力を行使して台湾統一を図ろうとした際の対応をあえて明確にしないことで、中国をけん制しつつ台湾独立を煽らない、いわゆる「あいまい戦略」を取ってきた。しかし、ウクライナをめぐって、バイデン政権が早々に軍事介入はしないと宣言したことが、プーチン大統領を安心させ軍事侵攻に突き進ませたとの批判もある。台湾については、防衛の意志を明確にする戦略に転換しようとしている可能性もある。バイデン大統領は「台湾についての政策は全く変わっていない」とも発言した。
バイデン政権は「一つの中国政策」は堅持するとしているが、「あいまい戦略」は変化しつつある。「政策に変更なし」、「戦略に変更あり」というシグナルかもしれない。
日米首脳会談で岸田首相は防衛費を増額する方針を示し、バイデン大統領は歓迎した。外遊の締めくくり、バイデン大統領は自身のツイッターにこう投稿した。
「日米同盟は、インド太平洋地域の平和と安定の礎であり、かつてないほど強固になっている」
The U.S.-Japan alliance is the cornerstone of peace and stability in the Indo-Pacific region — and our relationship is stronger than ever before. I met with Prime Minister Kishida to deepen our cooperation on security, emerging technologies, clean energy, and more. pic.twitter.com/obC08hiCnO
— President Biden (@POTUS) May 23, 2022
将来想定される危機に備えて同盟国日本への期待をにじませている。
【執筆:FNNワシントン支局長 ダッチャー・藤田水美】