北海道知床沖で沈没し、引き揚げ作業を行っていた観光船が水深182メートルの海底に落下した。海上保安庁は再び「飽和潜水による作業が必要」との見方を示していて、引き揚げにはさらに時間がかかる見通しだ。

「KAZUⅠ」水深182mに落下

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24日午前11時過ぎの北海道・知床半島沖を取材ヘリから見ると、オシンコシンの滝から約2キロの海上には濃い霧が立ち込めていた。沈没した観光船「KAZUⅠ」を海中につり上げた状態のまま作業船がゆっくりと西へと進んでいた。

海底115mに沈んでいた観光船「KAZUⅠ」を23日、海面近くまでつり上げた作業船「海進」。当初の予定では、24日昼ごろには斜里町付近の海上まで移動し、「KAZUⅠ」を船の上に上げる作業を始める予定だった。

「海底に落としてしまった」

しかし、24日午前、甲板では慌ただしい動きがあった。作業船のすぐ横には小さなボートが下ろされている。

この時、突然、船の引き揚げはできないという一報が入った。理由は「KAZUⅠ」再びの沈没だった。第1管区海上保安本部によると、午前10時20分ごろ、「KAZUⅠ」をつるした状態で航行していた「海進」から「午前8時から10時の間にKAZUⅠを海底に落としてしまった」との連絡が入ったという。

「海進」の上では、乗組員たちが「KAZUⅠ」を釣っていたものなのか、ロープを引っ張る様子が見られた。そして「海進」のすぐそばに浮かぶのは、遠隔操作型の無人潜水機ROVを搭載した「新日丸」。この「新日丸」の無人潜水機が午前11時42分、水深182メートルの海底に沈む「KAZUⅠ」を発見した。

そして正午過ぎには、「海進」の甲板に「KAZUⅠ」を吊るのに使っていた黄色い器具があるのが確認できた。この器具からなぜ「KAZUⅠ」は再び落下してしまったのだろうか。

固定ベルトに緩み?切れた?

水難学会の斎藤秀俊会長は「予測された事態なので、対策もしていたはずだ」とした上でこう推測している。

「船が動いていくわけですので、KAZUⅠそのものにも水圧かかってくるわけですね。一般的に言えば、船に通してあるベルトがありますけれども、水の通り道ができると、どこかしら隙間が空いてしまうわけですよね」

移動の際の水圧により、「KAZUⅠ」を固定していたベルトに隙間ができ、船体がすり抜けた可能性を挙げた。斎藤会長はさらに指摘した。

「これはあまり考えられないですけど、ベルトそのものが切れるとかつなぎ目から外れるとか」

潮の流れ影響も

また、地元の漁師たちからは、潮の流れの影響が指摘された。

「潮が速かったりする可能性もあるんじゃないですか。向こういったら」(地元の漁師)

「潮の流れは変わりやすいね。ここら辺は」(地元の漁師)

過去に同様事例も

過去にも引き揚げ作業が難航したケースがある。1986年、海洋調査船「へりおす」が福島県沖で沈没し、9人が死亡した。この事故では、水深230mの海底から船体をワイヤーネットですくい上げたが、曳航中に船体が落下し、再び沈没した。

「KAZUⅠ」は今回、最初に沈没した時の水深115mより、さらに深い182mの海底に落下。船の底を下にした状態で、沈んでいて原形はとどめているということだ。海上保安庁は「再び飽和潜水による作業が必要」との見方を示しているが、すぐに作業を行うことはできるのだろうか。

飽和潜水…新たなハードルも

飽和潜水は加圧タンクの中で一定の時間を過ごし、深海の水圧に体を適応させる特殊な潜水方法だ。水難学会の斎藤会長は「昨日まで作業に当たっていた潜水士は減圧作業に入っている可能性があり、すぐに作業を行えるかは不透明だ」と指摘。加えて、「今回の失敗により引き揚げ工程の見直しが必要ではないか」との見方を示した。

「次の失敗は許されないでしょうから。できればその場で台船に乗っけるというような準備をしてやることが考えられる」

費用は10億円に…会社ではなく国が負担

「KAZUⅠ」の引き揚げ作業には約1億4,000万円の費用がかかるが、国交省は費用を会社側に請求しない方針だ。これにより調査などにかかった約8億7700万円と合わせて10億円に上る費用はすべて国が負担することになる。

イット!スタジオでは…

加藤綾子キャスター:
ご家族のことを思うと、早く引き揚げて原因の究明してほしいと思うのですけれども、まだ少し時間がかかってしまいそうですね。さらに調査、引き揚げの費用もかかってきます。これは国が負担するということが明らかになりました。三宅さん、いかがですか?

宮家邦彦氏:
やはりご家族のお気持ちを考えたら1日でも早く、一刻も早く上げてあげたいということでしょうが、実際にこの会社には無理でしょ?となれば、国がやるという判断が政治的で間違ってないと思うんですが、この会社の方もいかがなものですかね。ちゃんと反省してもらいたいなという強い気持ちはありますね。

(イット!5月24日放送分より)