静岡市の閑静な住宅地にある城北公園の再整備で、大手コーヒーチェーンのスターバックスが出店を辞退した。

人気店進出を心待ちしていた市民にはショックだが、公園の整備計画をめぐっては「樹木の伐採で景観が損なわれる」として見直しを求めた地元住民もいた。それに対して伐採本数を減らす提案も市はしていたのだが、歩み寄りの道はなかったのだろうか。

公園の魅力向上めざし

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城北公園の再整備事業は、公園へのアクセスを改善し、公園の魅力を高めるとともに、維持管理費の増大を解決するのが目的。

静岡市が民間事業者の力を活用するPark-PFI事業として公募を行い、2021年に「つなぐ公園プロジェクト」(代表・フジ都市開発)が選定された。

約6万平方メートルの敷地のうち、約4000平方メートルに駐車場やドライブスルーのカフェ、子育て支援施設を整備する計画で、スターバックスも誘致された。

公表された出店辞退のコメントのなかで、スターバックスは出店を決めた当時の判断を振り返っている。以下、コメントからの抜粋だ。

~公募内容、および同プロジェクトの目的や内容が、スターバックスが店舗運営を通じて目指す「公園と地域社会のつなぎ、公園の利用者のみなさま同士をつなぐ場になる」という思いと共通しており、同プロジェクトにおける設置施設のテナントとしての役割を担うべく、出店に向けて準備を進めてまいりました。~

樹木伐採に一部住民が反対 住民監査請求も

計画が明らかになると、周辺住民が「100本以上の木が切られ景観が損なわれる」などとして、計画の見直しを求めて市民団体を立ち上げ、説明会を開いた。

市民団体の説明会(2021年6月)
市民団体の説明会(2021年6月)

みんなで考えよう!城北公園の会・当時の会長:
これは切ります。ドライブスルーの入口なので

――伐採をどう思いますか?

説明を聞いた市民:
とんでもない。あんなの絶対反対

伐採予定地を見学する市民団体(2021年6月)
伐採予定地を見学する市民団体(2021年6月)

ここは1970年まで静岡大学があった場所で、それ以前から残る大木もある。駐車場も木を伐採し、新たに73台分(公園用48台:スタバ用25台)設ける計画だ。

参加した市民:
木を一本も切っちゃいけないとは思わないけど、景観を考えながらやってほしい

みんなで考えよう!城北公園の会・当時の会長:
市と一緒に建設的に、木を切らないでできる最大限の良い公園にしていく視点でやっていければありがたい

市や事業者はこうした住民の意見を踏まえ、伐採される樹木を15本以上減らし、カフェのドライブスルーもやめた。

しかし住民は納得せず、2021年12月には市民団体が4189人分の署名を市長に提出し、計画のさらなる見直しを求めた。

公園の48台分の駐車場に異論はないものの、スタバ用の25台分に疑問を投げかけた。スタバ利用者も公園駐車場を使えばいいし、駐車場が多くなると緑が失われ、乗り入れる車も増えて安全性が確保できないと考えたからだ。

署名を提出する市民団体(2021年12月)
署名を提出する市民団体(2021年12月)

そして2022年3月には、周辺住民など22人が「市民の意見を聞かずに進めた計画は市の条例に違反する」として、市と事業者による工事実施にむけた協定締結の差し止めを求める住民監査請求を行った。

この請求は「市民参画手続きは義務づけられていない。ワークショップなどを行っており、市民参画手続きを一切行っていないとは言えない」などとして4月に棄却されている。

周辺住民などによる住民監査請求(2022年3月)
周辺住民などによる住民監査請求(2022年3月)

「地域つなぐ場としての役割果たせない」

こうしたなか、スターバックスは出店辞退を決め、4月中旬に事業者代表のフジ都市開発に伝えた。

スターバックスは出店辞退の理由について、「事業内容や進行過程において、さまざまな意見が上がり、改めて出店について検討し続けてまいりました。その結果、このまま出店したとしても、スターバックスが目指している地域社会の一員として、地域に貢献できる存在となり、地域や周辺住民の方々をつなぐ場としての役割を果たせないと判断しました」と説明している。

浜松では公園の緑生かし出店

静岡県内で静岡市のライバル、同じ政令市として比較されることが多い浜松市は、中心部の浜松城公園にスターバックスが出店している。

浜松城
浜松城

スターバックスには、「リージョナルランドマークストア」という制度がある。HPによると、日本各地の象徴となる場所に建築され、地域の文化を世界に発信する店舗の総称だそうだ。

訪れる人がその地域の歴史や文化などの素晴らしさを再発見し、その発見を通じて地域への絆が感じられるよう、その地域らしいデザインを織り込んでいるという。

木々と一体化したような浜松城公園店
木々と一体化したような浜松城公園店

2018年にオープンした浜松城公園店もそのひとつで、できるだけ公園の木を残しながらデザインしたとする、森に包まれたような建築の店舗だ。やむを得ず切った木は、入口の扉の取っ手や店内のアートとして大切に再利用されているとのことだ。公園の魅力が感じられるようにガラス面を多くとり、目の前に広がる緑や木々の隙間から浜松城の天守閣も垣間見える。

スターバックス浜松城公園店
スターバックス浜松城公園店

広さは城北公園が約6万平方メートルに対して、浜松城公園は約10万平方メートルと広い。浜松城公園は乗用車117台分の駐車場がもともとあり、スターバックス用の増設はない。樹木は高木を中心に24本を切ったが、逆に低木を中心に30本を新たに植えてくれた。

浜松市の担当者は「『木を大切にしてほしい』という要望に応えて、軒に触れる木でも残したり、ウッドデッキをくりぬいて木を残してくれた」と話す。

スターバックス浜松城公園店
スターバックス浜松城公園店

「スタバに反対していたわけではないのに…」

スタバの出店辞退がわかり、城北公園の利用者の声は分かれた。

【出店賛成】犬を散歩していた人:
家族も望んでいたので残念です。利用者も増えて、経済も良くなったと思うので

【出店賛成】子供を連れた人:
便利になるので楽しみにしていました。残念です

【出店反対】子供を連れた人:
ほっとしています。子供が小さいので、車の乗り入れが増えると不安でした

【出店反対】子供を連れた人:
カフェはなくていいです。自然が豊かで、子供の遊具が増えた方がいいです

計画に異議を唱えていた市民団体のメンバーも、スタバに反対していたわけではないと話す。

市民団体のメンバー:
スタバは楽しみにしている方もいるので、駐車場問題が解決できればスタバが来てもいいと思っていました

同じ静岡県を代表する二大都市の中心部に広がる緑の空間。浜松城公園のような出店例を静岡・城北公園に望むのは、広さの違いなどから難しいのだろうか。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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