東北大学の青葉山新キャンパスで現在、世界が注目する最先端の施設「次世代放射光施設」の建設が進められている。別名「巨大な顕微鏡」とも呼ばれ、企業から熱い注目を浴びているのだ。

施設の完成を待つ 理研食品 大場隆さん:
ワカメに放射光を当ててみたい

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施設の完成を待つ ティ・ディ・シー 赤羽優子 社長:
作れる限界も、さらに高みに登っていけるんじゃないかと思います

“ここが世界のイノベーションの中心”に 新施設の全貌に迫る

「次世代放射光施設」では、太陽光の10億倍もの明るさを持っている「放射光」を使って、モノをナノサイズで観察できるという。
医薬品や新材料の開発、ウイルスの構造解析など多くのことに活用でき、すでに110を超える企業が参画を決めている。

建設中の「次世代放射光施設」 2023年度中の運用開始を目指す
建設中の「次世代放射光施設」 2023年度中の運用開始を目指す

建設計画を推進する一般社団法人「光科学イノベーションセンター」の理事長は…

光科学イノベーションセンター 高田昌樹 理事長:
ここが世界のイノベーションの中心になる「ゲームチェンジ」が起こります

新しい施設で、一体何ができるのか、私たちの暮らしにどのような影響があるのか。
建設中の施設を訪れるとともに、完成を待つ企業に話をきき、その背景と影響を取材した。

完成を待つ世界的中小企業  新施設で“オンリーワン”証明に期待

宮城県利府町(りふちょう)にある中小企業「ティ・ディ・シー」を訪れた。小さな工場だが、実は世界で知られた存在だ。

ティ・ディ・シー 赤羽優子 社長:
精密測定室にご案内します。ここは1年中、温度が20度に保たれている精密測定室です。ナノ・マイクロレベルでモノの状態を測ることができる機械が並んでいます

ティ・ディ・シー 赤羽優子 社長:
光の干渉でモノの表面の滑らかさを測る測定器です。0.5ナノの表面の粗さ、凹凸になっています

ティ・ディ・シーは、ナノレベルで研磨することで表面を鏡のように磨き上げる「超精密加工」の分野で世界トップレベルを誇っている。従業員は70人ほどだが、世界でここにしかない技術も多数あり、大企業も含めた国内外約4000社と取引している。

ティ・ディ・シーは、2020年12月に小惑星「リュウグウ」から砂を持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトにも関わっていた。回収容器の研磨を担当したのだ。

「はやぶさ2」プロジェクトにも関わった(写真提供:JAXA)
「はやぶさ2」プロジェクトにも関わった(写真提供:JAXA)

ティ・ディ・シー 赤羽優子 社長:
はやぶさ1は少し表面に粗さがあったそうで、貴重な小惑星の砂を十分に取り出せなかった。はやぶさ2は内面を非常に滑らかにしたことで、無駄なく全ての物質を取り出すことが容易になった

建設中の「次世代放射光施設」について赤羽社長は、「色々な可能性が開かれている」と話す。これまでの放射光施設は、利用する企業も使い方や分析の仕方などを一から勉強する必要があり、中小企業にとって高いハードルとなっていたというが…

ティ・ディ・シー 赤羽優子 社長:
十分な専門知識がないと使えないというのが、光施設は当たり前だと思われていた。東北大学にできる次世代放射光施設は、地域企業も使えるように指導してくれる人がいたり、共同研究してくれる人がいたり、色々な可能性が開かれているので、自分自身に十分な知識が無くてもやりたいことがあれば、それをサポートしてくれる

新施設では、「放射光を使って開発をしたい」企業と「解析技術を磨きたい」研究者がタッグを組み、解析や分析は研究者が行う「コアリション」という制度を世界で初めて導入した。それによりそれぞれが目的に専念できるほか、さまざまなユニットが競争しながら研究を進め、新たなイノベーションを生むことが期待されている。
ティ・ディ・シーでは、次世代放射光施設を技術力の高さの証明に使いたいと考えている。

ティ・ディ・シー 赤羽優子 社長:
やはり私どものような中小企業は、他社との価格競争や、他社がすでにやっていることでは、なかなか難しい部分がある。他がやれないすごく難しいこと、オンリーワンのフィールドを目指していきたい

太陽光の10億倍の明るさ「放射光」 新施設の内部は?!

巨大な顕微鏡と呼ばれる「次世代放射光施設」。今回、建設中の施設内部の取材が許可された。

建設中の「次世代放射光施設」内部を取材
建設中の「次世代放射光施設」内部を取材

量子科学技術研究開発機構 西森信行さん:
ここは電子を生み出す電子銃がありまして、その電子銃から出た電子は、エネルギーは0(ゼロ)なんですが、30億電子ボルトまで加速するための線形加速器がこの下流にできます

量子科学技術研究開発機構 西森信行さん
これが加速する部分で、ここが加速した電子を輸送する部分

施設は主に、以下の3つの部分に分けられる。
①電子を加速させ放射光を生み出す『加速器』
②電子を周回させながら電子と放射光を切り離す『蓄積リング』
③放射光を取り出し観察対象に放射する『ビームライン』

(CG提供:光科学イノベーションセンター)

電子は光の速さほどまで一気に加速され、放射光をまとってそのまま『蓄積リング』を周回する。そのとき蓄積リングに設置された磁石により、電子と放射光が引きはがされ、放射光が生み出される、という仕組みだ。

(提供:光科学イノベーションセンター)
(提供:光科学イノベーションセンター)

下の画像は、国内の別の放射光施設で、実際に放射光を当てたさくらんぼの画像だ。養分が通る「通導組織」と呼ばれる管が張り巡らされている様子が、鮮明に確認できる。

(写真提供:東北大学多元物質科学研究所 矢代 航 教授)
(写真提供:東北大学多元物質科学研究所 矢代 航 教授)

現在、国内にある最新の放射光施設は兵庫県の「SPring-8(スプリングエイト)」だ。燃費の良いタイヤや虫歯予防ガムの開発など、数多くの成果を挙げているが、建設からすでに約20年が過ぎている。

2022年現在で最新の放射光施設「SPring-8」(写真提供:理化学研究所)
2022年現在で最新の放射光施設「SPring-8」(写真提供:理化学研究所)

次世代放射光施設は「軟エックス線」という領域で、「SPring-8」の100倍の明るさを実現できるとされている。

未だ謎…乾燥ワカメの驚異的な吸収力  放射光で解明?! 

放射光は身近なものにも活用が期待されている。
宮城県多賀城市に本社を置く食品メーカー「理研食品」を訪れた。

理研食品 大場隆さん:
乾燥ワカメで1日300キロから400キロ。パック数でいうと1日2万パックくらい作る

発売から40年以上のロングセラー商品「ふえるわかめちゃん」をはじめ、乾燥ワカメだけで約200種類の商品を販売している。乾燥ワカメと40年以上歩んできたこの会社だが、ずっとある悩みを抱えているという。

理研食品 大場隆さん:
こちらの「ふえるわかめちゃん」、他の野菜にはないくらい、水に入れるとすごくよく戻る。これがヒットの秘訣だったんですけど、どうしてワカメだけ、こんなに特徴的に戻るのかなと。ずっとわからない、悩みの一つだった

乾燥ワカメは、自重の10倍以上の水分を吸収できる。しかしこれまで、その驚異的な吸水力を解き明かす研究はなく、メカニズムは不明のままだ。

理研食品 大場隆さん:
乾燥ワカメ以外の乾燥野菜で考えてみると…切り干し大根とかもそうですが、同じように乾燥した野菜でも、ワカメのように水にいれた時に、グーっと怖いくらい戻るものは他にない。その不思議を追いたかった

この会社では、次世代放射光施設の利用を見据え、2021年1月、仙台市の補助金を利用して「SPring-8」でのトライアル実験に参加した。しかし、40年以上にわたる謎の核心に迫ることはできなかった。

反射光を当てたワカメの画像 謎解明には至らず(提供:理研食品)
反射光を当てたワカメの画像 謎解明には至らず(提供:理研食品)

「乾燥ワカメはなぜあんなに水を吸うのか」。この会社は次世代放射光施設で謎を解明することが、企業の未来につながると考えている。

理研食品 大場隆さん:
「こういう特徴が理研食品の乾燥わかめにはある」。そういうことがわかってくれば、今度はその特徴をより深く観察して、付加価値の創造につなげていきたい。そうすればまた新しい商品を生んでいけると期待している

経済効果は10年で1兆9000億…世界のイノベーションの中心に

次世代放射光施設の建設費用は約380億円。国や地元自治体、企業などが負担し、官民共同の施設として、2019年から建設が始まった。
現在、建屋はほぼ完成し、設備の設置作業が進められている。完成すれば、国内だけでなく世界中から研究者が集まる拠点となり、経済効果は10年間で1兆9000億円と試算されている。

光科学イノベーションセンター 高田昌樹 理事長:
F1マシンはできた。あとは名ドライバーをたくさんここに集めてくる必要がある
Q.それが次の目標?
そうです。すると地域から名ドライバーが生まれてくる。ここはすごいという噂を聞きつけて、さらにすごい人が集まってくる。ここが日本の中心になるんです。これは世界の中心にもなっていく

東北を世界のイノベーションの中心へ。次世代放射光施設の本格運用が始まるまではあと2年だ。

(仙台放送)