沖縄でアメリカ軍絡みの事件や事故が起きる度、その不条理さを突きつけられてきたのが日米地位協定だ。
日米地位協定に向き合い、悩まされてきた人々。多くの問題をはらみながら、なぜ一度も改定されてこなかったのか、改めて考える。

身柄はアメリカ軍へ 琉球警察の歯がゆい思い

沖縄県警 元刑事部長 稲嶺勇さん:
復帰の前はラスピー(ランデブーポリス)といって、米軍の憲兵隊と我々 琉球警察のお巡りさんと2人がペアになってパトロールしていました。パトカーも米軍が提供して、フォードとかね

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かつて県警の刑事部長を務めた稲嶺勇さん。今から50年前の沖縄が本土に復帰する年に、アメリカ軍絡みの事件・事故の捜査を担当していた。

沖縄県警 元刑事部長 稲嶺勇さん:
那覇で言えば、波の上付近。宜野湾で言えば、普天間一体。沖縄市で言えば、中央パークアベニューとか、ゲート通り。米軍人がよく出入りする飲食店がいっぱいあったから、結局、酒による事件事故が多かった。そこを特別に警らするってことで、渉外事件警ら隊っていうのが発足して、そこで取り締まりにあたった

復帰前の沖縄・琉球政府には裁判権がなかった。アメリカ兵による事件が発生しても、逮捕は現行犯に限られ、身柄は軍へ引き渡されていた。
復帰を境に沖縄の主権が回復することで、稲嶺さんは「基地の外は日本の警察が責任を持ってやる」という思いを巡らせていた。

沖縄県警 元刑事部長 稲嶺勇さん:
捜査員の中には、事件事故というのは減るだろうというのが一つと、それからもう一点は、やはり警察官ですから、何かあったら、ここ一番、自分たちが捜査してやろうと

稲嶺さんの思いとは裏腹に、沖縄が本土に復帰した後も捜査に重くのしかかったのが、日米地位協定だった。

復帰してなお続く不条理 地位協定の抜本的改定求めるも…

1995年に発生したアメリカ兵による少女暴行事件。県警はアメリカ兵3人の容疑者を特定したが、日米地位協定を理由に県警には身柄が引き渡されなかった。
日米地位協定の17条では、アメリカ兵らが公務外に事件を起こした際、アメリカ側に身柄がある場合は、起訴後にしか身柄の引き渡しを認めていない。

この取り決めに納得がいかないと県民から怒りの声があがったことから、日米地位協定の運用などを話し合う日米合同委員会で、アメリカ側は日本に対し、起訴前の身柄の引き渡しに「好意的な配慮をする」として運用を改善するとした。
しかし、県民の声を無視するかのように状況は変わらない。

2002年に当時の具志川市で、アメリカ軍の少佐による女性への暴行未遂事件が発生。
当時、県警で刑事部長を務め、捜査を指揮していた稲嶺さんらは逮捕状を取り、アメリカ側に身柄の引き渡しを求めたものの要求は拒否された。

沖縄県警 元刑事部長 稲嶺勇さん:
同意を得られなかった事は極めて遺憾である

運用改善ではなく、地位協定の「抜本改定」が改めて求められた。

沖縄県警 元刑事部長 稲嶺勇さん:
証拠も収集しているのに、身柄は向こうにあること自体は刑事としては消化不良だよね。当然米軍は、自分たちの同士を守るという義務があるわけだから、身柄の引き渡しについては意見の相違があったのは間違いないな

米兵に暴行されたオーストラリア出身女性 20年間「改定」を訴え続ける 

地位協定の改定に声を上げ続ける女性がいる。オーストラリア出身のキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんだ。キャサリンさんは20年前、神奈川県で横須賀基地に所属するアメリカ兵から、性的暴行を受けた。

キャサリン・ジェーン・フィッシャーさん
本当に混乱状態で、さっぱりどうなっているのかわからないから本当に自殺したかった。そのぐらいひどかった

暴行したアメリカ兵は特定されたものの、横浜地検は理由を明らかにしないまま、本人を不起訴処分に。納得がいかなかったキャサリンさんは裁判を起こし、裁判所は暴行したことを認め損害賠償を命じるも…
この裁判中に、軍の指示でアメリカ兵が母国に逃走したために支払われないままだった。
キャサリンさんは政府に対し、日米地位協定の16条にはアメリカ兵らは日本国において、日本国の法令を尊重する義務があると記載されていると訴えた。

キャサリン・ジェーン・フィッシャーさん
日本の政府が尊重しか書いてないから、私達は何もできませんって言われちゃって。私はこんなに不合理なことはおかしい。逃げてしまったから連れてきてくださいよっていったんですけど、出来ません。地位協定あるからダメですと。遵守、従うということはなっていませんから何もできない

キャサリンさんは不条理が続く現状を改善しようと、これまでの実態を綴った本を出版したり、政府に直接訴えたりと20年もの間行動し続けている。

キャサリン・ジェーン・フィッシャーさん
日本の政府が何もしないとなれば、これは絶対に地位協定を見直すしかないんですよ。もうそれしかない。この地獄を見てほしくないんですよ。経験してほしくないの

なぜ日米地位協定は改定されないのか? 海外との違い

日米地位協定が発効されてから62年経つが、不条理な協定はどうして一度も改定されないのか。日米の安全保障に詳しい沖縄国際大学の前泊教授は次のように分析する。

沖縄国際大学教授 前泊博盛 さん:
日米安保が日本を守ってくれているんだから、多少の問題には目をつぶろうというというのが…日米地位協定の不合理性についても、不条理についても、それから主権を脅かされてもしょうがないよという、そういう判断になっているんだと思いますね

アメリカ軍基地が集中する沖縄では、機体が墜落した際、日米地位協定を理由に現場や機体の捜査が出来なかった。
また、基地から人体に有害な有機フッ素化合物・PFASが漏れだした際にも、県の立ち入り調査が出来なかったりと、これまで幾度となく地位協定が壁となり、県民の生活を脅かしてきた。
ただ全国的には、暮らしとはかけ離れたもので関心も薄いのが現状だ。

一方で、アメリカ軍が駐留するドイツやイタリアなどでは、様々な事件や事故を契機に地位協定の改定や新たな協定を結ぶことで、日本とは違いアメリカ軍には国内法が適用されている。

沖縄国際大学教授 前泊博盛 さん:
この地位協定はいつ作られたかというと、朝鮮戦争の最中に作られてるわけですね。ですから有事法です。有事において、アメリカ軍に対して規制をできないような形で結ばれたのがこの地位協定です。
しかし今、平時においてこの有事法が跋扈してるわけですから、だからアメリカ軍に対して物が言えない状況になっちゃってるわけですね。
ですから、平時における地位協定のあり方を別に議論をしたほうがいいと

沖縄が日本に復帰してから今年で50年。いつまで不条理が続くのか。かつて沖縄が求めてきた主権が回復したといえるのか。国民一人ひとりが改めて考えていかなければならない。

(沖縄テレビ)

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