仕事をするうえで意外と時間がかかってしまうのが、「ビジネスメール」だ。休み明けの月曜の午前中は、メールの送信だけで終わってしまうという人も、少なくないのではないだろか。

こうした中、メールに割く時間を大幅に減らしてくれるかもしれないAIが登場した。

東京大学発のスタートアップ、株式会社ELYZA(イライザ)が開発したのは、「キーワードを入力すると、約6秒で日本語の文章を生成できる大規模言語AI」だ。

ELYZAはこれを、文章執筆AI『ELYZA Pencil(イライザ・ペンシル)』として、3月28日にデモサイトを一般公開した。

ELYZA Pencil(出典:ELYZA Pencilデモサイト)
ELYZA Pencil(出典:ELYZA Pencilデモサイト)
この記事の画像(6枚)

『ELYZA Pencil』は、キーワードを数個入力するだけで、約6秒で日本語のタイトルや文章を自動生成してくれるAI。デモサイトでは「ニュース記事」「メール文」「職務経歴書」の3種類の文章に対応している。

たとえば、「メール文」を選び、「野田様」「日程調整」「お願い」「今週中」という4つのキーワードを入力して、執筆を指示すると、以下のようなタイトルとメール文が生成される。

<タイトル>
「日程調整のお願い」

<本文>
野田様
いつも大変お世話になっております。
この度はお忙しい中、ご丁寧にメールを頂き
誠に恐れ入ります。
来週予定しておりました打ち合わせの日程ですが、
野田様のご都合はいかがでしょうか。
勝手を申し上げて大変恐縮ですが、
今週中にお返事を頂けると幸甚でございます。
なお、本メールと行き違いでご連絡を頂いておりましたら
何卒ご容赦くださいませ。
お忙しいところ大変恐縮ですが、
何卒宜しくお願い申し上げます。

AIが執筆したメール文(出典:ELYZA Pencilデモサイト)
AIが執筆したメール文(出典:ELYZA Pencilデモサイト)

メール本文を読むと、不自然な日本語はなく、自然で流暢、さらに誤字もない。

なお『ELYZA Pencil』と人間(東大生)の執筆についての比較検証では、「正確性」「キーワード含有率」については東大生に負けたものの、「速度」は56分の1と圧倒的なスピード差をつけ、「流暢性」では同等水準の結果になったという。

膨大な日本語のテキストを読み込み学習

ではなぜ、このような自然な文章を書けるのだろうか? また、書くのが難しい文章はあるのだろうか?

株式会社ELYZAの代表取締役・曽根岡侑也さんに仕組みや今後の課題を聞いた。

――『ELYZA Pencil』を開発したのはなぜ?

近年、AIの中でも、自然言語処理という「言語を扱うAI=大規模言語AI」が大きな進化を遂げています。

株式会社ELYZAでは、その進化を巻き起こしている「大規模言語AI」という技術を日本語に適用するため、研究開発を行っています。

いろいろな企業の方との議論の中で、ホワイトカラーの方の業務の中で、文章を作成する業務が負担になっていることが多く、日本語に特化した「大規模言語AI」を用いて解決するため、『ELYZA Pencil』の開発を続けています。


――「キーワードを入力するだけで、約6秒でAIが日本語のタイトル・文章を自動生成」。これはどのような仕組み?

与えられた「キーワード」を基に、AIが関係する言葉を自然な文法になるように並べ、“もっともらしい文章”をつくっていくような仕組みになっています。

イメージ(メールの文章を考えている女性)
イメージ(メールの文章を考えている女性)

――文章が自然で流暢、さらに誤字もない。なぜ、このような自然な文章を書けるの?

『ELYZA Pencil』は、まず、膨大な日本語のテキストを大量に読み込み、日本語をしっかり学習した上で、文章を書く方法を学んでいます。日本語の学習の中で、文法や自然な単語の連なりを学んでいるということになります。

今後の課題は「正しい事実に基づいて書けるか」

――『ELYZA Pencil』を無料で公開しているのは、なぜ?

公開したサイトは、あくまでも、デモ用のサイトだからです。


――今後、有料にする予定は?

現状は、公開したサイトを有料にする予定はないです。一方、『ELYZA Pencil』を進化させていく中で、文章作成を支援するサービスを展開する可能性はございます。


――『ELYZA Pencil』が自動で生成できるのは「ニュース記事」「メール文」「職務経歴書」の3つ。今後、これ以外にも生成できる文章は増えていく?

生成できる文章の追加は、未定です。現在、生成できる3つの文章以外で、『ELYZA Pencil』の技術を活用できる可能性があると考えているのは、「広告文」や「契約書」などです。

ELYZA Pencil(出典:ELYZA Pencilデモサイト)
ELYZA Pencil(出典:ELYZA Pencilデモサイト)

――『ELYZA Pencil』では、生成するのが難しい文章はある?

生成が難しい文章というものは、あまりないのでは、と感じています。一方で、『ELYZA Pencil』を実際に活用する上では、「正しい事実に基づいて書けるか」「新しい言葉を理解して書けるか」などは、課題として残っているように感じています。

キーワードの入力画面(出典:ELYZA Pencilデモサイト)
キーワードの入力画面(出典:ELYZA Pencilデモサイト)

多くの人の頭を悩ませている、ビジネスメールを“書く”という業務。これを完全にAIが担ってくれる日はいつになるだろうか。

株式会社ELYZAは、ホワイトカラーの“書く”業務を『ELYZA Pencil』がサポートしていくことで、全国民のホワイトカラーの業務を10%以上、AIへ代替できる可能性があるのではないかと想定している。

職務経歴書や契約書なども含め、“書く”業務をAIが完全にサポートしてくれる日が近いうちに訪れることを期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。