近年、様々な場面でサービスロボットが活用されつつある。

こうした中、2月28日~3月2日にオンラインで開催された、情報処理分野の発表会「インタラクション2022」で、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の研究チームが発表した研究、「ロボットの台数が増えることで謝罪の効果は高まるか?」がTwitter上で話題となっている。

きっかけとなったのは、北海道情報大学 情報メディア学部 情報メディア学科の湯村翼准教授(@yumu19)の2022年3月1日のツイート。

湯村准教授は【「ロボットの台数が増えることで謝罪の効果は高まるか?」面白すぎる】というコメントと共に、ATRの研究チームが発表した研究内容が記された資料の画像を投稿したところ話題となった。

研究の背景は「人型ロボットのサービスの普及」

Twitter上で話題となったATRの研究。背景となるのは、人型ロボットのサービスの普及だ。

人型ロボットがサービスを行うケースが多くなってきた一方で、人型ロボットの失敗は信頼性や利用頻度の低下につながり課題となっている。

こうしたことから、研究チームは、ロボットが失敗した後の対応が重要な課題とし、謝罪を1台のロボットではなく、2台のロボットで行うとどうなるかを検証した。

検証では、複数の人型配膳ロボットが働くレストランを想定。
配膳を行うロボットには、Softbank Robotics社製のPepper(ペッパー)を使用し、配膳中のソフトクリームをトレーごと落とすという、失敗のシーンを設定した。

“1台で謝罪する場合”は、1台のロボットがお客さんの前で商品が乗るトレーを落とし、「ああ!こぼしてしまいました、大変申し訳ございません」の音声と頭を下げての謝罪。

続けて、「新しいものをすぐにお持ちします。本日のお代は結構ですので」と再び頭を下げ謝罪する。
 

“2台で謝罪する場合”は、1台目がソフトクリームを落とした後、もう1台が登場。
1台の場合と同じ“謝罪の音声”が流れた後、2台で一緒に頭を下げて、謝罪を行う。
 

今回の実験では、ロボットが“1台で謝罪する様子”と“2台で謝罪する様子”を客目線でビデオに撮影。

その動画を、168人の男女(年齢21~70歳 男性86名、女性81名、回答しない1名)に見てもらったうえで、「ロボットを許すことができたか」、そして、何台で謝罪をするのが好ましいと思ったか」を評価してもらう、アンケート調査を行った。

その結果、“1台”よりも“2台”で謝罪する方が「許容の度合い=許すことができる度合い」が高くなったことが分かった。

ロボットを許せたかに関するアンケート結果(提供:国際電気通信基礎技術研究所)
ロボットを許せたかに関するアンケート結果(提供:国際電気通信基礎技術研究所)
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また、謝罪するのに好ましい台数については、“2台”を好ましいと回答した人の方が“1台”よりも多いことが分かっている。

好ましい台数に関するアンケート結果(提供:国際電気通信基礎技術研究所)
好ましい台数に関するアンケート結果(提供:国際電気通信基礎技術研究所)

今回の研究結果は「1台より2台の方が、客はロボットに対して寛容になること」を示しているわけだが、これはなぜなのか?

また、今回の研究結果は、どのようなことに活用できるのか?


今回の研究の責任者で、ATR(国際電気通信基礎技術研究所)インタラクション科学研究所の室長、塩見昌裕さんに話を聞いた。
 

謝罪するロボットの“台数”に着目した理由

――「ロボットを許せたかに関するアンケート結果」に関して。1台と2台、それぞれの評価値は?

平均値で1台が5.12、2台が5.36になります。
 

――「好ましい台数に関するアンケート結果」に関して。1台と2台、それぞれの人数は?

1台が44人、2台が83人、どちらでも同じが41人です。
 

――このような実験を行った理由は?

人型ロボットによる街角でのサービスの提供も、これから増えていくと予想されますが、それに伴って、ロボットの失敗も増えると思います。

ロボットの失敗をリカバー(=取り戻す)するための戦略として、人が行っているように、複数のロボットで謝罪することが、より効果的ではないかと考えて、その検証を行いました。
 

――謝罪するロボットの“台数”に着目した理由は?

我々が過去に行ってきた研究で、ロボットが1台で話すよりも2台で話すことで、情報がより伝わりやすかったり、褒めの効果が強くなったりすることが示されていて、謝罪の場面でも同じ効果が期待できるのではと考えました。

また、実際のお店でも、店員さんが失敗したときに周りの手が空いている店員さんが一緒に謝ったりすることもあるので、ロボットの台数も効果があるのではと思いました。

ロボット2台で謝罪(提供:国際電気通信基礎技術研究所)
ロボット2台で謝罪(提供:国際電気通信基礎技術研究所)

――実験を行うにあたって、こだわったポイントは?

人が失敗した時と同じように、お客様に対する申し訳ないという気持ちや失敗に対する焦りをロボットで表現するために、視線や細かい動きをこだわりました。

2台目が登場する際は、1台目が謝罪するタイミングを考慮して、できるだけ自然に謝罪へ加わったと感じられるように、何度も修正しました。

人は「謝罪のコスト」が高いほど、誠意のある謝罪であるとみなす

――「1台より2台の方が、客はロボットに対して寛容になる」、この理由として考えられることは?

人は、「謝罪のコスト」(=被害を補償する、謝罪を他の予定より優先するなどの謝罪する側の不利益)が高いほど、誠意のある謝罪であるとみなすことが知られています。

謝罪するロボットが増えることで、お店側がより謝罪にコストをかけていると感じ、ロボットに対して寛容になったのではないかと考えています。

ロボット1台で謝罪(提供:国際電気通信基礎技術研究所)
ロボット1台で謝罪(提供:国際電気通信基礎技術研究所)

――ロボットが2台で謝罪することは、人間が謝罪するケースの1つ、「上司が出てきて一緒に謝るとき」と同じような印象を、謝罪される側に与える?

今回はあえて、同じ見た目のロボットを使ったので、「上司が出てきて一緒に謝るとき」とは違う印象だったと思います。

ですが、上記の「謝罪のコスト」を考えると、【「上司が出てきて一緒に謝るとき」のコスト=2人目が謝罪するコスト+地位の高い人が謝罪するコスト】になるかと思いますので、2台目のロボットが責任者であるように感じられる見た目にすることで、そのような印象を与えられる可能性がありそうです。
 

――「1台よりも2台で謝罪する方が好まれる」、この理由はどのように分析している?

上記と同様に、ロボットが2台で謝罪することで、より誠意を感じたためではないかと考えています。

「人とロボットが一緒に活躍する未来につながってほしい」

――今回の研究結果、どのようなことに活用できる?

複数のロボットが活躍するお店で、あるロボットが失敗して謝罪をしている時に、近くにいた手の空いているロボットが、一緒に謝罪をしてくれるようなシステムの実現につながると考えています。

我々も、仕事仲間や友人が失敗したときには、一緒に謝ったり、手伝ったりしますよね。

人のパートナーとなるようなロボットが出来たときには、人が失敗したときに一緒になって謝ってくれるロボットや、失敗したロボットに寄り添って、一緒に謝る人も増えるのではないでしょうか。そのような、人とロボットが一緒に活躍する未来につながってほしいです。
 

今後、増えていくとみられる、人型ロボットによる接客。
ミスをすることもあるが、その後の対応がロボットの普及につながる。どのような謝罪が効果的なのか、今回の研究結果が、その一つの答えを示してくれているのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。