長野県松本市のシングルファーザー。新型コロナウイルスの影響で収入が減り苦しい日々だが、2021年春から続けていることがある。高校生の息子に持たせる毎朝の弁当作りだ。

高校生の息子へ 毎朝「パパ弁」作り

午前6時半。松本市の奥家正史さん(60)。ひとり息子のために毎朝、いわゆる「パパ弁」を作っている。

息子のお弁当を作る奥家正史さん(長野県松本市)
息子のお弁当を作る奥家正史さん(長野県松本市)
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奥家正史さん:
牛豚のひき肉に卵を溶いているもの、料理名とかは特にないですけど…。献立を考えるのが大変。世の中のお母さんはすごいなと頭が下がる思い

買ってきた総菜や冷凍食品も使いながら、手早くおかずを詰めていく。ちょっと「茶色」が多めのボリューム感ある弁当ができた。撮った写真は毎朝SNSに投稿していて、その数は150枚に。

奥家正史さん:
自己満足というのと、横浜の友達に頑張ってやってるよという姿を見せたくて

考え方の違いなどから奥家さんは6年前に離婚し、息子の正道さん(16)と2人暮らし。弁当作りは正道さんが高校生になった2021年春から始め、もうじき1年になる。

奥家正史さん:
しっかりやってこい。いってらっしゃい

長男・正道さん:
いってきます

正道さんを送り出し、自身も仕事へ向かう。

コロナ禍で切り詰めた生活…SNSでのつながりが励み

奥家さんは横浜市出身。営業マンだった1995年、松本に転勤してきた。自然豊かなところが気に入り、松本で仕事を見つけて家庭を持った。

状況が一変したのは2010年。変形性股関節症を発症して人工股関節を入れる手術を受け、それまでのように働けなくなった。

奥家正史さん:
健常者の時の社会生活と、障がい者になった時のギャップがあまりにありすぎて。世間にお伝えしないと理解してもらえないことが多々あるので

奥家さんは福祉関連のイベント会社を設立する一方、3年前に障がい者への理解や支援を広める福祉団体も立ち上げた。イベントの収入で生計を立ててきたが…。

奥家正史さん:
経済面は本当に苦しいですね、ギリギリでやらないといけないものですから。コロナ禍で講演活動や障がい者スポーツの体験会もできないし、大変ですね

コロナの臨時給付金には助けられたが、切り詰めた生活が続いている。

「ひとり親支援協会」が2021年2月に実施したアンケートでは、7割の世帯が「コロナ禍で収入が減少・または減る見込み」と答えた。

ひとり親世帯の平均年収は父子世帯が420万円、母子世帯が243万円。父子世帯の方が収入は多いものの、シングルファーザー特有の悩みもある。

奥家正史さん:
よく母子家庭さん同士で集まったりして悩みを打ち明けたり、サークルはあるけど、父子家庭ってなかなかそういうコミュニティーをつくるのも難しい。父さん同士でも大変なことがあったら、ちょっとでも話し合って解決できる場があればいいのかな

長野県内の父子世帯は2900世帯、母子世帯は2万1850世帯。数が少ない上、つながりが薄く孤立しがちと言われている。奥家さんが弁当の写真を発信するのは、必ず見てくれる人がいるから。SNSでのつながりが励みになっている。

奥家正史さん:
知り合いから「いいね」とか「頑張ってるね」という言葉があると励みになるので

「きょうもおいしい」サッカーの練習に気合

松本第一高校。授業が終わり、昼食の時間。

長男・正道さん:
おいしいです。弁当ないと頑張れないので(父には)感謝です、本当に。午後も頑張ります、めっちゃ頑張ります

正道さんはサッカー部員。「まん延防止」措置で部活がないため、公園で自主練習中だ(※2月22日取材)。サッカーを始めたのは小学校1年で、手ほどきをしてくれたのは、かつて社会人クラブでプレーしていた父・正史さんだ。

長男・正道さん:
サッカーをやってた父親の写真を見て、かっこいいなと思って始めました。小学校の時とかキーパーをやってもらって、たくさんシュート打たせてもらいました

練習を終え、正道さんが帰宅。

長男・正道さん:
きょうもおいしかったです。ありがとうございます

奥家正史さん:
ご苦労さん。おー冷えてる、冷えてる。何がうまかった?

長男・正道さん:
やっぱり、から揚げ

子どもの将来を楽しみに「卒業まで作り続けたい」

奥家正史さん:
やっぱり、うれしいですよね。すごくおいしかったよと言ってくれると、作り甲斐がある

そして、2人で夕食。

奥家正史さん:
豚汁のおかわりは?

長男・正道さん:
豚汁は厳しい。汁もの、おなかいっぱいになる

父との生活を選んだ正道さん。今はサッカーに打ち込むことが、父への感謝になると考えている。

長男・正道さん:
自分の夢がプロサッカー選手で、期待してくれてるので。お父さんにはもう少し支えてもらって、いいところをたくさん見せられたらな

奥家正史さん:
生きる目標というか、彼のために生きている形ですね。(自分の)これから先を見るよりも、子どもの先を見た方が楽しみが多いもので、残りの人生の楽しみ方ってそこかなと思って応援しています。高校卒業するまでは頑張って弁当を作ります

コロナ禍を生きる親子2人。父の作る弁当には、期待や希望も詰め込まれている。

(長野放送)

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