“スマホ”よりも“紙の本”の方が「読解力」が高まるとみられる

電子書籍の普及により、スマホで本を読むことも、読書の一つのスタイルとして定着しつつある。

こうした中、興味深い研究結果が2022年1月31日に発表された。

“スマートフォン”よりも“紙の本”の方が「内容を記憶しやすく読解力が高まる」とみられる。

この研究結果を発表したのは昭和大学の本間元康講師、泉﨑雅彦教授らの研究チームで、論文は科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。

研究チームは、作家・村上春樹さんの小説の一節を学生34人に、“紙の本”か“スマホ”で読んでもらい、その後、主人公の見た風景や登場した会社名など、記憶や読解力に関する設問を10問、出題した。

1問1点で採点したところ、“紙の本”で読んだ場合は平均8.9点、“スマホ”では7.4点だった。

この結果を受け、研究チームは、“スマホ”よりも“紙の本”の方が「内容を記憶しやすく読解力が高まる」とみられると分析している。

“スマホ”よりも“紙の本”の方が「内容を記憶しやすく読解力が高まる」とみられるとのことだが、この理由は何なのか?

また、この研究では、読書中に「ため息(深い呼吸)」をした回数は、“紙の本”で平均3.3回、“スマホ”では1.8回だったことも分かった。

「ため息(深い呼吸)」というとネガティブな印象もあるが、その回数は、本の読解力に影響しているのか?

昭和大学医学部・生理学講座生体調節機能学部門の専任講師、本間元康さんに話を聞いた。

研究のきっかけは「大きなため息をする女性」

――このような研究を行った理由は?

隣で仕事をしていた女性がコンスタントに大きなため息をする方だったので、どうしてそんなにため息をするのか、気になったところから研究を始めました。

先行研究を調べていくうちに、ため息は社会的なコミュニケーション上でのネガティブな印象とは異なり、認知機能にはポジティブな効果をもたらしていることが分かり、関心を持ちました。

今、思えば、彼女は無意識的にため息で仕事の効率を高めていたのかもしれません。
 

――この研究を行ったのは、いつ?

研究の構想は2019年6月から、実験自体は2019年11月から2020年1月までの間に行いました。
 

――研究の対象は、昭和大学の学生?

学外ですが、全員大学生でした。
 

――「村上春樹さんの小説」のタイトルは?

研究参加者には2つの小説を読んでもらい、『ノルウェイの森』と『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の一部を使用しました。
 

――村上春樹さんの小説を選んだ理由は?

世界的に有名なので、実験内容も想像しやすいと考えました。

同じ作家の小説を選んだ理由は、作家の違いが結果に影響を与える可能性など、少しでも余計な要因を省きたかったためです。

イメージ(読書)
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――学生に読んでもらった小説の一節の分量は?

どちらの小説も日本語で約3000文字でした。
 

――紙の本かスマホで読むとき、読む時間に制限は設けていた?

時間制限は設けていませんでした。
のちの分析で、2種類の小説で読む時間に差が無いことを確かめています。
 

――「記憶や読解力に関する設問」、具体的には?

例えば、「主人公が使用した空港の名前は?」「主人公の日課は?」などの質問に対して、5つの選択肢から選ぶ形式でした。
 

“紙の本”の方が「読解力」が高まるとみられる理由

――今回の研究において、「ため息(深い呼吸)」とは、どのような状態を指している?

今回の研究では、各個人の平均呼吸換気量の2倍を「ため息(深い呼吸)」と定義しました。

イメージ(ため息)
イメージ(ため息)

――“スマホ”で読んだ場合より“紙の本”で読んだ場合の方が、点数が高かった。この理由としてはどんなことが考えられる?

これまでの研究でも、“電子機器”を使用すると、“紙”と比べて、読解問題の成績が低下するという報告はいくつかありました。

そこで今回の我々の研究では、“なぜ”電子機器を使用すると、読解問題の成績が低下するのかというテーマで、呼吸と脳の活動から検討しました。

研究の結果として、“スマホを使用した読書”は“紙の本を使用した読書”と比べ、ため息(深い呼吸)の回数が少なくなり、前頭前野(脳)の活動量が増加し、記憶や読解に関する設問の正答率が低下しました。

“スマホを使用した読書”では、読解問題の成績の結果に基づくと、前頭前野(脳)の活動は過活動状態だったと考えられます。

“紙を使用した読書”では、ため息(深い呼吸)がその過活動を抑制し、認知機能に良い影響を与えたと解釈しました。
 

――前頭前野(=脳)の過活動が見られると、読解の成績が低下する。これはなぜ?

例えば、統合失調症の患者さんでは、健常者と同じ問題を解いているにも関わらず、脳の活動量が健常者よりも増加し、その成績が低下しやすいと報告されています。

この場合の患者さんの脳は、過活動(=overactivity)状態であると推定できます。

すなわち、余計な脳の活動によって、課題の遂行が非効率になっていたのかもしれません。今回の結果でも同様のメカニズムが作用していたと考えました。
 

――紙の本で読んだ場合の方が、深く呼吸した回数が多かった。この理由としてはどのようなことが考えられる?

先行研究ではブルーライトがストレスや学習機能に悪影響を与えるという知見、また、別の先行研究ではブルーライトが強制的に注意を持続させるという知見もあります。

我々の実験でもスマホのブルーライトが脳機能に影響して強制的に注意機能が高まり続け、深い呼吸の発生に悪い影響を与えたと推測しました。

ただ、ブルーライトを要因にした実験を行っていないので、それは今後の課題です。

イメージ(スマホで読書)
イメージ(スマホで読書)

――「ため息(深い呼吸)」をした回数は、読書にどのような影響を与える?

先行研究では、「ため息(深い呼吸)」が呼吸の変動(=乱れ)をリセットするという結果があり、また、動物実験ですが、呼吸が脳の海馬(=記憶)に影響を与えるという結果があります。

我々の実験でも同様のメカニズムが働き、「ため息(深い呼吸)」が読書における記憶や読解に良い影響を与えていたと考えています。
 

「個人的にスマホでの読書はあまり内容が入ってこないと感じていた」

――今回の研究結果、どのように受け止めている?

個人的にスマホでの読書はあまり内容が入ってこないと感じていたので、それをため息(深い呼吸)の減少と脳の過活動という形で示すことができて、納得した点が多いです。
 

――今回の研究結果、どのようなことに応用できる?

意識的な深い呼吸でも、認知機能にポジティブな効果があるという先行研究もありますので、スマホなどの電子機器を長時間、使用している方には、ところどころで深呼吸を入れた方が良いと提言します。

イメージ(紙の本とスマホ)
イメージ(紙の本とスマホ)

――今回の研究結果を踏まえ、出版社は、紙の本とスマホをどのように使い分けていけばよいと思う?

スマホなどの電子機器の利便性は計り知れないので、多くのことは紙に置き換えることはできないと思っています。

ただ、“スマホなどの電子機器”か“紙”、どちらでも同じ目的が果たせる場合は、“紙”をおすすめしたいと考えています。

 

“スマートフォン”よりも“紙の本”の方が「内容を記憶しやすく読解力が高まる」とみられる、という今回の研究結果。
あくまでも一つの研究結果ではあるが、スマホで本を読む場合は、読書中に深呼吸を挟むことをおすすめしたい。