アメリカの物価の上昇に歯止めがかからない。モノやサービスの価格を示す1月の「消費者物価指数」は7.5%も上昇し、40年ぶりの高い伸び率となった。食料品やガソリン価格も高騰し、その影響は2月14日のバレンタインデーをも直撃する形となっている。

アメリカ国民の不満がバイデン政権に向かう一方で、新型コロナウイルスのワクチン接種が進んだ結果、アメリカ国内ではバレンタインデーに合わせた消費者の購買意欲が急増していた。

2022年の消費額「過去2番目に高い」と予想

日本でもバレンタインデーは、自分や家族にチョコレートをプレゼントしたり、花を贈る「フラワーバレンタイン」など、新しい動きが若い世代を中心に広がっているが、一般的には女性が男性にチョコレートなどを送る日というイメージも未だに強いかもしれない。
しかし、アメリカのバレンタインデーでは、家族や親しい友人にプレゼントを贈るほか、カップルは一緒にディナーを楽しむなど、過ごし形には違いが見える。ペットに感謝の気持ちを伝えるメッセージカードを送るのも人気だという。

NRF(全米小売業協会)などによる調査では、2022年のバレンタインデーの消費額は約239億ドル(約2兆7600億円)に達し、過去2番目に高い年になると予想されていて、市場規模はとてつもなく大きい。バレンタインデーの贈り物には1人当たり平均で約175ドル(約2万円)費やすと見込まれている。

人気の上位はキャンディーやグリーティングカード、花やチョコレートだ。若いカップルの間では、ディナーを共にしたり、コンサートやスポーツイベントの「体験ギフト」を購入するのが人気のようだ。日本と比べて、カップルの場合には男性が女性に「感謝」の気持ちを伝えるケースが多く、ジュエリーの購入などを検討する人も少なくない。

2022年は特に新型コロナウイルスの感染拡大から経済回復が進んだこともあって、消費者の購買意欲が非常に高まっているとみられている。そんな中、急激に進むインフレはどのようにバレンタインデーに影響を及ぼしているのだろうか。

原材料や輸送費の影響で値上げ…でも「売れてます!」

首都ワシントンの人気スポット「ユニオン・マーケット」にある、有名チョコレート店「Arcay Chocolates(アルカイ チョコレーツ)」。この店のダリオ・ベルティCEOは、今季はトリュフのチョコレートや、チョコレートボムと呼ばれる新しい商品が人気だと語る。

「Arcay Chocolates」のダリオ・ベルティCEOと妻のアナベーラさん
「Arcay Chocolates」のダリオ・ベルティCEOと妻のアナベーラさん
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ワシントン市内の人気スポット「ユニオン・マーケット」の店舗
ワシントン市内の人気スポット「ユニオン・マーケット」の店舗
店内では毎日チョコレートを手作りしている
店内では毎日チョコレートを手作りしている

ダリオさんに、インフレの影響について聞いてみると不安と期待が交錯した。

ダリオ・ベルティCEO:
チョコレートのような原材料だけでなく、パッケージにも影響が出ています。アジアやインド、パキスタンなど海外からの輸入が多いので、その影響があります。2021年12月のハンドメイドボックスの最後の注文では、元の価格の20~25%上がりました。全体の商品価格は7~9%上がっています。

ただ、ダリオさんによると、全てがオンライン販売だった2021年に比べ、対面での販売が復活したことで売り上げは絶好調。「日に日に良くなっている」として、今後に大きな期待を示していた。

ダリオ・ベルティCEO:
ガソリン価格が以前より高くなったため、輸送費が高くなり、商品のコストが上がることがあります。それは普通のことです。パンデミックから脱し、私たちは正常な状態に戻りつつあります。私は非常に楽観的で、すべてが再び軌道に乗るだろうと信じています。

2022年の人気商品「チョコレートボム」
2022年の人気商品「チョコレートボム」
チョコレートの詰め合わせはインフレの影響で48ドルが56ドルに値上げ
チョコレートの詰め合わせはインフレの影響で48ドルが56ドルに値上げ

1年に1度の特別な日「値段は気にしない」

ワシントン市内ではチョコレートに限らず、生花店や、雑貨店などで軒並みバレンタイン商品が値上げされていた。街の人にバレンタインデーとインフレをどう思っているのか、聞いてみた。

買い物をしていた女性は、子どもにぬいぐるみとチョコレートをプレゼントするほか、子どもの学校の先生にもプレゼントを贈るという。「みんなバレンタインデーを祝うのが好きだと思うし、私にとってはおいしいチョコレートね。年に一度のちょっと特別なおいしいチョコレートのために、いつもちょっと値段が高いけど(買うんです)」と、値段はあまり気にしない模様だ。

1年に1度の特別な日に「値段は気にしない」と話す女性
1年に1度の特別な日に「値段は気にしない」と話す女性

子ども連れの女性は、バレンタインデーに映画を見てからレストランに行く予定だという。「インフレが進行していて、何をするにしても2021年より高くなると思う。」と嘆く彼女に、政府の対策に満足しているか聞いてみたところ、コロナ対策として政府がお金を各家庭や個人に支払った政策を評価しつつ「危機的状況でないことを願うが、それは誰にもわからない」と答えていた。

子どもと買い物に来ていた女性はインフレの今後に不安を吐露した
子どもと買い物に来ていた女性はインフレの今後に不安を吐露した
妻とは「バレンタインデーに贈り物はしないことで合意した」と語った男性 ディナーを楽しむつもりだという
妻とは「バレンタインデーに贈り物はしないことで合意した」と語った男性 ディナーを楽しむつもりだという
彼女には花とチョコレートを「愛している」のメッセージ付きで贈ると話す男性
彼女には花とチョコレートを「愛している」のメッセージ付きで贈ると話す男性

先行き不透明なインフレが直撃する中でも、アメリカ国民の購買意欲は旺盛なようだ。
現地の報道では、バレンタイン当日の飲食店でのデート用の席の値段や、バラの花束の値段も跳ね上がっているという。

インフレは確かにアメリカ国民の生活を圧迫し、バイデン政権にとって政権を揺るがす大きな課題となっている。一方で、アメリカ国民としては、新型コロナウイルスからの脱却を果たし、2022年こそは1年に1度の大切な日を、お金に関係なく素敵に過ごそうと思っていることが窺えた。

【執筆:FNNワシントン支局 中西孝介】

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。

国際取材部
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