90年続く長野県岡谷市のみそ蔵。姉妹が力を合わせ、4代目の父から受け継ごうと奮闘中だ。みその魅力の発信にも力を入れていて、おすすめ鍋料理も提案している。

姉妹で守る、国産原料にこだわった味噌

午前5時、創業90年のみそ蔵「喜多屋醸造店」。

喜多屋醸造店(長野県岡谷市)
喜多屋醸造店(長野県岡谷市)
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みそを仕込むため、日の出前から米麹をかき混ぜる長峰愛さん(34)と佐々木彩さん(33)。2人は姉妹だ。

姉・長峰愛さん:
お互い考え方の違いもあるので、すり合わせていかないと。「何でこうなるの」となると大変なので、なるべく早い段階から相談するように

2人は父の一夫さんから、みそ蔵を受け継ごうと修業中だ。

店は1932年(昭和7年)、初代・佐々木新七さんが酒の販売の傍ら、製糸工場のみそやしょうゆを造る「醸造部」を買い取ったのが始まりで、戦後にみそ専業となった。

2代目の父を早くに亡くし、3代目の母を助けて4代目となった一夫さん。国産原料にこだわって造った「雪娘」を一番人気のシリーズに押し上げた。

4代目・佐々木一夫さん:
国産米の麹を丁寧につくった甘さ、やさしさ、豊かさを端的に出したのが「雪娘」の白。赤い方は豆のコクと香りの強いみそ

国産原料にこだわって造った「雪娘」
国産原料にこだわって造った「雪娘」

姉妹は、父自慢のみそを食べて育った。長女の愛さんは子どもの頃から料理好き。都内の専門学校で調理を学んだあと飲食店で働いた。

姉妹の幼少期
姉妹の幼少期

都会暮らしの中、忘れられなかったのが「実家」のみその味。仕事がうまくいかなかった愛さんに、父とみそがふるさとに帰るよう促した。

喜多屋醸造店のみそ
喜多屋醸造店のみそ

姉・愛さん:
うちのみそがおいしいのが一番だけど、東京に出てから自分自身の生き方に迷った時に父が声を掛けてくれて。「お前の居場所は俺が守るから」と。何とか恩返しがしたいと思って今、継ぐ形まできている

愛さんは10年前、店に入り、家庭を持ちながら主に広報活動などを担当してきた。

そして3年前、愛さんは市内の会計事務所で働いていた彩さんを店に誘った。長男が別の仕事に就いており、店の将来を考えてのことだった。

姉・愛さん:
社会経験の浅い私なので、私は彩とやりたいという思いを真剣に伝えたら、応えてくれた

妹・彩さん:
お姉ちゃんのみそへの情熱と、社長ができるところまでやったらやめるという話を聞いたときに、(店を)なくすのもなくさないのも自分次第かなと。そう思った時にやってみたいなと

妹・彩さん
妹・彩さん

こうして始まった姉妹のみそ修業。主な担当は麹の管理や大豆の下準備だ。

創業当初からあるレンガ製のボイラー
創業当初からあるレンガ製のボイラー

この日、仕込んだのは白みそ。創業当初からあるレンガ製のボイラーは火力が強く、大豆をふっくら炊き上げることができるという。長野県産の大豆を圧力釜で炊くが、時間はみその種類によって異なる。

県産の大豆を炊いてつくる
県産の大豆を炊いてつくる

姉・愛さん:
1分1秒でも違うと固さや味に変化がでるので、そこの管理が一番重要で大変と感じます

有機大豆の新商品開発 みそづくり講座で魅力発信

釜の番を彩さんに任せ、愛さんは朝食の準備。娘の光李ちゃんと朝食を食べる。

朝食の準備
朝食の準備

愛さんと娘:
いただきます

愛さんの娘・光李ちゃん:
おいしい!

姉・愛さん:
保育園にずっと行ってもらってるから一緒にいる時間が短いので、一つ一つ大切にしたい

そして再び、みその仕込みへ。炊き上がった大豆を冷ましてつぶし、米麹とまぜ合わせる。樽に入れたら酸化を防ぐため、踏んで空気を抜く。

この後、発酵させて短いもので4カ月、長いもので3年熟成させればみその完成だ。

朝食後は再び、みその仕込みへ
朝食後は再び、みその仕込みへ

実は2021年から、姉妹が考案した有機大豆のみそが販売されている。ブランド名は「しぜんと」。

姉・愛さん:
娘に食べてもらいたい、食べさせたいみそは何だと考えた時に、有機で造りたいなと思って。東京にいた時に体調を崩したことがあり、有機の野菜や食物を食べてパワーがあることを経験した。自分のところのみそも有機のみそで造りたいと思って、ブランドをつくるきっかけになった

1月29日、スマホに向かって話しかける愛さん。

姉・愛さん(みそづくり講座):
(大豆が)大粒であることによって、大豆のうまみ中にタンパク質がしっかり入っている

みその魅力を発信しようと安曇野のグループと協力し、みそづくり講座を開いている。今はコロナ禍のためオンラインも併用している。

参加者:
おうち時間も増え、自分たちで造ってみたいと思い参加したが、思った以上に力仕事で大変だった。どんなみそが出来るか楽しみ

姉・愛さん:
私と同じママさんに教えられた。皆さんが仕込んだみそが、食卓がより明るくなる一端を担えるようになってくれたらいいな

鍋とディップがおすすめ「皆が食べたくなるみそを」

実は愛さん、「みそソムリエ」という民間の資格も持ち、SNSでみそ料理のレシピを広めている。おすすめの料理を教えてもらった。

姉・愛さん:
「バターが決め手!豚バラ肉とキャベツのみそ鍋」を紹介します

すり鉢でみそとだし汁、みりん、鶏ガラだしを合わせて鍋に入れる。

そこにキャベツ、豚バラ肉を入れて煮込み、最後にバターとニラを加えれば、冬にぴったりの鍋になる。

記者リポート:
みそのコクとうまみがガツンときますね。とても体が温まります

続いて、手軽に作れるメニュー。ピーナツバタークリームと蒸したサツマイモ、みそを混ぜ合わせたディップだ。野菜スティックにつけて食べると…。

記者:
ピーナツとみその風味がまず来ます。すごくクセになりそうです

将来を見据え、新たなみそ造りと魅力の発信にも取り組む姉妹。見守ってきた父・一夫さんはどう思っているのか。

4代目・佐々木一夫さん:
儲かる儲からないよりは、お客さんが「喜多屋があってよかったな」と思ってもらえれば。真摯にまじめに一生懸命という姿勢を続けてもらえればな。(姉妹への)期待は大きいです。心配も、もっと大きいけど…(笑)

妹・彩さん:
毎日食べてるって人が増えるようなみそ、みんなが食べたくなるようなみそを造っていきたい

姉・愛さん:
食べておいしいが大前提。その中でこのみそなら絶対だよって、誰かに伝えたくなるようなみそを造っていきたい

(長野放送)

長野放送
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