そのツイートを見て一瞬「これはいったい誰だ」と思った。

マイク・ポンペオ前国務長官が、中国共産党による法輪功迫害を描いた映画『Unsilenced』を見て中国共産党を痛烈に非難し告発するツイートを28日に投稿したものだが、その写真の人物に見覚えがなかったからだ。

中国問題の研究家でポンペオ氏の長官時代の顧問だったマイルズ・ユー(余茂春)氏と並んで白人男性が写っていたのだが、それがポンペオ氏自身だと分かるまで数秒かかった。

私の知るポンペオ氏は、恰幅よく、太く短い首の上に乗った顔は二重顎で、頬は風船のように張りつめて針を刺せば破裂するように見えたものだった。

恰幅がよかった頃のポンペオ氏
恰幅がよかった頃のポンペオ氏
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それがツイッターの同氏は、ノーネクタイのシャツの襟元から首筋が伸び、頬の肉はそげ落ちたように見えるのだ。以前はスーツがパンパンに張ってボタンが弾き飛ばされるのではないかと心配するほどだったが、今は袖に皺も入ってオーバー・サイズのようにも見える。

減量前のポンペオ氏(左)と減量後のポンペオ氏(右)(右の画像は、本人のツイッターより)
減量前のポンペオ氏(左)と減量後のポンペオ氏(右)(右の画像は、本人のツイッターより)

6カ月40キロの減量に成功

トランプ政権終了後に病気にでもなったのかと考えて調べてみると、この間に大幅な減量に成功していたことが分かった。

その経緯をニューヨーク・ポスト紙がポンペオ氏に独占インタビューをして明らかにしていた。

それによると、2021年の6月14日、同氏が体重計に乗るとほとんど300ポンド(約136キロ)になっていた。ポンペオ氏は身長181センチ。大相撲で言うと若隆景と同じ背丈だが体重は6キロ重い。そこで同氏は次の朝、妻のスーザンさんにこう宣言したという。

「今日から始めるぞ!」

ポンペオ氏の自宅には地下にジムが作ってあったので、同氏はほぼ毎日そこでワーキングマシンとダンベルを使って30分ほどトレーニングをはじめた。また食事も正しく規制すると体重は目に見えて減り始めたという。

深夜に仕事をする同氏のコンピューターの脇からチーズバーガーや炭水化物系の食品、砂糖の菓子が姿を消した。

「一度すべてがうまく回り出すと大丈夫です。6カ月で90ポンド(約40キロ)台減っていました」

「太った政治家は意思が弱い」払拭へ

ウェストポイント(陸軍士官学校)を主席で卒業した経歴が示す強い意志があってこそ厳しい減量が成功したとも言えるが、ワシントンには見違えるほどの減量をした政治家は他にもいる。

2019年にトランプ大統領を弾劾訴追した下院司法委員長のジェリー・ナドラー議員(民主党・ニューヨーク州)は、身長160センチと米国人としては小柄だが体重はかつて338ポンド(約153キロ)もあり階段の上り下りもままならなかったが、2002年と03年に手術を受けて約100ポンド(約45キロ)減量した。

また2008年の大統領選に共和党から出馬したアーカンソー州のマイク・ハッカビー知事(当時)は、身長180センチで体重は280ポンド(約127キロ)あり、会議で座っていたアンティークの椅子が押し潰されたことで知られる。しかし大統領選のために減量をして170ポンド(約77キロ)まで体重を落としてスリムになることに成功した。

米国では肥満が社会問題化しており、太った政治家は「意志が弱い」と考えられ票が入らないので減量に励むと言われる。

ポンペオ氏の本当の狙いは…?

そこでポンペオ氏だが、2022年の中間選挙や2024年の大統領選挙に向けてはなんら意思表示をしていない。しかし大統領選では、トランプ氏が立候補した場合の副大統領候補としてポンペオ氏の名前を挙げるマスコミも少なくない。同氏の減量の努力は単に健康のためだけではないのかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。