2022年1月10日、大分・中津市内で営まれた告別式。祭壇でほほ笑むのは、中津北高校の書道教師、渡辺郁靖さん。
1月5日、60歳でこの世を去った。
病気と向き合った3年間、その懸命に生きる姿を、テレビ大分のカメラが記録した。
難病ALSと診断 その生きざまを映像に
渡辺さんは2019年、徐々に体の自由が利かなくなる神経の難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断された。
有効な治療法は確立されていない。
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中津北高校 書道教師・渡辺郁靖さん:
わたしが、今から逆にちょっとつらくなるかもしれないけど、歩けなくなったり、車いすになったり、次はもう寝たきりになったり、全てわたしが息を引き取るまで、彼が撮ってくれるということで
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困難に直面しても、生き抜く覚悟を決めた渡辺さん。
教え子であるテレビ大分のカメラマンに、自分の生きざまを映像に残すよう希望を伝えた。
徐々に進行する症状…家族の介護が不可欠に
ALSと診断されたあとも教壇に立ち、懸命に生徒を指導してきた渡辺さん。
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しかし病気は徐々に、体をむしばんでいった。
症状の進行にはあらがえず、2020年12月で休職することを決断し、生徒に別れを告げた。
渡辺郁靖さん:
この病気、ALSになって、誰かと出会い、話し、笑い、仕事ができる。こんな毎日が、奇跡の連続であることに気づくことができました。今までの全ての生徒たちに、ありがとうを言いたいと思います
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教壇を離れたあとも、渡辺さんの症状は悪化していく。
移動は電動の車イスに、動かせるのは指先だけになり、生活を送るうえで家族の介護が不可欠となった。
渡辺郁靖さん:
(家族と)一緒に生きたいなと思うが、わたしの存在があるために、みんなの時間を奪ってしまうので。「そんなことはないよ」と家族は言ってくれるが、実際はそうなんですよね
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想像以上に早く進行する症状。
慣れない介護に、家族も不安な日々を送っていた。
郁靖さんの妻・渡辺悟子さん:
介護する側は、身内だと「それくらいはいいじゃない」と思うことも、本人が生活しにくいわけなので、訴えてきて。言葉には表現できないような介護の難しさというか、そういうのも少しずつ感じることはある。それはお互いだと思う
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衰えることのない書道への情熱
渡辺郁靖さん:
全員もうちょっと墨をいれて、いい割筆をちらっと見せましょう
書道家「渡邉大嶽」としても活動してきた渡辺さん。
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できることが少なくなっても、大好きな書道を諦めることはなかった。
渡辺郁靖さん:
もうちょっと進行が遅かったら、なんとかなったんだけど、こんなに早くなると…でもやっぱり生きた証しね。今までは高校の先生ばっかりやったから、“渡邉大嶽”を何か残したいとは思うんやけど
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2021年12月12日、長年共に活動してきた仲間たちの元に出向き、書道展に出品する作品を選び、アドバイスを送った。
自ら筆を持つことはできなくなっても、書道への情熱は衰えることはない。
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このころ、渡辺さんは1つの決心をしていた。
渡辺郁靖さん:
わたしの今のところの希望は、人工呼吸器をつけないで、最後まで在宅医療をしようと思っている
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全身の筋肉が衰えていく、難病ALS。
その患者は、呼吸器不全になるケースが多く、延命治療には人工呼吸器が必要となる。
しかし、病院で処置を受け続けなければならないため、自宅には戻れない。
これからも家族とともに、自分らしく生きていく。
そうした思いからの決断だった。
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しかし、別れはあまりにも突然だった。
自宅にいたところ、容体が急変。
誤嚥(ごえん)性肺炎のため、渡辺さんは家族にみとられながら、60年の生涯に幕を閉じた。
「墨魂の尽きるまで」…渡辺さんが残した思い
告別式には、多くの教え子などが参列し、渡辺さんとの最後の別れを惜しんだ。
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郁靖さんの妻・渡辺悟子さん:
後半、わたしには「やっぱり怖い」とか、弱いところも時々見せて…でも最後、あまり言わなかったから。生前「かっこよく締めくくらないといけない」と言っていたので、かっこよく逝ったんだと思う
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渡辺さんはALSと診断されたあと、1つの覚悟を作品として残していた。
「仲間と共に墨魂の尽きるまで」。
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渡辺郁靖さん:
「墨魂」は墨の魂ですよね。今まで書の仲間に囲まれて、字が書けなくなったからこそ感じた感謝とか。そういった思いを込めて、最後の力を振り絞って、自分的には納得ができなかったけれども、最後まで書いた。墨の魂を感じてもらえればなと思って書いた次第
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難病と向き合い、書道家として、教師として、そして家族と生きる1人の人間として、懸命に生き抜いた渡辺さん。
その姿と思いは、多くの人たちの胸に深く刻まれている。
(テレビ大分)