乳幼児は何時までに寝かしつけるのが良いのか?

小児科医の三池輝久氏によると遅くとも午後9時までに就寝することが理想だという。しかし実際は、5割以上の家庭で出来ていないようだ。

江崎グリコ株式会社は、0~2歳までの子どもを育てる親800人に“子どもの睡眠に関する調査”を昨年12月に実施。親が考える理想の就寝時刻は「午後8時から9時の間」が52.8%と最も高く、「午後9時から10時の間」が25.3%、「午後7時から8時の間」が14.3%と続いた。また、親の68.8%が、子どもを午後9時までに就寝させたいと思っていることもわかった。

親が考える平均就寝時刻と実際の平均就寝時刻(画像提供:江崎グリコ株式会社)
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しかし実際の平均就寝時刻はというと「午後9時から10時の間」が36.2%と最も高く、「午後8時から9時の間」が34.5%、「午後10時から11時の間」が12.8%、「午後7時から8時の間」が10.3%と続いた。このことから、実際に午後9時までに子どもを寝かせることが出来ているのは5割以下だということがわかった。

また、午後9時以降に就寝している子どもは、午前7時以降に起床する割合が高く、「遅寝、遅起き」の睡眠リズムになりがちであることも判明している。

就寝時刻と起床時刻(画像提供:江崎グリコ株式会社)

なお調査では子どもの睡眠の実態についても聞いており、「子どもが眠りにつく時間が、日によってバラバラである」「子どもが夜中に目を覚ますことがある」という家庭が4割近いという結果になった。

子どもの睡眠の実態・意識(画像提供:江崎グリコ株式会社)

午後9時以降に就寝している家族の子どもの睡眠に関しての満足度では、「夜9時までに就寝させることが難しい」「睡眠リズムがバラつく」などの課題があるにも関わらず、子どもの睡眠に関して問題意識をもっている人(「満足していない」の合計)は約2割だった。

午後9時以降に就寝している家族の子どもの睡眠に関しての満足度(画像提供:江崎グリコ株式会社)

子どもの就寝時間の“理想と現実”に大きな開きがあったわけだが、そもそも就寝時間が遅くなると、子どもの体にどんな悪影響を及ぼすのか?

また、早い時間に寝かしつけるためには何が必要なのか? 今回の調査を監修した熊本大学名誉教授で小児科医の三池輝久氏に詳しく話を聞いた。

ほぼ1〜2歳までに体内時計が完成

――午後9時までの寝かしつけはなぜ重要?

大きく4つのポイントが挙げられます。

〈1〉子どもたちには将来の学校社会生活に向けて起床時刻(6時台)が決められている。
〈2〉子どもたちにはプログラミングされた夜間に必要な睡眠時間(平均10時間)がある。これを夜間基本睡眠時間(Night-time Basic Sleep Duration=NBSD)と呼んでいます。
〈3〉眠りは、子どもの「脳を創り、育て、さまざまなメンテナンスを通して脳機能を守り、更に進化させるための時間である」から睡眠不足を避ける必要がある。
〈4〉これらの生活リズムを営むための体内時計がヒトの全身に存在しており、その中枢時計が
ほぼ1〜2歳までに完成してしまう。完成した体内時計が生涯にわたり影響力を持つと考えられている。

学校生活が始まると起床は6時台となる(画像はイメージ)

ヒトは地球上で学校・社会生活を営みながら生きています。学校社会の決まりごとは、まずきっちりとした24時間のリズムで生活することが要求されます。この24時間の生活リズムを概日リズム(サーカディアンリズム:CR)と呼び、ヒトの体の細胞37兆個全てがこの時計を持っています。CRの中枢は大きく分けて二つあり、一つは中枢時計として視交叉上核(※脳の視床下部にある小さな核)に存在し、もう一つは食事によって動き始める末梢(内臓)時計があり、お互いが連携してCRを形成します。

更に、学校社会生活では24時間の使い方が決められており、朝8時には学校・社会に参加している必要があり、ほぼ午後5時までは活動が持続しなければなりません。この為に人々の起床時刻は朝6時台が必要となり、1日の活動を効率良くする為にはほぼ安定した時刻の食事が重要であるので朝7時頃には朝食を摂り、7時半の集団登校に備える必要があります。従って、体内時計が完成してしまうまでに夜9時までの入眠習慣が必要となります。


――体内時計がうまく形成されないと、子どもの発育にどんな影響を及ぼす?

体内時計の形成がうまくいかないと、日常の睡眠覚醒リズムが乱れて将来の心身発達のバランスが崩れやすく、発達障害のリスクとなり、学校社会生活に困難(朝起きができない、集中力がない、集団活動に支障、コミュニケーション障害、行き渋り、不登校、引きこもり)を伴う状態が起こりやすくなります。その後、心身発達においても、精神的な問題(うつ、など)、成人病(糖尿病、心・腎疾患など)、悪性腫瘍、認知症など、が生じやすい体質となることが知られています。


――午後9時までの就寝は、何歳まで続けたほうが良い?

これまでの研究調査結果では、夜間に必要な睡眠時間NBSD(Nighttime Basic Sleep Duration)は9歳ころまで持続するので、小学校低学年までは続けたほうが良いと思われます。

子どもの睡眠の重要性はもっと知られるべき

――半数以上が午後9時以降の就寝になっている現状をどう思う?

ポイントは以下の3点になります。

〈1〉保護者の働き方環境に伴っている(母親も父親も帰宅時間が世界一遅い)
〈2〉午後10時入眠でも遅いと感じていない知識のなさも原因。
〈3〉子どもの睡眠を1日何時間という捉え方をしており、昼寝で補えば良いと思っている誤った考えがあるかもしれない。

日本は、保護者の帰りが世界一遅く、世の中の生活が昔通りの生活を許さないのではないかとも思います。しかし、子どもたちを守るのは保護者しかいないのでなんとか工夫してほしいと思います。保護者に知識がない可能性もあるので子どもたちの睡眠の重要性は広報が必要でしょう。

子どもの睡眠は、夜間の眠りが最も重要で、その不足を昼寝で補充することは、体内時計形成上推奨できません。体内時計が狂いますので心身機能に歪みが生じます。また、学校社会生活では昼寝はできませんので睡眠欠乏は必然的に生じます。


――すでに2歳まで午後9時以降の寝かしつけだった親は、これからどうすればよい?

なるべく早い時期(小学校入学前まで)に、修正を試みたほうが良いかと思われます。起床時間は朝6時~7時までにしておくことが学校社会生活に適応する鉄則です。朝6時~7時までに10時間睡眠確保が大事ですから、入眠時間は自然と夜8時~9時の間になってきます。家族が全員で夕方から夜にかけての生活習慣を早めて、食事や風呂などを夜8時までに済ませて、8時には消灯してご家族が全員で眠る態勢を10日から14日間続けます。

家庭の事情などで、この取り組みができない場合、あるいは取り組んでもうまく行かなかった場合は、専門の小児科医に相談するのが良いと考えています。どうしても、入眠時刻が遅くなる生活環境の場合は、休日の朝寝坊(寝溜め)が生じていないかどうか、6歳を過ぎても昼寝があるかどうかなど、で日頃の睡眠不足の有無を知ることが大事です。寝溜めの出現や昼寝の残存は日頃の睡眠不足が蓄積していることの証なので、週に2日ほど、家族全員でいつもより2時間程度早めに寝てしまう日(早く寝るデー)を作ったほうが良いでしょう。

(画像はイメージ)

――ちなみに、子どもを起こす時は自分で起きるまで待つべき?強引にでも起こしたほうが良い?

起こす、起こさない、の問題ではありません。その子が必要としている睡眠時間がどの程度かを知っておくことが大事で、その時間を確保しておくことが大事です。どうしてもダメな場合はほぼ決まった時刻に起こすことが良いでしょう。バラバラは良くありません。平日も休日もほぼ決まった時刻に起きる習慣が大事です。その為にほぼ同じ時刻に起こされずに起きてくる生活リズムを作るのが保護者の務めかもしれません。

NBSDが11時間の子どもでは、午後9時入眠では朝7時には起床出来ません。そうした子どもを持つ親は、午後8時の入眠習慣が必要であることを知っておかないといけません。午後8時入眠が可能かどうかではなく、知識としては必要です。子どもたちが睡眠不足状態にあることを知っていれば「早く寝るデーの設定」なども積極的にできるのではないでしょうか。

保護者たちの働き方改革が最重要課題

――子どもを寝かしつけやすくするためのアドバイスは?

スマホは乳幼児期早期から制限しておくべきだと思います。時間制限など保護者は知識をしっかり持っておくべきでしょうから、妊娠中の母親への知識の伝達を行政はもっと考える方が良さそうです。

子どもの寝かしつけはそう簡単ではない場合が増えています。妊娠中の母親の日常生活が影響することもわかってきましたので若干問題は複雑です。寝かしつけは習慣ですから、習慣づけがうまくいかないときは医療が必要なことも多いので小児科医にもう少し自覚が生まれるよう努めないといけないと思っています。

日常生活のルーチンを用いて、〈1〉部屋を夕方から少しずつ暗くする。〈2〉食事時間や風呂などを早めにする。〈3〉寝る前の生活習慣(歯磨き、絵本を読むなど)を順序よく行う。〈4〉午後8時には家族全員で消灯して寝る生活を2週間ほど続ける…など一時期頑張っていただく必要はあるでしょう。

歯磨きなどの生活習慣を順序よく行うことも重要(画像はイメージ)

――午後9時前に寝られるよう子を増やすためにはどうすれば良い?

根本的には保護者たちの働き方改革が最重要課題でしょう。例えば、子どもが3歳になるまでは、保護者の働く時間を午後5時までに限定するなど、行政、企業は考えるべきだと思われます。

保護者の方の声の中には、意識があればかなり無理だと思われる生活環境でも工夫によりなんとかできるというものもあります。食事の作り置き、少し手を抜くのも良いでしょう、帰宅時間をなんとか工夫して早くできるよう会社側とも話し合う必要もあるでしょうし、先に書いたように会社自体が考慮すべき問題もあると思います。現状では我が子を守るのは、保護者しかないというところでしょう。

また、この問題で大きな役割を担えるのは保育園かもしれません。保育園でお風呂に入れる、食事を提供する、午後8時には寝かせてしまうなどの保育を行うことで保護者が迎えにくるときはすでに眠っている状態でそのまま帰宅して寝かせることにつながる。これからは子育てを社会が担うことも考慮しないといけなくなっています。これが正しいかというとかなり疑問ですが、一時凌ぎにはやむを得ないかもしれません。

熊本大学名誉教授/日本眠育推進協議会理事長/小児科医 三池 輝久氏(画像提供:江崎グリコ株式会社)

午後9時以降の就寝は、子どもの体内時計の形成に影響を与え、学校社会生活を送ることが難しくなるなど、心身発達において様々な問題が起きる可能性がある。そうならないためにも、親や職場、行政が子どもの睡眠に対する意識を変えることが必要となる。