島根・松江市の日本庭園「由志園」が手がける新春イルミネーション。葛飾北斎の超有名作品を光のアートで再現し、多くの来場者が訪れている。小さな島から世界を彩ろうという、コロナ禍の新戦略を追った。
島根県の花「牡丹」。松江市にある観光庭園「由志園」の園内を彩る。池に3万輪を浮かべた「池泉牡丹(ちせんぼたん)」は圧巻の迫力だ。

晩秋の紅葉は、山陰の名所にもなっていて、島根県と鳥取県にまたがる汽水湖・中海に浮かぶ「大根島」に位置する人気の日本庭園だ。

そして冬になると、その彩りは、さらに輝きを増す。
約130万球のLEDが織りなす和のイルミネーション「黄金の島ジパング」では、年明けからはお正月仕様となり、今シーズン新たに登場した演出が人気を集めている。

安部大地記者:
動くイルミネーションは、青と白の光をベースに私の身長をはるかに上回る巨大な波が表現されています。そして、この波とあわせて奥に見える山のイルミネーション。この構図、どこか見覚えがある気がします

幅26メートル、高さ5メートルで表現された巨大な波。そして、奥にそびえる高さ10メートルの「出雲富士(鳥取県の大山の異名)」。実は、あの有名な浮世絵を表現している。
江戸時代を代表する浮世絵師・葛飾北斎の「冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏」だ。

全国有数の北斎コレクションを誇る、松江市の島根県立美術館が協力した。
浮世絵は版画のため、「神奈川沖浪裏」も全国に数多く存在しているが、中でも状態が良い「初版」を所蔵している。

今回のコラボの理由を聞いた。
島根県立美術館・山根智子さん:
改修工事のため、全館休館している。より多くの方に当館が誇る北斎コレクションを知ってもらおうということで、由志園に画像を提供した

島根県立美術館は、2022年5月まで耐震工事中のため閉館中で、その閉館している間でも自慢のコレクションを楽しんでもらおうと画像を提供した。
来園者からも好評 質の高いイルミに成長
実物と比べても遜色ないほどに再現された「光の波」。どのように再現したのか…
由志園・景山誠司さん:
なぞった部分をくりぬいて、実際に波の部分だけを動かすための前段階の作業をしている
まず、パソコン上で画像から波の部分を切り出す。その後、イルミネーションで途切れなく流れるように波を一つ一つ分解し、それをもう一度つなげ合わせている。

そして、専用の機械に加工データを入力すると、見事な光の波が再現された。
さらに、電飾をずらして並べることで、自然に近い波を表現しているという。
由志園・景山誠司さん:
自然の流れを表現するために、少し凹凸をつけることによって、躍動する波を表現する意図がある

由志園のイルミネーションの評価は…?
来園者:
きれいだった
来園者:
圧倒的に光の量が多くて、どこ見ても輝いている感じ
来園者:
今まで来たことなかったので、ここまですごいと思わなかった。SNSでは見たことがあったが、写真以上だと思った

イルミネーションの来園者は毎年4万人ほどと、全国の有名スポットと比べると多くはないという。
しかし、最新のイルミネーションアワードでは、技術の高さを評価する部門で全国4位にランクイン!

知る人ぞ知る、質の高いイルミに成長している。
新コンテンツを生み出し、コロナ禍を乗り越える
これらの演出は外部に委託することなく、全て自前で手掛けている。ここにコロナ禍の新戦略が隠されている。
由志園・景山誠司さん:
ほかの施設で新たに由志園と同じような試みを手掛けたりと、そういったところに手を広げている。ある種、実験として遊びも込めながら、新しいものを追求していける場所と考えている

コロナ禍で来園者は半減する中、イルミネーションのプロデュース事業の新たな一手として初挑戦したのが浮世絵だった。
日本庭園の霧と光の幻想的な演出をはじめ、東京の高級ホテルや長崎の庭園など、全国5カ所で手掛けている。

「黄金の島ジパング」のごとく、小さな島から国の内外に存在感を示すプロデュース事業の拡大を目指している。
由志園・景山誠司さん:
島根という地元から、海外とか都会に発信できるような新しいコンテンツを生み出しながら、ことしもこの波に乗っていきたい
北斎の浮世絵の波のように…コロナ禍を力強く乗り越えていきたい。由志園のイルミネーションにかける思いと期待は2022年、さらに強くなっている。
(TSKさんいん中央テレビ)