「ビール」買う人が1割増
「本業のビールに注力する」
ビール大手4社が今年の事業について説明する発表会でそろって打ち出した方針だ。第3のビールでも発泡酒でもなく 「ビール」に再び力を入れる。各社の戦略ではこうした考えが明確に示された。
国内のビール市場は、少子高齢化などにより17年連続で減少しているが、 そうしたなかでも「ビール」を買う人は、おととし10月の酒税改正以降、1割を超えて増加しているという。
価格の安かった「第3のビール」の税率が上がった一方 「ビール」の税率が下がるなか、家飲み需要の拡大で、外食を控える代わりに、自宅で少し贅沢に本格的なビールを飲みたいという層が増えたためだ。回復しつつあるビール需要を取り込み、売上増につなげようというのが各社の狙いだ。
アサヒビール「スーパードライ」全面刷新
主力商品の全面刷新という大きな転換を打ち出したのは アサヒビールだ。 1987年発売以来、36年目にして、初めて「スーパードライ」のフルリニューアルに踏み切る。

「スーパードライは、苦しかった業績の回復に大きく寄与しこれがなければ現在までアサヒビールは存在することが出来なかった大切なブランドだ。自ら変化を起こすには、勇気が要る」
塩澤社長は、嗜好品であるビールの、しかも、看板商品の味を変えるという転換には大きな決断が必要だったと強調した。
マーケティング担当者は 「辛口がスーパードライの価値なので、立ち上がりの香りやキレの良さはいままでよりさらに感じるようにし、後味が残らないことに徹底的にこだわった」と話すが、ネットなどでは、期待の声があがる一方で、「別の商品を出すということではダメだったのか」 など従来品から変化することを惜しむファンの声も相次いでいる。
去年は、開けた瞬間に泡が出る「生ジョッキ缶」や 「アサヒ生ビール」通称“マルエフ”が話題になり 販売と同時に生産が追いつかなくなるなど アサヒのビール缶容器の販売数量は9年ぶりに前年を超えた。
「追い風の中で、時代を変えていくというぐらいの気概でやっていきたい」 と意気込む塩澤社長だが、 基幹商品の刷新は、販売増をもたらす起爆剤となるのか。 今年の「スーパードライ」の販売は、前年比16%のプラスという目標を掲げている。

キリンビール「スプリングバレー」に注力
一方、キリンビールは、 「一番搾り」に加え、高付加価値のクラフトビールに注力する。
キリンも、去年のビールの販売数量は、6年ぶりのプラスで着地した。 けん引したのは、ビールとして、国内で初めて糖質ゼロを実現した 「一番搾り 糖質ゼロ」。 健康志向の高まりを受けて、大きく売上げを伸ばした。 今年も「一番搾り」と「一番搾り 糖質ゼロ」を柱に、さらにブランドの強化を図る。
力を入れるのは、クラフトビールの「SPRING VALLEY 豊潤〈496〉」のリニューアルだ。 今回新たに日本産ホップ「IBUKI」を使用し、香りを高めた。 クラフトビール市場は、去年11月までの期間で、前年の2倍に成長し 大きな手応えを感じているという。

堀口社長は「クラフトを含めた提案を強化することで、高い付加価値をもつ商品の販売を強化し収益を高めていく」考えを示し、「ビールを再び魅力あるものに変え、ビール市場全体を活性化していきたい」と話した。
今年のビールの販売数量は、前年比プラス26%を目指す。

「パーフェクトサントリービール」をリニューアル
サントリービールも、 新たに発売した「糖質ゼロ」ビールが好調ななか、去年のビール缶の販売数量が3割近く増えた。その「糖質ゼロ」ビール、「パーフェクトサントリービール」を早くもフルリニューアルする。

味わいはそのままに、深いコクが特長という「ダイヤモンド麦芽」と呼ぶ麦芽を1.3倍にすることでビールらしい飲み応えを強化。 「糖質ゼロ」が一目で伝わるようにデザインも一新したという。
業務用としての販売もスタートする。 西田社長は「健康志向にマッチしていて、飲食店にとっても大きな商材だ」との見方を示したうえで、「最終的には、糖質ゼロがスタンダードビールのど真ん中に来ると言うことも視野に入れ、最初の挑戦をサントリーが行っていきたい」と話し、 自信をのぞかせた。
さらに、高級・高品質志向が高まっていることから 「プレモル」の最高峰と位置づける「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム〈無濾過〉」も新たに発売し、日常生活のハレ需要にこたえる考えだ。
今年のビール缶の販売数量は、10%プラスを目標にする。

サッポロビール「黒ラベル」に磨き
発売45周年を迎える「黒ラベル」をさらに進化させるなどして、ビールブランドを強化するのがサッポロビールだ。

ビール類市場が縮小する中で、売上げを7年連続で伸ばしている 「黒ラベル」は、ビール離れが指摘される若い層にも支持されているという。原料の配合を見直して「生のうまさ」を進化させるとともに、 デザインもマイナーチェンジし、ロングセラー商品に磨きをかける。
野瀬社長は「2010年から、多様なブランド、物語のある歴史観のある商品をしっかり育てていこうと取り組んできたことでビール缶が継続的に成長できた」と評価したうえで、今年も「ビールの多様化、魅力化で勝負していく」と強調した。
ビールの販売目標は前年比17%増だ。

復調の兆しが見え、需要回復が期待されるビールをてこに市場は活性化に向かうのか。消費者のビール回帰の動きを逃さず、挽回を図ろうという各社の攻防はますます激しさを増すことになりそうだ。
(フジテレビ経済部 農水省・飲料・食品・外食担当 冨田憲子)