法廷の扉が開くと、どこか不安気で緊張した表情を浮かべた女性が、抱っこひもで女の子をしっかりと抱えて入廷してきた。女の子は女性の胸の中で楽しそうにはしゃいでいる。女性は着席位置を確認しながら、被告人席に向かった。

「あらら、被告人の席に被告と原告が一緒にいるなんて」その様子を見ていた原告側代理人の発した一言が、傍聴していた記者らを含めて法廷の空気を和ませた。これは12月中旬、東京家裁で開かれた法廷の一場面で、女性と女の子はこの裁判の主役となる原告と被告として争う立場にある。

東京家裁では「争いのない」裁判が審理されている
東京家裁では「争いのない」裁判が審理されている
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被告に抱かれる原告という通常の裁判では見かけることのない構図、しかし、この裁判の争点の一つとなる2人の関係を表すものとして印象的な場面だった。

"被告"も"原告"も親子関係の認知を求める「争いのない」裁判

男性から性別変更をした女性Aさんは、性別適合手術の前に凍結保存していた精子を使って、パートナーの女性Bさんとの間に2人のこども、長女Cちゃん、次女Dちゃんをもうけた。

この裁判はAさんと子供の親子関係をめぐり、CちゃんとDちゃんがAさんに対し、Aさんの子供だと認めるよう求めて訴えたものだ。冒頭のシーンは、被告のAさんに対する被告人質問が行われた裁判で、Aさんの胸に抱かれていたのは原告のDちゃんだったというわけだ。

訴状などによると、Aさんたちをめぐる家族関係はこうだ。

2017年、BさんはAさんの凍結精子を使って妊娠。2018年、Cちゃんが誕生、その後、同じ年にAさんは性別適合手術を受け、「男性」から「女性」に性別変更。2019年、Bさんは再びAさんの凍結精子を使って妊娠。2020年、Dちゃんが誕生した。

裁判を終えたAさんとDちゃん(東京家裁前)
裁判を終えたAさんとDちゃん(東京家裁前)

Aさんと娘2人は、血縁上、親子関係にあるものの、認知届については女性となったAさんが本籍地に提出しても受理されず、居住地でも受理を保留されている状態だという。認知届が受理されない以上、法的に、AさんとCちゃん、Dちゃんは親子関係が認められていない。

今回の裁判は、冒頭のシーンから察することができるように、被告と原告の間には親子関係の実態があり、両者とも互いを親子だと認めている中で、裁判所に認知を求めるという「争いがない」訴訟で、行政で認めてもらえない「法的な親子関係」について、司法に判断を求めたというものなのだ。

生みの親、育ての親、血縁関係があるのに「法的な親」とされない事情

性別変更するには、婚姻していないこと、未成年の子がいないこと、などの条件がある。Aさんは、性別変更した時点ではすでにCちゃんが生まれていたが、AさんとBさんは婚姻関係になく、Cちゃんとも法的な親子関係になかったため、その条件に抵触することはなかった。

この日、裁判官からAさんに対して性別変更の際に子供がいたことは相談しなかったのかと問われると、Aさんは「未成年の子はいますか、ということについては戸籍上いないので、「いない」と話しました」と述べた。

Aさんは認知届を提出するも、自治体から受理されなかったという。
Aさんは認知届を提出するも、自治体から受理されなかったという。

その後、女性となったAさんは、同性のBさんと事実婚状態になり、Cちゃん、Dちゃんとともに一緒に暮らしている。生物学的にはAさんは子供2人の「父」であるものの、現在の性別は「女性」で、Bさんとともに「女性の親」として子供たちを育てている。

こうした背景から、Aさんが認知届を出しても、父の立場に「女性の親」、または「母が2人」ということが認められず、認知届が受理されていない状況になっているという。

「他の子の親と同じように子どもには出来ることをしてあげたい」

原告側代理人からは一緒に暮らす娘さんたちとの関係や生活の実態を中心に質問が続いた。
Aさん:娘たちとの関係は、Dは見ての通り普通に仲良く懐いてくれている。「抱っこ抱っこ」と言ってくれるし、普通の親として育てている。Cは大きくなっても私に懐いていて、「これで遊ぼう」とか、「テレビ見よう」とか家族として暮らしている。
代理人:被告の家庭では偏見とか虐待とかは?」
Aさん:特にないです。見た目女性でも何か変わるとかはない。

また法的に親子関係が認められないことによる影響について問われると
Aさん:親子関係がなくて、私が亡くなったりすると相続税がかかったり、保険に入れようとしても断られた。会社でも健康保険に入れないし、福利厚生も全て認められない。そういうのを見て不利益を感じました。子を育てている上で、親子関係があった方が良いと思った。子どもは可愛いし、好きだと言ってくれてうれしい。他の子の親と同じように子どもには出来ることをしてあげたい。

裁判の後、取材に応じ、「あとは結果を待つしかない」と語るAさん
裁判の後、取材に応じ、「あとは結果を待つしかない」と語るAさん

一方で、養子縁組など別の形での親子関係を作ることについては
Aさん:養子縁組は、親権が今の母Bか私しか持てないので、Bの親権がなくなるのは嫌だなと。その選択肢は取れない。

そして、最後にこう訴える。
Aさん:実際、この子は存在して、これから何年、何十年も生きるので、私がいなくなっても生きていく。でも親が実際いますし、私の場合、生物学的にも繋がっていて、原告も認知を求めているので、認めて欲しいと思っています。

裁判長らにAさんの声はどのように響いたのか。被告が、裁判官に原告の請求を認めるように訴えるという異例の裁判が結審した。

「親子関係はセクシャルマイノリティだからって変わらない」

「被告が言うのはおかしいですけど、この子と普通に法的にも親子になれればうれしい。生活実態としても親子ですし、生物的にも親子として一緒に生活して育てています。普通に法的に親子として認めていただきたいと強く願っています。普通の親子関係は、セクシャルマイノリティだからって特に変わらないんだよってことが伝われば一番良いと思っています。」

裁判終了後、Aさんは、取材に対して、こう語った。多様性社会の実現が叫ばれる昨今、これまで見えていなかったセクシャルマイノリティが抱える問題を一つずつ解決していってこそ、多様性を認める社会になっていくのではないだろうか。

今回の訴えで露わとなった「親子」という形。Aさんらの訴えに司法はどう判断するのか。判決は2022年2月28日に言い渡される。

(フジテレビ社会部・司法クラブ 内橋徹)