現代の子育て環境は、一世代前から大きく様変わりした。核家族化によりワンオペで育児を担うことが増え、第三者に頼る場面も少なくなった。

誰にもSOSを出せず、孤独になり、孤立を深める親たちもいる。そんな「孤育て」の状態に、コロナ禍が追い打ちをかけた。

孤育てに陥る親たちを救うために何ができるのか。一般社団法人ママの孤立防止支援協会の代表理事、三浦りささんに話を聞いた。今回は、三浦さんたちの取り組みをヒントに考えていきたい。

子育ては十人十色でいい

「赤ちゃん 寝かしつけ 方法」「離乳食 食べてくれない」「1歳 まだ歩かない」など、子育てに悩んだらすぐに解決策をインターネットで調べられる現代。

誰にも相談できない親たちにとっては助かることも多い一方、悩みを深める要因となることもある。

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「15年ぐらい前から、SNSや様々なウェブサイトに子育て情報が氾濫し始めました。育児本も昔に比べると何冊も出版されるようになり、悩みを抱えたママたちがそれらを読むと、例えば生後○カ月には△△△ができるようになっている、などと書いてあったりして、その情報を鵜呑みにしてしまう。発達には個人差があるのに、できていない場合『うちの子っておかしいのかな?』と必要以上に悩む姿が見られるようになりました」

三浦さんは現在の活動を始める以前、最初は自宅で子育て教室を開いていた。その場にも様々な悩み抱えた母親たちがたびたび訪れたという。

「申し込みメールに子育ての悩みを長文で書いてこられる方や、教室の間に悩みを打ち明けて『大丈夫だよ』と声をかけるとポロポロ涙を流すママたちがいました」

こうした母親たちを元気づける活動がしたい。その思いから、三浦さんは次に2人の仲間と共に東京都足立区でNPO法人子育てパレット(以下、子育てパレット)を立ち上げた。

子育てパレットが行う「マタニティ&ベビーハウスOhana」(提供:子育てパレット)
子育てパレットが行う「マタニティ&ベビーハウスOhana」(提供:子育てパレット)

対象としたのは、主に地元、足立区に住む親たち。「パレット」という言葉に込めたのは、「子育ては十人十色、それぞれ違っていいんだよ。自分色の子育てを見つけようよ」という思いだ。

子どもが、育児関連のウェブサイトや育児本に書かれた『標準』に沿わなくても大丈夫。そして同時に、母親自身も「こうあるべき」という既存の母親像から外れても気にしないで、というメッセージだ。

24時間365日相談できるLINEアカウント

子育てパレットは24時間365日、親たちが相談できる公式LINEアカウントがある。そこには日々、様々な声が届く。

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「今日の天気だと、どっちの洋服を着せたらいいと思いますか?」という相談が写真とともに送られてきたり、「赤ちゃんに掛け布団をかけても大丈夫でしょうか?」という父親からの質問があったり。

子育ての愚痴を長文で書き連ねたあとに「ああ、すっきりしました!返信はいりません」というメッセージが届くことも。

また、中には孤育てに追い詰められた親たちからの「叫び」が届くこともある。

「緊急の相談が届いた場合は、メッセージに気づいたらすぐに連絡をとります。『今からすぐタクシー飛ばして迎えに行くよ』『赤ちゃんと一緒にいるのが辛かったら、こっちに来て寝ていていいから。その間、私たちが赤ちゃんを見ているからね』と、いろいろな対応を提案して、可能な限りすぐに駆けつけます」

子育てパレットで遊ぶ子どもたち(提供:子育てパレット)
子育てパレットで遊ぶ子どもたち(提供:子育てパレット)

まさに、地域の親たちの拠り所だ。このアカウントが、コロナ禍においても活躍した。感染への恐怖や外出自粛で行く先もなく、子どもと家で二人きりで過ごす親たちにこんな言葉を送ったという。

「LINEに登録してもらっているみなさんに『苦しかったら、その気持ちを吐き出してしていいんだよ。我慢しないでね』と、メッセージを流しました。すると『ちょっと、つぶやいてもいいですか?』と、みなさんからの声が一気に増えたのです。

LINEには、区の委託で行っている『きかせて子育て訪問事業』でお家に伺うこともできるし、電話で吐き出してもらってもいいからね、という言葉も添えています。とにかく『大丈夫、ひとりじゃないからね』って。なんでも言っていいよ、という言葉を定期的に、繰り返し発信するようにしました」

今なお残る、「母親なんだから」という呪縛

SNSの登場によって、母親が子育ての本音を正直に語れる環境が増えたのは事実だ。

しかしいまだ、社会全体には「母親なんだから子どものために我慢して当然」「母親が子育ての弱音を吐いてはいけない」という空気が残る。

子どもの虐待防止を訴える「オレンジリボンママフェスタ」も開催(提供:子育てパレット)
子どもの虐待防止を訴える「オレンジリボンママフェスタ」も開催(提供:子育てパレット)

「私たちは、ママの支援として子育てパレットの活動をやってきましたが、例えば行政の助成金一つとっても『子どもの支援』だとたくさん種類があるのに、ママの支援となった途端、助成金に引っかからなくなってしまう。未来ある子どもたちが健全に育つためにもママの支援が必要でしょう、と私たちは思っているのだけど、なかなか伝わらず苦しく思っています」

また、同じ子育てを経験した女性同士であれば分かり合えるかと思えばそうではない。子育てを終えた世代から「私だって頑張ってきたのよ。それくらい我慢しなさい」などという言葉を投げかけられることもある。

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母親自身も「私はママだから」という呪縛で自分を抑え、声を上げずに一人で我慢しようとする場合もある。そうなればまさに悪循環だ。

「みんなが一度は、『助けて』と言ってみるのですが、そこで助けを求めた相手からバッサリと切られて何も言えなくなってしまうことも多い。そうすると結局、自分の気持ちを認めてもらえないから、どんどん声を上げられなくなり、ますます孤独、孤立に向かってしまうのです」

父親にも、子育てを軸に繋がれる場が必要

育児を担う当事者は、もちろん母親だけではない。三浦さんたちは、母親へのサポートをメインに活動するが、今後は父親にアプローチする取り組みも徐々に加えていくという。近いうちにパパ専用のLINEも開設予定だと語る。

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「先日、初めてパパを対象とした講座を開催しました。そこで感じたのは、パパたちもパパならではの孤独を抱えているということです。パパたちは、ほかのパパがどうやって子育てしているかを聞ける機会が少ない。そしてパパ友はママ友に比べてなかなか作りにくい。パパ同士が気楽に集まって、程よい距離感で本音を話せたり繋がれたりする場も必要だなと実感しました」

母親も父親も家庭という小さな空間、限られた人間関係の中だけで過ごしていれば、時に息苦しさを感じてしまう。その時必要なのは、家族以外の「第三者」の存在だろう。

親たちが弱音を吐ける社会を作るために

「大丈夫!ひとりじゃないよ」。これが三浦さんたちの活動の合言葉だ。

提供:子育てパレット
提供:子育てパレット

「気が付いたらこの言葉が合言葉になっていました。普段からLINEでも『あなたはひとりじゃないよ。私たちがいるから絶対に大丈夫だからね』という言葉を毎回伝えています。私たちには、24時間いつでも連絡してくれていい。

話も聴くし、困っていたらいつでも助けに行く。子どもが大きくなるまで、わたしたちがずっと寄り添って伴走していくから。そういう気持ちがあるからこそ、自然と口に出るんですね」

三浦さんが代表理事を務める、ママの孤立防止支援協会は2021年11月に設立されたばかりだ。きっかけとなったのは、自分たちの活動を足立区だけでなく全国に広めていきたいという思い。コロナ禍で親たちの孤立を痛感したことも、設立を後押しした。

「子育てパレットは地域に根付いたNPOで、どうしても限られた範囲での活動になります。だから全国を対象に孤立防止のための活動をしていく協会を立ち上げました。私たちの活動をモデルケースにして、全国各地で各地元の親たちを救う活動をはじめてもらえたらと考えています」

同協会がママの孤立防止のためのシンボルマークに掲げるのは「ドットリボン」だ。ドット柄には子育てパレットと同様に、やはり「子育ては十人十色」だという強い思いが込められる。

「ドットリボン」のシンボルマーク(提供:子育てパレット)
「ドットリボン」のシンボルマーク(提供:子育てパレット)

リボンの真ん中の結び目は「子ども」で、リボンの左側は「今、子育てにイライラしているママ」、右側は「今、元気に楽しく子育てしているママ」だ。

「子育てをするママは子どもを境界線に左側と右側、どちら側のリボンにもなる可能性を持っています」

子育て中は常に笑顔でなどいられるわけはなく、イライラして声を荒らげてしまったり、時に手を上げそうになってしまったりする時が誰にでもある。それが当たり前で、そんな時は遠慮なく声を上げてほしい、と三浦さんは伝える。

ママの孤立防止支援協会が掲げる「ドットリボン」のホームページには、妊娠中から出産後の子育て、シングル家庭に関する相談窓口が一覧でまとめられている。

今後さらに各種情報を拡充し、「孤立に苦しむママたちが、ここにたどり着けばもう安心だと思えるような場にしたい」という。そして現在、悩みを抱えた親たちが確実にドットリボンにアクセスできるよう、各地域の街中にステッカーやカードを置いてくれるアンバサダーを募集している。

「ドットリボンを通して伝えたいのは、『つらい時にはつらいと言える、頼れる社会にしていこう』という思いです」と三浦さんは語る。

「ママたちが弱音を吐けるとともに、周りの人たちにも変わってほしい。地域全体でママたちの声に耳を傾けて『助けるよ!』って手を差し伸べられる、そんな優しい世界になったらいいな、と考えています」

三浦りさ(提供:子育てパレット)
三浦りさ(提供:子育てパレット)

三浦りさ
一般社団法人ママの孤立防止支援協会、NPO法人子育てパレット代表理事。「マタニティ&ベビーハウスohana」を拠点に、日々たくさんのママたちと接する。著書に『寝顔に「ごめんね」言いたくない!さよなら、イライラ育児』(ポット出版)

取材・文=高木さおり(sand)