12月23日から始まる全日本フィギュア選手権(~26日、さいたまスーパーアリーナ)。
この大会は2022年2月に行われる北京オリンピックの代表最終選考会でもあり、男女ともに3枠しかない椅子をかけて、激戦が繰り広げられる。
シーズン初演技のぶっつけ本番となる絶対王者・羽生結弦。今季ベストスコア日本人1位の五輪銀メダリスト宇野昌磨。3月の世界選手権で2位に入った鍵山優真らが、有力視されている。

そんな全日本で出場選手中最多の13度目を迎えるのが、平昌オリンピック代表・田中刑事だ。
オリンピックの切符を掴んでから早4年。置かれている立場も考え方も変わった田中のスケーターとして目指す道とは?
“壁を壊したい” 平昌オリンピックシーズン終わりで語った思い
2018年平昌オリンピック。その舞台に田中は立った。
しかし、思い描く演技はできず18位。その後、世界選手権に出場するも13位に終わり、オリンピックシーズンの幕は閉じた。

「(代表最終選考会の)全日本で自分の中で良いピークを迎えられて、それで勝ち取れたオリンピックで、全日本以上の演技を目指して練習してきたんですけど、それを出すのが本当に難しい…。今年に入ってから四大陸、オリンピック、世界選手権と続いたんですけど、もっと戦える位置にいたかったなって思いでした」
大会後、複雑な胸中を話した田中。それでも、スケートに対する熱い思いは消えることはなかった。

「色んな壁っていうものに当たってきた1年だったので、それを今後スケートを続けるならば、それらを全部壊していかないといけないと思うので。これからのスケートをまた違う覚悟でしていこうかな、と思います」
「またこの(北京オリンピックまでの)4年間、ジャンプの難度が上がったりとか、いろいろすると思うんですけど、自分はしっかり自分の滑りが見せられるようにオリジナルを保てるようにしていきたいです」
「自分は自分」 「成長した限界が見たい」
スケーターとしての道を模索する中、2018-19シーズンも苦悩の1年が続いた。
そんな田中の言葉に変化が見られたのは、2019年の夏合宿中のことだった。
このシーズン、スケーターとしてどんな道を歩んでいきたいのか、知りたくて質問を投げかけた。

ーースケート選手としてはベテランだが、日本男子の中での立ち位置はどう見ているか?
うーん。立ち位置はもうどうでもいいかなって。もちろん下からの勢いもありますし、自分が上に追いつきたいっていうのも…。よくわかんない位置にいるんですけど、周りから言われようとどうでもいいと思って。『自分は自分だ』っていうのをしっかり出していかないと。年齢的にはベテランの年になるんですけど、技術的にはまだまだだと思って。
技術的に落ちてきたら辞めようかなって僕は思っているので、それは感じないように。ずっと自分が成長し続けられる、続けている間はもっと成長し続けたいので。そこだけを持って。周りから比べられることももちろんあるんですけど、それは全部無視してやろうって思っています。
ーー今までも「自分は自分」って言っていたと思うが、より意志が固くなった?
ジュニアから上がってきて今年からシニアを戦う選手を見ていて、本当にみんなうまくなっているし、勢いがあるので。それを見ていると自分もどうしようかなって思う時もあるんですけど、一旦無視しないと。「自分は自分」って突き詰めないとやっていけない個人スポーツだと思うので。
“じゃあなんで自分が続けるの?”って考えたら、成長し続けるために。“成長した限界を見たい”みたいな。それを見たいし、やりたいし。どこまでいけるかなっていう。その楽しみがまだ残っているからやっているかなって感じです。
オリンピックに出場した選手としては、もちろん結果を求めたいだろう。それでも、フィギュアスケートは“魅せる”スポーツでもある。そこには個性もなくてはならないものだ。
自分の成長を求め、なりふり構わないその言葉に“田中刑事は田中刑事らしく”このまま突き進んでいって欲しい、とそう思えた時間だった。
自分のスケートだけを見つめて突き進む
全日本を目前にした今、改めてこの4年間での変化について聞いてみた。

「僕以外で見ると、若手がどんどん強くなってきて、日本男子という中でもすごく強く、世界的にも強くなっているなと印象を受けていて。本当に4年前とはレベルがぐんと2段階、3段階くらい上がっているような感覚であり、その中で戦わなくてはいけないという思いも強くなったと同時に、僕には何ができるんだろうとすごく思った4年間というのがあります。
そこぐらいから自分の滑りたいプログラムとか、やってみたい曲だったり、いろいろ手を出すようになりました。そこからどういうスケーターになろうとか、そういう感じに舵を切ったわけじゃないですけど、より明確になったのかなと思いますね」
自分だけのスケートを追い求めて今シーズン、ショートに選曲したのは、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」より 「Paris」。かねてからファンを公言するアニメの音楽を念願叶ってプログラムに仕上げてきた。

「僕は、実際エヴァンゲリオンを表現したいわけでなく。そんな2分半で語れる作品ではないって、僕自身ファンとしても思いますし、そんな簡単な作品じゃないというのはすごくあるので。そこは一回取っ払って、エヴァンゲリオンっぽさはあるかもしれないですけど、純粋に好きな曲としてどう見せるか、というのを勝負したいなと思って、この曲を選んでいます」
「もうなんか誰から何言われようと、“これは僕が滑りたかったもんだ”っていう気持ちが強いので、もう好きなように滑らしてもらうって感じです」

そして、フリーは振付師のマッシモ・スカリが選曲した、映画「セッション」のジャズ音楽。
「今までの曲も僕が選ばなさそうな曲をチョイスしていただいて。それにはすごくいい意味があって、僕自身が新しいものを自分で選ばないってことは、僕自身最初から好きな曲ではないので。
でも、最初に『これで滑るの?』っていう感覚のほうが僕自身すごくよくて。滑っていく中で、こんな面白味があるんだという、沢山の発見があることで、その1シーズン通して、このプログラムが好きだなって思ってくる」
ショートは自分の好きなものをとことんと突き詰め、フリーではまだ見ぬ自分に出会いたいという意欲が見られる作品だ。

2つのプログラムがこの先の田中のスケート史にどう刻まれていくのだろうか。
「やっぱり今の若い子に比べて、4回転もたくさん種類は持っていないですし、ジャンプの面で負けている部分だったり、すごいなと思う部分はたくさんあるんですけど、そういうところで勝負してしまうと、自分の中で壊す部分というのがたくさんあるし。そこを目指そうと思えば時間と体力と体を削っている感覚がすごくするので。
もちろんそこも追い求めたいですけど、それよりも自分にできるもの。曲の中で、ジャンプをしたり、スピンをしたり、ステップをしたりと、たくさん自分を表現するチャンスがあると思うので。その総合的に自分の個性というのを、僕が今やっているものが正解とも思ってもいないですけど、まだまだ自分の出せる色というのを増やしていきたいなというのはありますね」
11月22日に27歳を迎えた田中。
昨シーズンに負傷した右膝はいまだに万全とは言えない状態だ。それでも、自分だけのスケートを極め、再び全日本のリンクに向かう。

ーー全日本の目標は?
練習しきったと思える状態で会場に行き、そこから自分のできるものを最後出し切ったと思った演技をすることがすべてかなと思います。
ーーどうやったら自分が満足する演技になると思いますか?
わからないです(笑)。もうやるしかないのが1番大きいですし、毎年やるしかないと思いながら立っているので。むしろ飢えている感じ。本当に満足いく演技ってどんなだろうというか。それをするために苦しい練習をやっているし。キツイ思いをして、しんどいのに曲をかけているという感じで。その1回の演技を目指して、滑っている感じなので。飢えている感じだと思います。

これまでもコツコツ、真面目に積み重ねてきた練習。13度目となる全日本で、田中はどんな色を出すのだろうか。
そして、演技を終えたとき、何をつかみ取るのだろうか。ベテランスケーターの挑戦をぜひ多くの方に見届けて欲しいと思う。
北京五輪代表最終選考会
全日本フィギュアスケート選手権2021
フジテレビ系列で12月23日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)
12月22日(水)18時30分から開会式と滑走順抽選を配信
https://www.youtube.com/watch?v=IV9CY9YYUP8