「教員の多忙化」を解消するため、活動を外部に委ねる「部活の地域移行」が始まり、福井県内でも3つの市や町で実験的なモデル事業がスタートした。
そのうち、文化部のモデル地域となった敦賀市の現状を取材した。

敦賀市立角鹿中学校に、大きな荷物を運びこむ敦賀市内の中学生たち。2021年10月に立ち上がった「敦賀市民ジュニア吹奏楽団」の練習だ。

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メンバーは、市内4つの中学校の吹奏楽部から参加を希望した生徒49人で、全部員の約半数にあたる。
この日は、初めて大人の市民楽団メンバーも活動に加わった。

合同で練習するメンバーたち
合同で練習するメンバーたち

ジュニア吹奏楽団のメンバー:
角鹿中学校だと、ホルンを吹く人が私1人なので、ジュニアだとほかの学校の子と高め合えるのでうれしい

ジュニア吹奏楽団のメンバー:
大人の楽団メンバーの意見が自分と違ったりするときに、なぜそう思うのかを改めて考え直す機会ができていい

ジュニア吹奏楽団は月に2回、第2・第4土曜日に活動している。その日は、各学校の部活動は休止となる。

この活動は、「部活の地域移行」のモデル事業。
吹奏楽部を外部化する地域として、福井県が2021年度に指定した敦賀市で実験的に始まった。
その目的は、近年問題になっている「教員の多忙化」の解消だ。

福井県教育庁義務教育課・山口真紀参事:
(部活動は)人間形成や多様な生徒の活躍の場という意味で、すごく意義のある活動だが、その一方で、教員の献身的な業務の上で成り立っている。休日に教師が携わらなくても、部活動をやっていける環境の整備をしていくのが1つの狙い

指導者は「教員」…担任をしながら顧問も

福井県は、2019年に学校業務改善方針を策定。
残業時間が月80時間以上の教員を2021度末までにゼロにする目標を掲げたが、すでに延べ900人の教員が80時間以上の残業をしている。

教員の働き方改革がなかなか進まない中、2020年度に文科省は、2023年度以降、休日の部活は段階的に地域に移行するとの方針を示した。

こうした背景を受け、立ち上がった敦賀市民ジュニア吹奏楽団。統括して指導する山崎佑太さん(36)の普段の仕事は、実は「教員」なのだ。

敦賀市民ジュニア吹奏楽団・山崎佑太さん
敦賀市民ジュニア吹奏楽団・山崎佑太さん

敦賀市民ジュニア吹奏楽団・山崎佑太さん:
新しいことだらけなので、本当に模索状態。ただ、せっかく始まった事業なので、子供たちにも地域にも実りある、プラスの活動にしたいと思っている

山崎さんは、楽団の練習会場でもある角鹿中学校の1年生のクラス担任をしながら、吹奏楽部の顧問も受け持っている。

“担任”と“顧問”も務めながら指導する山崎さん
“担任”と“顧問”も務めながら指導する山崎さん

月に2日のジュニア吹奏楽団での指導は、学校の部活動以外の仕事ということになる。
ジュニア楽団には、4校の中学生が参加しているため、活動の日は山崎先生以外の吹奏楽部顧問の教員は休日になる。
4人の教員のうち、3人は負担が減ったが、皮肉にも地域移行を担う指導者が教員となってしまった。

敦賀市民ジュニア吹奏楽団・山崎佑太さん:
教員として携わっているのは、敦賀市内で僕だけだが、僕だけが負担を負っているとは思っていないし、働き方改革ということでも、とても大きなことではないか

敦賀市民ジュニア吹奏楽団・山崎佑太さん:
僕の場合は、プライベートで自由だったとしても何かしら音楽のことをやっていると思うので、そういう側面もある。でも、好きじゃないとできないなと思う

今後、「最終的には教員に任せる」ということにならないような仕組みが求められる。

活動の披露の場は…国は「在り方」を明確にせず

もう一つ課題がある。このジュニア吹奏楽団には、今のところ演奏を披露するという予定はない。

地域移行した部活の在り方について、国は明確に示していないため、市の教育委員会も「地域部活動」の先が見通せていないのだ。
敦賀市議会での一幕で、教育長も苦しい胸の内を明かしている。

敦賀市教育委員会・上野弘教育長:
吹奏楽についても、コンクールなどへの参加について合同チームでの参加は認められておらず、ジュニア吹奏楽団の出場は当面望めない。“教育は国家100年の計”。国が責任もって、ある程度スキームを示さないと、われわれとしても進めようがない

敦賀市教育委員会・上野弘教育長
敦賀市教育委員会・上野弘教育長

さらに平日は部活動、土曜は地域の活動。2つが同時に並行して行われている状態について、専門家は警鐘を鳴らす。

名古屋大学(教育社会学)・内田良准教授:
今まで学校の部活というのは、学校のものとして何らか管理ができた。ところが、活動主体が全く別になったときに、この2つのバランスをどうとるのか、全体をどう管理するのか、その管理者って一体誰なのかというのが、実は全く整備されていなくて、非常に危うい

名古屋大学(教育社会学)・内田良准教授
名古屋大学(教育社会学)・内田良准教授

手探りの状態でスタートした「部活の地域移行」。
生徒にとっても教員にとっても、安全で安心な活動となるよう、国や行政はその将来像を明確にし、主導していくことが求められる。

(福井テレビ)

福井テレビ
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