家庭での害虫対策といえば殺虫剤を使っている人は多いだろう。しかし農業の現場では、レーザーで害虫を撃ち落とす技術開発が進められている。

(出典:農研機構)
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そして、このレーザーを害虫にピンポイントで照射できるようにするため、日本の農業と食品産業の研究開発を行う農研機構が、害虫の飛行位置を予測する方法を開発した。

同機構は、幼虫が食害被害を起こすハスモンヨトウ(ガの一種)の成虫(体長 約15~20mm)が飛ぶ様子を、2台のカメラを平行にならべた撮影装置で立体的に計測。さらに、検出した位置にそのままレーザーを照射してもタイムラグがあるため命中しないことから、飛行パターンを分析し、リアルタイムの画像から0.03秒先のガの位置を予測(精度は1.4cm程度)することに成功したのだ。

飛翔するガの画像が連なっている (出典:農研機構)
飛翔するガの画像が連なっている (出典:農研機構)

この予測技術によって、ガに高出力レーザーを照射することが可能になるという。新たな害虫の駆除システムとして期待されており、同機構は2025年までの実用化を目指すとしている。

開発の背景には、現在の害虫駆除で主に使われている殺虫剤(化学農薬)が、多額のコストや長期の開発期間が必要なため、新しい農薬の登場が徐々に減少しているということがある。

その上、同じ農薬を使い続けることで殺虫効果が薄れたり、環境への影響が心配されることから、殺虫剤ではない新たな駆除方法の開発が急がれていた。

“レーザー狙撃”はこのような効果が低下する心配がなく、また環境への負荷も少ないことから期待されているという。

巡回ドローンがレーザーで害虫退治も

このような害虫駆除が実現できれば、たしかにいろいろな面から考えても良さそうだ。しかし、このレーザーは人間も働く場所で使うことになると思うが、人体への影響などは大丈夫なのか?

また、家庭のハエや蚊には使えないのだろうか? 気になる点を担当者に聞いてみた。


――レーザーで害虫を駆除しようと考えたきっかけは?

近年、東北大学において青色光の殺虫効果が見いだされ、一部の虫を対象にした青色LEDの殺虫装置も開発されています。

しかしLEDでは圃場(※編集部注:田や畑など農産物を育てる場所)のような広い面積に強い光を効率よく照射することが難しく、農業現場における実用化のネックとなっていました。そこでLEDに代わる技術としてレーザー光を採用し、圃場に照射するのではなく侵入してきた害虫を狙撃するという発想に至りました。


――レーザー狙撃のメリットは?コスト面ではどうなの?

レーザーのような物理的防除法は、化学農薬のように害虫の抵抗性を発達させることがないと期待できます。

また、農産物輸出時の相手国に適合した残留農薬基準をクリアしやすくなることや、農業従事者への農薬暴露の問題回避、有機栽培の後押しなどにつながると考えています。将来的には移動型ロボットやドローンなどにレーザー装置を搭載し、それらが圃場を巡回して害虫を狙撃していくというシステムを想定しており、農薬散布に費やす労力を削減することができます。

レーザー装置のコストも現在のところ数万円台と見込んでおり、農家への導入も容易だと考えています。


――しかし、他の害虫を狙撃するにはまた新たな解析が必要となる?

そのように考えてよろしいかと思います。別の害虫を対象にする場合、その害虫の飛行パターンを新たに解析する必要があります。ただし、害虫の体長や飛行速度が類似するものは、ハスモンヨトウの予測方法がそのまま使えると考えています。

人にレーザーが当たることはない?

――人への影響は大丈夫?

仮にレーザーが人に当たった場合、体に当たっても大丈夫ですが、目に入った場合は危険になることもあります。しかし以下4つのレーザー安全確保方法を取るのでまず当たることはなく安全です。

1.ビームは虫に当たるので、基本的には後方へレーザービームはいきません。
2.もし当たらない場合でも、虫近傍にビームを絞り込むので遠方では広がって安全です。例えば100m先でクラス2という安全基準を満たします。
3.飛んでいる虫を狙って下から上に狙撃するので、基本その空間に人間はいません。
4.カメラで人間を認識し、近くにいる場合は狙撃しません。

またハスモンヨトウは夜行性であるため、レーザー装置は圃場に人がいない夜間に稼働することになります。この点でも人に当たるリスクは極めて低くなります。
なお現在想定している出力と照射時間では枯れ葉や木が焼けることはありません。

――次はどんな研究を進めていくの?

害虫検出装置とレーザー狙撃装置を統合し、圃場での実証を行うことに注力します。現在行っている室内試験と違い、圃場環境では様々なものが映り込みますので、正確に害虫を検出するにはさらに工夫が必要になると考えています。


――蚊やハエなど、家庭向けに応用する可能性は?

農業現場への応用を主眼に研究を進めていますが、将来的には家庭用など応用範囲を広げることができるかもしれません。

(出典:農研機構)
(出典:農研機構)

レーザーで害虫を“狙撃”するという近未来の世界のような技術が開発されているが、コスト面もそこまで高くはなさそうで、担い手不足がいわれる農業の強い味方になるかもしれない。
そして、家庭向けに応用される未来も楽しみに待ちたい。