「日本人も帰って来るな」の愚

岸田文雄政権が外国人の入国禁止を打ち出した時はちょっとびっくりしたが、さらに在外邦人の帰国便の予約停止をしたことには耳を疑った。海外にいる国民に「帰って来るな」って、それは民主主義国家じゃないぞ!幸い間違いに気づいてすぐに引っ込めたが大丈夫なのかこの政権は?と心配になった。

しかし一連の動きについてテレビや新聞などのメディアは岸田政権に対し「理解ある」報道を続けた。また僕は「国民に帰って来るなってけしからんだろ」という話を3カ所くらいでしたのだが反応は薄かった。もしかしたら国民は岸田政権の水際対策を評価しているのか、まさか支持率は上がるのか、と思っていたら、案の定、週末に読売が行った調査では内閣支持率は前月から6P上がって62%、水際対策は89%が評価した。なるほど、そういうことか。

内閣支持率上昇中の岸田政権
内閣支持率上昇中の岸田政権
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岸田さんは評価されている

海外に出かけた自国民を帰国させないというのは問題外だとしても、外国人を一律に入国させない、すなわち鎖国政策は中国やイスラエルなど「特別な」国はともかく、「普通の」民主主義国家ではあまりやらない。

しかも米政府のファウチ首席医療顧問は5日、CNNの番組でオミクロン型について「断定は慎重に」としながらも症状について「さほど深刻ではないようだ」と述べ重症化率が高くない可能性を指摘した。

日本政府の水際対策変更で予約を再開した航空会社
日本政府の水際対策変更で予約を再開した航空会社

このような状況で日本の「素早い対応」は世界で突出している。僕は個人的には「やり過ぎ」だと思うし、同様の意見をネットではいくつか見たが多勢に無勢の印象だ。なにせ9割の国民が岸田政権の水際対策を評価しているのだからそれがすべてだ。

日本はコロナ感染による死者の数を見る限り欧米各国に比べ被害は少ない。ただ経済については製造業などで業績が戻っているが欧米に比べると消費が戻っていない。なぜ日本だけが消費が戻らないのか。たぶんそれはコロナを抑えると消費はヘコむということなのだろう。

キシダノミクスは買いかもしれない

菅義偉政権はワクチン接種に集中する一方でウイズコロナを模索したため「対策が後手」という批判を浴び退陣した。安倍政権も同様の批判を浴びた。岸田政権はウイズコロナよりゼロコロナの方に軸足を置いているようにも見えるが国民はこれを支持している。

「ウイズコロナ」政策で失敗した安倍政権と菅政権
「ウイズコロナ」政策で失敗した安倍政権と菅政権

つまりこれが「日本」なのだ。ゼロコロナで経済がヘコんでも何とかなるとみんな思っている。今回の18歳以下の10万円給付以外にも、雇用調整助成金とか、二重、三重に助けてくれる枠組み、すなわち社会の余力がある。もちろんそこからこぼれる人もいるわけだが。

そういう国においては安倍氏や菅氏のように欧米と同じようにウイズコロナで感染防止と経済維持を両立させる政策は受け入れられない。経済はとりあえず止めて感染も止めて国民を安心させてそれから経済を再開させるというやり方の方が好まれる。いい悪いは別にして。

バラマキも含めて僕があまり好きでない岸田政権の政策は実は日本にはマッチしているのかもしれない。だとしたらキシダノミクスは買いだ。好き嫌いではない。政治とはそういうものだ。もちろん先のことはわからない。オミクロンが重症化しないただの風邪だったら。日本だけ経済が戻らなかったら。だが政治は常に賭けである。岸田さんは安倍さんや菅さんと違う方に賭けたということなのだ。

でもゼロコロナにしてもバラマキにしても立憲や共産が言ってきた政策に似てないか?そのせいか、首相の所信表明を聞いた立憲の泉代表は「立憲が掲げてきた言葉が随所にあった」「具体的な施策を見ていきたい」など他の野党に比べずいぶん優しい反応だった。岸田さんと泉さんは気が合うかもしれない。

岸田首相と「気が合う」のか? 立憲民主党の泉健太代表
岸田首相と「気が合う」のか? 立憲民主党の泉健太代表

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。