党員票は実は接戦らしい
自民党総裁選で河野規制改革相が石破元幹事長に協力を要請したのは意外だった。石破氏は自らの立候補を見送り河野氏を支援するという。河野総裁、石破幹事長ということになるのだろうか。だとしたら安倍前首相、麻生財務相は全くおもしろくないだろう。そもそも石破氏は出馬できずに河野氏の支援に回るという情報も流れていたのに、なぜわざわざ河野氏の方から石破氏の事務所に出向いて「お願い」したのだろうか。

週末の世論調査では自民支持層で見ると、
日経は①河野(31%)②岸田(17%)③石破(13%)④高市(12%)、
朝日は①河野(42%)②岸田(19%)③石破(13%)④高市(12%)で、
河野氏が岸田、高市両氏をかなりリードしている。
これなら石破氏にお願いしなくても河野氏は勝てそうな気もするのだが、日本テレビが行った党員と党友の調査結果を見てなるほどと思った。
結果は①河野(25%)②石破(21%)③岸田(16%)④高市(16%)と4人が拮抗しているのだ。これだと河野氏はうかうかしていられない。だから石破氏に支援を頼んだのか。
河野氏の負けパターンとは
ただ河野氏にとっては賭けである。これで党員や若い議員を中心に「地すべり」的に票を集めて一回目の投票で過半数を取るというのが勝ちパターン。逆に負けパターンは「石破幹事長」で安倍麻生連合に火がついて、そこに竹下派も乗り、なんとか2回目の投票に持ち込んで2位3位連合で河野氏を倒すというシナリオだ。なお野田幹事長代行出馬の情報があるが、もし出たら河野氏の一回目過半数が厳しくなるだろう。
河野氏の人気は以前から高かったが、意外だったのは他の2人に比べて地味な岸田氏の人気が落ちてないことと、3人の中では無名だった高市氏が急速に支持を集めていることだ。岸田氏はやはり安定感があるし、高市氏はブレないのと、会見やテレビ出演での受け答えが実にうまい。選挙戦は中盤だがまだ3人とも勝ち目はある。

僕は個人的には「口下手だがズバッと切り込む」菅首相が続投すべきだったといまだに思っているので、この3人には「ホントにできるのか」とやや意地悪な見方をしているのだが、今回の選挙戦でよかったと思ったことが一つある。
自民党の政策軸が戻ってよかった!
当初、僕から見て石破氏を含めた4人は、高市氏だけが保守であとの3人はリベラルであり、「自民党の軸がずいぶん左に行っちゃったなあ」と心配していたのだ。しかし選挙戦に入って、岸田氏が「改憲に前向き」「女系天皇に反対」の姿勢を打ち出し、河野氏も「原発再稼働容認」「男系天皇維持」と、これまでの主張を修正した。安倍氏を中心とする党内保守層に配慮したためだが、いったん左に行った自民党の政策軸が右にまたググーッと戻ってきたことに正直ホッとした。これは安倍さんのグッジョブである。

新しいリーダーに期待はするが、原発再稼働を止めたり、いきなり女系天皇を容認されるのはちょっと困る。おそらく経済や社会は混乱して政権ももたなくなるのではないか。こういったリベラル派の路線変更を「変節」と批判するのは簡単だが、多数の支持がないとリーダーにはなれないし、政策も実行に移せないのだから、「修正」する力は必要だ。高市氏が金融所得増税を「物価安定目標2%の達成後」と修正したことも良かった。
理想のリーダーなどなかなか見つからない。首相候補の人達が「私がこう修正すれば支持してもらえますか?」と政治家や有権者に謙虚に問いかけることは悪い事ではないと思うのだ。
【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】
【表紙の平井解説委員のイラスト:さいとうひさし】