武装勢力タリバンが政権を掌握したアフガニスタンで、今も現地にとどまり人道支援活動を続けるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の日本人職員 森山毅さんが2021年9月9日、報道各社の取材に応じた。

混乱を恐れアフガニスタンから退避する人々とは対照的に、森山さんは現地に残り、難民支援の仕事を全うする覚悟だ。アフガニスタンがどう変わるかが、世界に影響すると考えている。重要なのは「今の環境でどこまで出来るのか」であり、そのためにできるだけのことをしたいと語る森山さん。そのインタビューを詳報する。

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避難民の現状

森山毅さん:
アフガニスタンは周辺国(パキスタン、イラン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、中国)と地続きで国境が問題となっている。UNHCRはアフガニスタンの401地区中、300近くの地区に拠点を置き、国境付近に難民が出ているかを見ていて、国内避難民の数が2020年末時点で300万人以上となっていた。

我々はアフガニスタン国内の避難民の方々がいる場所に直接行って状況を聞き取っているが、避難民の方々は紛争が40年続き「もうこりごりだ」と語っている。安全、職業確保、そして教育で言うと大学以上の教育機関が不足。1999年までは女性のうち中等教育を受けた人の割合が0%だった。(タリバン制圧後は)これからを見守っていくことになるが、UNHCRとしては「行動の自由」「教育の自由」「表現の自由」という“自由の防衛”を進める。食料や毛布を配る緊急援助活動に加え、避難民の方々の状況を落ち着かせるために必要なものは何かという視点で進める。

例えば2021年に入って19の学校を建てていて、この2カ月間は作業が難しい状況にあるが、19のうち3つは高等教育で、2つは女性専用のものだ。UNHCRとしては「ここにずっと残って避難民の方々のために仕事をしていく」というのが基本的な立場だ。

これから政権がどう運営されるのかは分からない。今のところはまだ、女性の閣僚が発表されていないし、ハザラ人(アフガニスタンの少数民族の一つ。多数派のパシュトゥン人らから迫害を受けてきた)への対応についてもまだ情報がない。8月14日まで全土での紛争状態が続き、今はパンジシールの辺りでは未だ避難民が出ているが、その付近以外ではだんだん状況は落ち着く方向に向かっている。

とはいえ8月30日までアメリカを筆頭に国外退避があったなか、国境としてはパキスタンとの国境スピン・ボルダックは“開いている”状況だ。モニタリングの結果としてはそこに人々が向かっていて、他の国境ではビザやパスポートがなければ通れない。国内避難民、海外に逃れる人が増える可能性がある。

アフガニスタン・マザリシャリフにて撮影 ©️UNHCR
アフガニスタン・マザリシャリフにて撮影 ©️UNHCR

難民の解決という観点では第三国定住についても問題がある。難民申請の中で1%くらいしか(定住に)結びついていない。難民については1つの国でまかなうことはできないから、世界全体で協力しあってやっていくことが重要だ。緊急援助をしながらソリューションに向けていくことが重要だ。

あとは、国境だ。国境をオープンにするということが大重要。アフガニスタンの政権側とタリバンの間に紛争があったときに検問が設置され、国境へのアクセスがしにくくなっているという問題もある。

アフガニスタンとパキスタンの国境付近にて撮影 ⒸUNHCR
アフガニスタンとパキスタンの国境付近にて撮影 ⒸUNHCR

女性スタッフが現場に行けない

さらに、女性のスタッフが現場で働きにくくなってきている。我々の仕事は、現場で話をして状況を把握する必要があり、そのときに女性がいないとなかなか女性のニーズがつかみにくい。これからどうなるかは分からないが、例としてはスピン・ボルダックというパキスタンとの国境でも、女性スタッフが現場に行けなくなっている。他方で別のイランとの国境には行けていたり、今のところは最終的な見通しが無いが、全体で見てみると、女性のスタッフが現場に出られなくなっている。

アフガニスタン・マザリシャリフにて撮影 ⒸUNHCR
アフガニスタン・マザリシャリフにて撮影 ⒸUNHCR

――8月15日にタリバンがカブールを制圧して以来、UNHCRの活動にどれだけ影響が出たのか。当時の状況に加えてタリバンが活動についてどういうアプローチをしているのか

森山毅さん:
現地NGO職員を含めて1000人弱のスタッフの状況、さらにその家族、特にパシュトゥン人(タリバン構成員の多くを占める国内の多数派民族)ではない方々の状況を懸念した。次に懸念したのが活動に必要である物資、車に加えて地方の飛行場がどうなるのかだ。

3カ月か4カ月前までは、我々としてはタリバンと交渉していなかったが、状況がガラっと変わったので、以来交渉を続けてきた。徐々にやっていき、これから話し合いが続くと思う。2日前に発表された閣僚(Ministry of Refugees And Repatriation:難民帰還相)も我々の対応をこれまで担当してきた人物が選ばれている。

――タリバンは国際機関の活動に協力的なのか

森山毅さん:
そうだ。

――現地の方々の声について

森山毅さん:
現地の方々からは「職業や教育のアクセスを増やしてもらいたい」という声が多い。紛争をなくし食料を確保し子どもに学校へ行ってもらいたい、という希望が強く出ている。

――支援活動はこれからではないかと思う。難民、学校の問題についても

森山毅さん:
紛争が絶えず、国内難民が増えているなか、政変によってその数はさらに増えるだろう。UNHCRとしては女性教育の拡充に力を注いできたが、どうなるのか懸念している。あと何年で支援活動が軌道に乗るのかは見えてきていないがニーズは多い。この政権がいかに落ち着いた運営をできるのかというのが課題だ。

銀行が機能せず市民生活に影響

――カブール国際空港周辺や市内の現状と生活経済面の変化について

森山毅さん:
今いるのは飛行場から1キロメートル以内のところだ。当時は銃声や爆発音が聞こえたが、今はない。少し前、パンジシール(反タリバン勢力が拠点としている地域)の制圧について勘違いした人が空に向けて銃を撃ったということもあったが、空港周辺も人の数は減ってきている。問題は銀行が機能していないことだ。雇用の問題を含めて経済は逼迫している。国境はトラックの行き来は出来ているが、その数が減ってきている。物資が減ってインフレが起きているところもあるのかもしれない。大きな問題は銀行が機能していないことで、1週間に200ドルしか下ろせないとも聞く。

アフガニスタン・マザリシャリフにて撮影 ⒸUNHCR
アフガニスタン・マザリシャリフにて撮影 ⒸUNHCR

――女性が現場に行けない状況になったのは、何らかのアナウンスが影響?

森山毅さん:
タリバン側から「女性は外に出て仕事をしないように」と言われていた。しかし“国連スタッフについては女性であっても仕事を続けてください”という話が最近会議の場で出てきた。

――まだ明示的に「女性も現場に出て良い」と言ってきているわけではないか

森山毅さん:
クリアにはまだ言ってきていない。

――タリバンの担当者の発言について

森山毅さん:
今のところは“活動は続けてもらいたい”と話している。

アフガニスタン・マザリシャリフにて撮影 ⒸUNHCR
アフガニスタン・マザリシャリフにて撮影 ⒸUNHCR

アフガニスタンに留まる理由

――この危険性が高まる状況下で仕事にあたる心情について

森山毅さん:
この仕事を全うしようと自分でここに残るということを決めてやっている。僕としては難民の仕事を23年ほどやってきて、本当にこの仕事というのが「頂点」というとおかしいが、アフガニスタンというのは難民の仕事に関して数ある中のメインの国だ。実際にアフガニスタンがどう変わっていくかということが世界的に影響すると思う。

今何が難しいかというとやはりテロリストだと思うが、タリバンが政権を取った後、実際に住んでいる方がどう生活できるのかというところは社会がまとまっていく基盤だと思う。やはり基本は女性であり、家族の中の安定が大事だと僕は思っていて、女性が仕事できないという状況ではうまくいかない。

社会基盤を作っていくことが成功しなければ難民がこれからどんどん増えていくと思うし、だからこれはここに留まってやる、というのが普通の流れというか僕としては全然違和感がない。何だろう・・・自分が仕事をしてきて、これを仕事としていなかったら今まで何をやっていたのかな、というのはあって。「今の環境でどこまで出来るのか」というのが今まで仕事をやってきていちばん重要な部分で、だから自分としてもできるだけやりたいな、というのが自分の心情だ。

アフガニスタン・マザリシャリフにて撮影 ⒸUNHCR
アフガニスタン・マザリシャリフにて撮影 ⒸUNHCR

――国境を開けておくことが重要であるという点。現状の国境について

森山毅さん:
国境についてはパキスタンにあるUNHCRオフィスとも協力しながらそれぞれの政府に訴えかける形で動いている。もちろんジュネーブ本部からも。状況としては例えばきょうスピン・ボルダックで国境を越えられない人々が出てきた。今までは超えられてきたが「その地域の住民票を持っていない人はダメだ」という方針が出てきた。

超えられない人は、次の日に越えられるわけだが、数が限られるようになったことが問題だ。2000年代にパキスタンに逃れた人々は、逃れた後に子どもを産んでいたりするが、生活は過酷だ。家を出る、という決断も難しいと思う。しかし状況が悪化すれば数は増える。

アフガニスタンとパキスタンの国境付近にて撮影 ⒸUNHCR
アフガニスタンとパキスタンの国境付近にて撮影 ⒸUNHCR

――アフガニスタンの人々とりわけ国内避難民の方々は何を最も必要としているのか。UNHCRとして日本含め国際社会に何を求めるか

森山毅さん:
最も望んでいるのは治安の維持。それから仕事。銀行を含めて生活が上手くいっておらず、きれいな水も届かない。移動も出来ない。我々の仕事への期待感は高まっていると感じていて、我々としてできる限りのことはしていく。学校などに加え、生命の危機に際している方々への食料物資などの提供も進めていく。

森山毅(もりやま・たけし)プロフィール
UNHCRアフガニスタン・カブール事務所 シニア緊急対応コーディネーター
カリフォルニア大学ロサンゼルス校卒業後、商社勤務を経て、ニューヨーク大学院にて行政学の修士号を取得。1998年 UNHCRに加入。オーストラリアを皮切りに、パプアニューギニア、ミャンマー、パキスタン、ネパール、イラク、タンザニア、北オセチア、リベリア、イエメン、南スーダン、ジュネーブ本部、ソマリア、チュニジアを経て2020年9月から現職。

国連難民高等弁務官事務所と国連UNHCR協会は、アフガニスタンでの人道支援について、募金への協力を呼びかけている。多忙を極める活動のさなか取材に応じてくださった森山さん、仲介を含め、多くの対応に当たってくださった関係者の皆様に心から御礼を申し上げたい。

【執筆:FNNバンコク支局長 百武弘一朗】

百武弘一朗
百武弘一朗

FNN プロデュース部 1986年11月生まれ。國學院大學久我山高校、立命館大学卒。社会部(警視庁、司法、宮内庁、麻取部など)、報道番組(ディレクター)、FNNバンコク支局を経て現職。