いま金沢の街中を歩くと、ちょっと変わったアートがそこかしこにある。芸術祭を企画したのは、新型コロナで社会が疲弊する中でもアートの力を信じた若者たちだ。

「作家が主体的に開く展覧会」を目指して

屋上に現れた、鉄のイヌ。神農理恵さん作の「dog run」。

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かつての薬問屋に響く、氷の音。タイトルは「それは、BGM(熱の皮膚を交換する)」。

これらは、東京の若手芸術家たちが企画した芸術祭「ストレンジャーによろしく」に出展された作品。

「ストレンジャーによろしく」共同代表・多田恋一朗さん:
現代アートの面白いところは、その場ではわからなくても10年後、20年後まで残る違和感。僕は「毒」って呼んでるんですけど、それをスっと刺して

芸術祭を企画した1人である多田恋一朗さん。金沢に滞在し、準備を進めてきた。

「ストレンジャーによろしく」共同代表・多田恋一朗さん:
ここも会場になるので。こういうちょっとした子どもの絵と、黒い立体作品

しかし、2020年3月、緊急事態宣言が発令され、出展を予定していた作品にも影響が。

「ストレンジャーによろしく」共同代表・多田恋一朗さん:
決まっていた展示会が色々となくなっていって、もちろんコロナなので仕方ないですし、美術館やギャラリーを責めることは誰もしていないけど…アーティストが作品を見せる権利を持っていたと思っていたけど、意外とそうでもないんだなって。やるやらないの判断は、ギャラリストや学芸員がする

大規模な展覧会は、専門知識と人脈を持つキュレーター(学芸員)やギャラリスト(美術商)が運営するのが一般的。作家はそこから依頼されて、初めて作品を展示することができる。

「ストレンジャーによろしく」共同代表・多田恋一朗さん:
選ぶ側と選ばれる側という構図だけになってしまうと従属性が生まれて、そういう構造の中でハラスメントなどがコロナ禍で表出した。アーティストが好き勝手やるお祭りみたいなものをこのタイミングですることによって、アーティストの能動性や主体性を改めて示したい

「ストレンジャーによろしく」共同代表の多田恋一朗さん
「ストレンジャーによろしく」共同代表の多田恋一朗さん

作家が主体的に開く展覧会を…。展示場所の交渉や協賛金集めなど、全て自分たちで行った。

「ストレンジャーによろしく」共同代表・多田恋一朗さん:
もともとはお店が入ってたらしいんですけど、もう何年も使われていない。ビル一棟貸りてるって感じですね

会場は14カ所。金沢と東京から総勢37人の若手作家が参加する。

「ストレンジャーによろしく」共同代表・谷口洸さん:
その人らしさが垣間見えるというか、この人何かやりたいことがあるなって、ふと思えるのが、出てほしい作家さん

参加した作家:
自由にやらせてもらえるのがありがたい。めっちゃくちゃ楽しかったですね

コロナ禍での開催…その決意

作家たちはこの1年、制作を制限され耐えてきた。だが、芸術祭が開かれる8月20日から9月12日まで、金沢は「まん延防止」の対象となった。

西村経済再生担当相:
北海道、石川県、福岡県についても急激に新規感染者数が増えているため、まん延防止等重点措置の対象としたい

「ストレンジャーによろしく」共同代表・多田恋一朗さん:
いやー、本当にショックですね

――中止は全く考えなかった?

「ストレンジャーによろしく」共同代表・多田恋一朗さん:
中止だけは絶対考えなかったですね。コロナの中でアーティストも気分が沈んでいったので、明るいお祭りは絶対必要だと思っていたので

そして8月20日、ついに芸術祭が開幕した。

金沢市民:
若い彼らだけどしっかり考えていて、こっちも若返ったような気がして楽しかった

美術大学の学生:
緊急じゃないと言われる可能性だってあるし、今やるべきことじゃないって言われたとしても、意義をもってやるということは覚悟のいることだと思う。その決意を見に来た

多田さんの作品「ブラックアウト」。金沢への愛情と、一方で最後まで“よそ者”だった自分。そのジレンマを表現した。

「ストレンジャーによろしく」共同代表・多田恋一朗さん:
ここは人数制限を1人にしています。自分を見つめ直すきっかけにもなれば

自分が作る意味を問い直したこの1年。気が付いたことがあるという。

「ストレンジャーによろしく」共同代表・多田恋一朗さん:
自分の純粋な制作意欲みたいなものが、一番大事なんだなって改めて感じました。今は絵が好きで書いていた、小学生とか中学生の時のような気持ちです

芸術祭「ストレンジャーによろしく」は週の半分のみの開催となるため、次に作品が公開されるのは9月10日(金)~12日(日)の3日間。

(石川テレビ)

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