新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、被爆の継承活動に大きな影響を与えている。

長崎に原爆が投下された8月9日を伝え続けてきた被爆者は今、何を思っているのか。コロナ禍で葛藤する一人の被爆者の姿を追った。

コロナ禍で被爆体験講話のキャンセル相次ぐ

被爆者・山川剛さん:
キャンセル、キャンセル。病院の日程はガッチリ入っている。ゼロ…。(被爆体験講話が)2年続けて、例年一番多い5月に一校もない

被爆者の山川剛さん、84歳。新型コロナウイルスの感染拡大が、若い世代へ被爆体験を語り継ぐ活動に影を落としている。

山川剛さん(84)
山川剛さん(84)
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被爆体験講話を始めて24年。年間90回近くも行っていた講話は、2020年は全く予定が入らず、2021年もキャンセルが相次いでいる。

被爆体験講話のキャンセルが続く
被爆体験講話のキャンセルが続く

被爆者・山川剛さん:
将来を任せている若い人、子供たち、聞く機会を失っていることに対する虚しさ…。そういう機会を奪われている状態に対して、早く収まってくれないといけないという気はします

1936年、長崎市で生まれた山川さんは浪平国民学校の3年生、8歳の時に8月9日を迎えた。

長崎に投下された原爆
長崎に投下された原爆

被爆者・山川剛さん:
ここなんですよ、もちろんここの家もなかったしね、何もなかった。このあたりでしたという以外ない。地面があって崖があったら、そこに掘ってあった

爆心地から約4.3kmの長崎市浪の平町は、山川さんが被爆した場所だ。

被爆者・山川剛さん:
手のひらにのせていた泥まんじゅうを地面に置くじゃない。立ち上がった瞬間にピカッと来た。何が起こったかわからない。だけど、無意識に防空壕に飛び込ませるという、その熱線だったということは間違いない

当時の様子を語る山川剛さん
当時の様子を語る山川剛さん

逃げ込んだ防空壕は、すでにコンクリートでふさがれている。長い年月が経ち、コケや木々に覆われていて防空壕の跡は確認することができないが、山川さんの記憶にはしっかりと刻まれている。

防空壕は木々に覆われ見えない
防空壕は木々に覆われ見えない

被爆者・山川剛さん:
ここに(防空壕が)あって、こういう人がいたんだよというのは書き残しておく、誰かに伝えておく。それこそ継承していかないと、完全にゼロになる

対面でなくても…子どもたちに伝える思い

山川さんは、小学校教諭を36年間務めた後、2005年からは活水高校の非常勤講師として「長崎平和学」の授業を受け持っていた。

その傍ら、毎月9日には平和公園で行われる「反核9の日 座り込み」や、安保違憲訴訟で声を上げるなど、積極的に平和運動に参加している。

反核9の日 座り込み(7月9日)
反核9の日 座り込み(7月9日)

長崎原爆の日まで1カ月となった7月9日、山川さんは長崎市立城山小学校を訪れた。今年数少ない、被爆体験講話の依頼があったのだ。

被爆者・山川剛さん:
あっ、これはB29だ。学校で飛行機の音を聞き分ける授業が戦争中にあった。こんな悲しい勉強が戦争中にあるんですね。一発で分かった、これはB29だと。ピカーッときました。私は目を開けていたが、周りの風景が一瞬消えるんです

児童に被爆体験を語る山川さん
児童に被爆体験を語る山川さん

新型コロナ対策のため、対面で聞くのは小学6年生だけ。山川さんの前に置かれたカメラを通して、各教室に講話が配信される。

被爆者・山川剛さん:
コロナがなくても、被爆者が1人もいなくなる時代がくる。被爆していない人が喋るということになる。対面以外の方法もあるかもしれない。被爆者がいない時代に、被爆体験講話はどうあるんだろうと、今のコロナの時代は考えてみなさいと言っているような感じがする

対面ではなかったが、子どもたちはしっかりと話に耳を傾けてくれた。

被爆者・山川剛さん:
爆心地の上空500メートルで原爆が炸裂しました。私は左側に熱い光を受けました。今まで受けたことがない熱い光です

「繰り返してはいけない」次世代につなぐ平和への決意

山川さんは 2021年1月に核兵器の使用や保有、威嚇などを全面的に禁止する「核兵器禁止条約」が発効されたことに触れ、「二度と被爆者を作らない、世界中の核兵器をゼロにすることはできる」と強く訴えた。

被爆者・山川剛さん:
核兵器は全てダメだと、この地球上にあることすら許せない、全て核兵器は悪であるということが初めて国際的に決められたのがこの条約。将来、核兵器はなくせるという希望を私は皆さんに伝えたいと思っている

講話を聞いた児童:
被爆者の方の実際の体験を元にした思いが、私たちだと分からないので、そういうことが聞けたのでよかった

講話を聞いた児童:
自分の平和への思いや、核兵器をなくしたり、戦争は絶対にしないでいこうということを皆さんに伝えていきます

一人でも多くの子どもたちに被爆体験の継承ができるように、そして、体力が続く限り語り続けたいと山川さんは使命感に駆られている。

被爆者・山川剛さん:
伝える方法は変わったにしても、伝える中身は一緒なんですよ。本当に起こったらどうなったか言えるのは、私たちですから。だから繰り返したらいかんと、目の前の子どもを将来、被爆者にしたらいかん、僕たちだけでたくさんなんだ

被爆者・山川剛さん:
だから、今とこれからを生きていく人たちに対して、二度とこういうことが起こらないようにするには、起こったとしたらこうなったということをきちんと正確に伝えないといけないというのが、継承の意味だと思う

山川さんは約3年前に狭心症を発症し、左胸にはペースメーカーを入れている。最近では体重が減り、その形が浮かび上がってきている。

小さな機械に生かされていると感じながらも、次世代への継承に力を注いでいく決意だ。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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