6月25日に行われた陸上・日本選手権、男子100メートル決勝で3位に入り、東京オリンピックの切符をつかんだ山縣亮太。

今月には布勢スプリント2021で日本新記録9秒95をマークしている。

オリンピックを間近に控えた山縣に、自らのある“心境の変化”と、オリンピックへの思いについて聞いた。

記録を先に出されるのが怖かった

「初めて五輪代表になった時から、ただ“負けたくない”って。もう『日本のトップじゃん』って思ったんですよね。そこから本当に負けるのが怖くなって、記録を先に出されるのが怖くなって。それでピリついていたと思います」

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そう語る山縣は、過去のレースの際にピリついていた自身について「自分の恥ずかしいところでもあるというか。“心境の変化”は大きいです」と明かす。

2012年、ロンドンオリンピックで初めて五輪に出場すると、10秒07の自己ベストを更新し、準決勝に進出。日本トップ選手になったこのあたりから、負けることへの恐怖を感じ始めていたという。

しかし近年は度重なるケガに泣かされ、その間、ライバルたちは次々と9秒台の壁を突破していった。

「負け慣れた」は過去からの脱却

東京オリンピックへの道のりが厳しさを増していく中、山縣はある変化が生まれたと話す。

「聞こえが悪いかもしれないんですけど、“負け慣れた”のかな。そういうのを受け入れられるようになったのは、心境の変化としてはあります」

勝負の世界に生きる男が口にした「負け慣れた」という言葉。そのきっかけは桐生祥秀の、10秒の壁の突破だった。

「桐生選手に9秒98の記録を先に出された後くらいから、そういう変化が始まった。いい意味でずっとチャレンジャーで居続けられるようになったのは、変化も恐れなくなったというか。『失敗しても怖くない』みたいな気持ちになりました」

「負け慣れた」ことは、負けることを恐れた過去の自分からの脱却でもあった。

コーチをつけずに一人で練習していたところから、今年2月、新たにコーチをつけることを決意。チームメートのサポートにも頼るようになった。

弱さを受け入れ“変化”していくことで、自らのベストを尽くすことにフォーカスできるようになったのだ。

力を出し切って決勝へ

東京オリンピック1カ月前の日本選手権で、ライバルを抑え見事選考レースを勝ち抜いた山縣。生まれ変わった男にオリンピックへの期待は高まる。

オリンピックでの目標は100mでの決勝進出と、リレーでの金メダルだ。

「自分の力を出し切れば、準決勝で9秒台を出して念願の決勝に出るということが現実味を帯びてくる。それに向かって最善の準備をしてリレーももちろん、リオで銀をとっているので、金メダルに向けてチーム一丸となって頑張りたい」

山縣の「心境の変化」の裏に、日本新記録、オリンピック内定へとつながった道のりがあった。